日本が学ぶべき点は? スペインのNO.1スーパー「メルカドーナ」成功の理由
日本ではまだ知られざる存在、スペイン屈指のスーパー「メルカドーナ」
「スペインまでわざわざスーパーを見に行かれるのですか。メルカドーナって?」日本では、業界内の関係者でさえ「メルカドーナ」の存在はあまり知られていない。しかし、メルカドーナはスペイン屈指の店舗数、1681店舗を誇るスーパーであり、スペインNO.1 の売り上げであると知ると、多くの関係者は驚かれる。実際、今回、現地で調査をしていくうちに「メルカドーナ」のAlways Low Price戦略のスペイン略語であるSPB(以下SPB)、そして店舗内の商品の4割強を誇るプライベートブランド(以下PB)の内容を知るにつれ、つけ焼き刃では作れない売り場と商品であることが一目瞭然なのだ。
メルカドーナの驚異の店舗数とスペインNO.1の売上
メルカドーナは1977年にファン・ロイグ現会長が創業。現在、1681店舗を展開し、そのうちポルトガルに49店舗出店しており、スペインではNO.1の売上を誇る。従業員は10万4000人(メルカドーナ「memoria-anual-2023」参照)。
2023年の売上高は15%増!
メルカドーナは、コロナ禍でも着実に成長し、昨年の売り上げは、2023年の連結売上高で355億2700万ユーロとなった。このうち341億2400万ユーロは、スペインでの事業に充てられ、残りの14億300万ユーロはポルトガル市場向けである。22年と比較すると、売り上げは15%増、純利益では、2022年比40%増の10億900万ユーロとなっている(メルカドーナ「memoria-anual-2023」参照)。驚異的な利益を生み出せたのは、単にスペインの経済成長の恩恵によるものではない。
スペインにおいても原料高騰
実際、2023年のスペインは、日本と同様に原料の高騰に直面し、厳しい状況である。
2023年度の一般消費者物価指数は、スペインで3.1%、ポルトガルで1.4%上昇し、特に一般食品消費者物価指数はスペインで7.3%、ポルトガルで1.7%上昇した(CEICデータ参照)。
物価が上昇するなか、価格引き下げ
2023年の物価指数が上がった主な要因は、ウクライナ問題からのエネルギー不足、原料の高騰、さらにヨーロッパの干ばつである。しかし、このような状況下でも、メルカドーナはコスト削減に取り組んだことで、1年間で500品目以上の販売価格を引き下げたのだ。これにより、顧客は年間最大150ユーロの節約できたとされる(メルカドーナ「memoria-anual-2023」参照)。
このような状況下では、メーカーとの価格交渉だけでは不十分で、長年にわたる店舗内の仕組み構築による効率化や製造段階での商品のブラッシュアップが必要であった。その根底には、顧客第一優先(メルカドーナでは顧客をボスと呼ぶ)という企業理念が社員にまで浸透成り立つことが肝要なのだ。
そこで今回は、メルカドーナの強みである売り場と商品に焦点を当て、見学の内容を紹介していく。
売り場を通して
メルカドーナの店舗内を訪れると、PB商品があらゆる棚に並び、大手メーカーのNB(ナショナルブランド)商品を探すのは難しいほどで、見つけたとしても、隅に置かれているような状況だ。PB商品がこれほどまでに凌駕するには、極力、商品数、つまりSKU(店舗内の商品を3000点まで)を減らすことが必要だ。回転率高めることで、作り手であるメーカーにも利益還元できるようになっている。勿論、在庫管理も大きなポイントとなり、店舗内の商品状況の把握も必要となる。
スペイン初のバーコードを1982年導入
1982年、現在ではごく当たりまえとされる商品のラベルのバーコード・スキャンをスペインで初めて導入したのがメルカドーナなのである。それにより商品状況を把握できるようになった。
1988年には、スペインでは最初の完全自動化倉庫を開設した。
同時にスーパー買収を手掛け、本社があるバレンシアを中心にドミナント戦略で店舗数を急速に増やしたのだ 。
トヨタの総合品質管理(以下TQM)を1993年採用
1993年には、トヨタのTQM(Total Quality Management)を採用し、店舗内の標準化を進めた。
TQMとは、企業のトップが制定した経営戦略を、ブレイクダウンして品質目標、顧客満足度目標まで落とし込んで全社的に展開することである。
TQMとしてメルカドーナでは、店舗内の標準化を手掛けた。これにより、顧客が今やスペインのあらゆる地域に点在するどのメルカドーナに行っても、商品の陳列場所がすぐさまわかるようにした。
例えば、冷凍庫、冷蔵庫は入口から一番離れた奥に設置された。
そして通路を広くすることにより、顧客は回遊しやすくなるのだ。
実際、マドリッドの市街地、SERRANO61にあるメルカドーナは、商業施設の中にあり、1階と2階とあわせて約600坪。日本でいう銀座のような立地で、店舗内は広くないため、見た瞬間、地代の高さから、これほどゆったりと通路をとるのは、もったいないようにも思えた。しかも1階、2階へ行くエスカレーターは、大きいカートに対応できるような広さとなっている。
顧客がくつろぎやすい店舗にすることが最優先であるというゆるがない方針が垣間見えた。
通路を広げる施策は、既存の店舗では対応できない店舗もあり、撤退することもあったとされる。
社内でのTQMによる効果
1993年、社内での統制にもTQMを導入したことで、健全な利益を生み出す仕組みにも導いた。メルカドーナでは、トップはあくまで顧客であり、満足してもらうために、優れた製品、低価格、質の高いサービスが必要であり、これを達成するには従業員のモチベーションをいかに上げるかも考慮していかなければならない。TQMにより、従業員はこれまで契約による雇用から、契約という縛りをなくすことで、安定した生活を確保していることを従業員に示したのだ。さらに賃金も上昇していった。2012年、所得税が上昇した際には、社員に向け、手当を支給することもあったとされる。また従業員教育に力を入れ、新入社員は入社して、TQMの集中コースで徹底してメルカドーナの哲学を学び、その後、どの部署に行ってもすぐに働けるようにして配置される。昇給に関しては、テストを施し、合格したものが上がっていく。従業員、供給者、メーカーにとって、透明性のある利益を得ることである。そして、これがPB商品に注力することのきっかけとなった。
1993年 SPB(常に低価格)を導入
まず1993年、メルカドーナでは割引、セールを廃止し、同時にSPB、つまり常に低価格であることを約束したのだ。それまでは、メルカドーナは特売などもしかけていた。当時、ハイパーマーケットが台頭しており、熾烈な戦いがあり、その対応策として割引、セールを行っていたのだ。
しかし、価格を闇雲に下げるといった安直な手法は、健全ではないし、結局、消耗戦となるのだ。これは長期的にみると、従業員、社会、そしてサプライヤーの収益を生まないことから、廃止に踏み切ったのだ。
低価格であり続けるために、コストのかかる販促もやめた。
一方、メーカーに対しては、売り場の商品数を3000アイテムまで減らし、絞り込みをすることで、一つの商品を大量に製造販売し、同時に回転率を高めることで、価格を引き下げる、もしくはインフレ率より低い価格にする。つまり薄利ではあるものの、安定した利益が生まれることをメーカーに約束し、保証したのだ。そして毎年、工場の工程の見直しをすることを義務付けしたことで、メルカドーナにとっても管理が可能となったのだ。
次なるステップ、PB商品の拡大へ
そして低価格であり続けながら利益を生むことを突き詰めると、製造まで手掛けること、つまりPB商品(プライベート商品)にいきつく。SPBを導入する以前の1986年には、1種類のPBワインはあったものの、メルカドーナによるとPB元年は、1996年からとされている。2008年に金融危機が起こった時、人々は安いブランドを購入し、それと同時に節約のために富裕層までもPB商品を多く購入するようになり、多くの顧客に支持されるようになった。
1996年に開始されたPB(プライベートブランド)の波
メルカドーナのPBは、4つに大きく分類される。そしてカテゴリーごとに名称が商品に記載されているのだ。
現在、4つのPB商品
・HACENDADO
オリーブオイル、菓子(チョコレート)などの食品。
・Bosque Verde
シャンプー、ボディソープなど。
・Deliplus
キッチン用品。
・Compy
ペット用品。
メルカドーナのPB商品の「HACENDADO」
ナッツ類の売り場では、納品される際の箱を利用し、売り場に並べている。
これら全て、HACENDADOとなっている。
ナッツ2.8ユーロは、粒が整っており、いずれもふっくらとした仕上がりであった。
今回、ヨーグルト売り場の上段にある「クレマ・カタラナ」4個入り2.4ユーロを購入。
食べる際には、オーブンを使って表面のキャラメルを焼く仕様となっている。しかし今回、ホテル滞在だったので、焼かずにそのまま頂いた。とろりと滑らかで濃厚な味でこの価格である(当時の日本円為替162円)。
下段には、大量に陳列しているスペインオムレツ2.6ユーロ。窒素充填であるため、通常より賞味期間が長く、管理しやすい形で提供している。
日本でもPB化に踏み切りたいと羨望するスーパーも増えてきている。しかし実際、採算に合うようにするには、丹念なマーケティングから紐解き、メーカーにも利益が生まれない限り、継続できない。メルカドーナは店舗でのヒアリング、そして徹底したマーケティングを開始したのだ。
PB商品が完成するまで 顧客に生活をしてもらい、観察から見えた事柄
PB商品が完成するまで、クライアントのニーズをより深めるため、全国のさまざまな店舗のあき部屋やスペースで人工住宅を作り、顧客にこれらの家で時間を過ごしてもらい、調理、食事、掃除、ペットの世話をしてもらった。そこで顧客行動を観察し、新たなる商品をPB商品として誕生させたのだ。その一つが濃度の濃いビネガーとビネガーシャンプーである。卓上に置かれている酢を顧客が食材に使用するだけでなく、髪を洗う際にも、使用していることが観察で判明した。そしてこれにより、ビネガーシャンプーを作り、成功した。
一方、失敗もあった。効率化を図るために魚、肉を全て工場でカットしてパックした。しかしこの方法だと、顧客に支持されないことが判明した。野菜は、鮮度を確かめるべく、手で触りたいという要望が強かったのだ。まるごとで売り場に陳列してみると、形が不ぞろいであっても、鮮度が良ければ購入してくれることがわかった。果物も同様に皮を外してカットされるとたちまち売れないため、ばら売りにしている。新鮮な野菜を販売している市場が多く点在するスペインにおいて、メルカドーナにとって市場が競合相手なのだ。鮮魚、肉に関しても、対面販売の売り場が好まれることがわかり、中でも生ハムは、目の前でカットされることがフレッシュだと評価される。これら生鮮三品は、加えて冷凍、パック商品という販売方法でも販売し、柔軟に対応している。
野菜売り場に入店してまず目に入るのが、この生ジュース絞り機。これでフレッシュさをアピール。
野菜売り場は、緑色に統一し、果物、野菜は、皮をむくより、手でさわることで鮮度がわかり、必要な量を購入できるばら売りやネットを入口近くでは販売している。
肉の売り場は、栗色で統一している。ハム・チーズなどは、顧客は急いでいない場合、目の前でカットしてくれることを望む。このことから売り場では、客の要望にあわせて、切りたてを提供できるようにした。
魚売り場は、青色で統一している。顧客の要望に応えて、さばいてくれる。
パンはどこでも製造できるため、配送センターに近いところに24時間稼働の工場を設置。そこから冷凍生地が店に到着するようになっており、店舗内で焼き上げる。1時間に1回、焼き立てのパンを提供している。
日本のスーパーの現状 メルカドーナを通して
メルカドーナを見学して、日本が今まさに辿っている状況と重ねてしまう。人手不足から、日本のスーパーでは、セントラルキッチンでの製造に一気に傾いてきている。もしかすると、それは良案であるように思えるのかもしれない。しかし、顧客にとって、セントラル製造の商品は、鮮度という概念から相反することにもなりかねない。そして、それは近年食品に注力するドラッグストアとの戦いにもなりえるのだ。
最近では、日本でも常に低価格であり続けるという業態(EDLP メルカドーナでいうSPB)が注目されている。本来、一般的にEDLPというのは、通常の価格より4割低いことと言われ、品質、味も、大手のブランドと対等に戦える商品であることも求められる。日本は地形学的にも安定した生鮮食品を確保することは難しく、それゆえに自給率も低くならざるをえない。為替の関係から、ますます価格を維持することが厳しい状況である。一方、ユーロでNO.2の自給率を誇るスペインは、似て非なる環境で恵まれているからと言われるかもしれない。しかしメルカドーナは、スペインの経済危機を乗り越え、むしろそれをバネに、着実に店舗数を拡大している。メルカドーナというスーパーの売り場、SPB、PB商品を見ると、今、まさに起きている日本の問題解決を見事に具現化しており、学ぶべき点が多いにあると思う。
参考文献 「MERCADONA」Javier Alfonso著。
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