ミャンマーで迫害された人々が日本で苦しむ不条理
今月1日、ミャンマーでクーデターが起こされた。同国軍が、アウンサンスーチー国家顧問やウィンミン大統領ら与党「国民民主連盟」(NLD)関係者や民主化活動家など数百人を拘束。ミンアウンフライン国軍総司令官が全権を掌握し、事実上、2011年の民政移管以前の状況へと逆戻りした。ミャンマーの民主化を潰す暴挙に、米国や欧州などの各国が批難。日本も茂木敏充外相が「我が国は、ミャンマーにおいて民主的な政治体制が早期に回復されることを、改めて国軍に対し強く求める」との談話を発表した。だが、ミャンマー軍に弾圧されてきた人々が、さらに日本の法務省/入管庁によって差別的な待遇を受け、不当に収容施設に拘束されている。日本政府はこうした矛盾をただすべきではないのか。
○難民を罰したがる入管
軍や警察による迫害を恐れ、日本にもミャンマーから庇護を求めて多くの人々が来ている。だが、ミャンマーでの人権侵害の深刻さにもかかわらず、日本ではミャンマー出身者が難民認定申請をしても、法務省/入管庁はなかなか難民として認定しない上、収容施設に「収容」することすらあるのだ。しかも、法務省/入管庁が今国会に提出することを検討している入管法の「改正」案では、送還を拒む外国人に対し刑事罰(退去強制拒否罪)を科すことや、難民条約や入管法等で禁じられている難民認定申請者の送還に例外規定を設けることを検討している。つまり、ミャンマー出身の難民認定申請者も、刑事罰を科せられたり、強制送還される恐れがあるということだ。「収容・送還問題を考える弁護士の会」の高橋済弁護士は、こう解説する。
「入管側は『難民認定申請の手続き中は送還されないことから、複数回申請を行うなど
難民認定申請が濫用されており、そのため長期収容が生じている』『制度濫用を防ぐため、難民認定申請者も送還できるよう例外規定が必要』と主張しています。『送還忌避者の実態について』との入管側の資料でも、ミャンマー出身の被収容者83%が難民認定申請の手続き中であり、そのうち96%が複数回申請していると書かれており、これらを全て『制度の濫用』だと決めつけているのです」(高橋弁護士)
難民認定申請を複数回を行う被収容者が多い理由として、高橋弁護士は「日本の難民認定審査が理不尽までに厳しく、他の先進国に比べ桁違いに難民認定率が低いからです」と指摘する。本国に送還されたら、最悪の場合、命を奪われるかもしれない人々が、難民として「不認定」とされることに納得できず審査のやり直しを求めるのは、他に選択肢がない、ということであろう。
○ミャンマーでの迫害の凄まじさ無視する入管
事実、ミャンマーでの人権侵害、とりわけ少数派イスラム教徒ロヒンギャの人々への弾圧は凄まじいものだ。2012年からのミャンマー軍の民族浄化作戦により、実に13万人もの人々が劣悪な環境の強制収容所に現在まで収容され続けている。2017年8月には、ロヒンギャ武装勢力の掃討にともない、ミャンマー軍は民間人も無差別に殺害し、国連によれば約1万人が犠牲となったという。
「入管の収容施設に拘束されているミャンマー出身者には、同国の軍から苛烈な弾圧を受けているロヒンギャ、カチンといった少数民族も含まれていますし、今回の状況からすれば政権与党であったNLD関係者でも軍に逆らえば逮捕されてしまうのです。つまり、日本の難民認定行政が迫害の危険やその恐怖について適切に判断できていないことを、正に入管側の主張が示しているということでしょう」(高橋弁護士)
○日本も問われている
「難民不認定」とされた人々がその決定を不服として提訴する裁判でも、近年裁判所は入管側に忖度した判断をする事が多いことや、ミャンマー以外の人権侵害が深刻な国々の出身者に対しても入管の難民認定審査がまともに機能していないこと等も問題だと高橋弁護士は指摘する。
「ミャンマー自体の危機とともに、そこから逃げてきた人たちを送り返そうとし、また送り返すことを黙認してきた日本社会も問われていると思います」(高橋弁護士)
ミャンマー情勢の危うさが誰の目にも明らかになった今こそ、日本に逃げてきた難民認定申請者に対し、この国の法務省/入管庁が何をやってきたのかにも向き合うべきなのだろう。
(了)