【考察】不二家「チョコまみれ」から日本語教師が教える!「ばかり・だらけ・まみれ・ずくめ」使い分け
お読みくださってありがとうございます!日本語教師の高橋亜理香です。
突然ですが、みなさんこのお菓子を知っていますか?
みんな大好き!不二家カントリーマアムの大人気商品だという「チョコまみれ」です(ちなみに画像は「チョコまみれPREMIUM」という商品)。今日は、これっておいしいよね!…というお話ではなくて、このネーミング「チョコまみれ」の「まみれ」に着目。カントリーマアムをチョコでコーティングした、チョコいっぱい!の商品ですが、「まみれ」の意味って深く考えたことがありますか?「〇〇がたくさん」といった意味なのですが、実は似た意味を持つ表現は「まみれ」以外も多々あります。でもあえて「まみれ」を選んだ不二家さん。
試しに似ている意味の「ばかり」に置き換えてみると
「チョコばかり」
ん…?なんだか商品のイメージとは違う気がしませんか?
今回は商品名から、そんな日本語のニュアンスを考察します。似ている言葉にもれっきとした使い分けがあるのです!違いを知って意図を知る。今日はニッチだけど教養力UP!なお話です。
「〇〇がたくさん」を表す4つの表現
なぜ「チョコまみれ」は多くの類似表現の中で商品名に「まみれ」を選んだか?類似表現の文法的違いがわかるとその理由も見えてくる気がします。そこで、4つの類似文型「ばかり・だらけ・まみれ・ずくめ」を例にとり、それぞれの違いを詳しく見てみましょう。
1.「数量や頻度が全体の中で多い」ことを表す「ばかり」
全体の中でそれが多くを占めていることを表すのが「ばかり」です。数量だけでなく、頻度にも使います。「だけ」と似ている言葉ですが、完全限定の「だけ」とは違って、全体の100%ではなく割合的におおよそを占めていると話者が主観的に感じていることを表します。例えば次の文を見てください。
A:山田さんばかり、大きい案件をもらっている
B:山田さんだけ、大きい案件をもらっている
どちらも「山田さん、ずるいなー」という話者の気持ちを表していますが、Aは「山田さんが明らかに多い」という話者の主観であって、山田さんが100%ではありません。それに対しBは100%を表しています。
それから、「ばかり」は「まみれ」「だらけ」「ずくめ」などの類似表現と違って、名詞文だけでなく後ろに動詞文・形容詞文を続けることができるのも特徴です(「だけ」も「ばかり」同様です)。
【名詞文】
〇山田さんの部屋は本ばかりだ。
〇山田さんの部屋は本だらけだ。
【動詞文】
〇山田さんはいつも本ばかり読んでいる
×山田さんはいつも本だらけ読んでいる
また「ばかり」はプラス・マイナス・感情なし、とどのニュアンスでも使うことができます。
〇この部署は、同期ばかりで仕事がしやすい
〇朝は時間がないのでいつもコーヒーばかりで、健康が心配だ
となると「ばかり」は、「いつもチョコばかり食べている(頻度)」や、そこにたくさんのチョコがあるといった意味合いになるので商品名に使うのはちょっと違うかなという印象です。
2.「見える範囲の中で明らかに目立つ」ことを表す「だらけ」
「だらけ」も「~だけがたくさん」という意味の表現ですが、「見える範囲の中で大部分が〇〇で明らかに目立っている」という気持ちが含まれます。他もあるけどそれがいっぱいだということです。その点「ばかり」と似ている部分もありますが、置き換えできる文とできない文があります。
〇この部屋はゴミだらけだ(見える大部分がゴミで、目立っている)
△この部屋はゴミばかりだ(家具がなくほぼゴミに限定された部屋、と考えるのはちょっと変?「ゴミ=不要なもの」ならOK)
また「だらけ」は「ばかり」と違って頻度には用いません。
×今週は会議だらけだ
〇今週は会議ばかりだ
さらに「だらけ」は、マイナスのニュアンスで使われることが多い表現です(中立の場合もあり)。そう考えると、昭和のおなじみだったTV番組「ドキッ!〇〇だらけの水泳大会」なんてタイトルは、令和ならコンプラ的にもアウトですが、そもそもニュアンス的にも失礼だったんじゃ?と、思っています(笑)。
3.「表面にきれいじゃないものがたくさんついている」ことを表す「まみれ」
「まみれ」は人や物の表面に、あまりきれいじゃないもの(特に液体や粉末など)がたくさんついていて覆われているような状態を表します。
血まみれの包丁を発見した
物置の掃除をしたら、ほこりまみれになってしまった
などのように使い、使用範囲は狭めです。「見える範囲の大部分が〇〇」という点では「だらけ」と似ているので、言い換えられる場合もあります。
〇血まみれの包丁を発見した
〇血だらけの包丁を発見した
ただし「まみれ」は「表面」にしか使えず、表面につかないものや実体を伴わないもの、体そのものの状態の場合は「だらけ」を使います。(※特別な表現で「借金まみれ」だけは表面ではないけどOK)
×間違いまみれの作文 → 〇間違いだらけの作文
×傷まみれの体 → 〇傷だらけの体
ニュアンスとしてはマイナス。「嫌だな、汚いな、大変だな」といった気持ちを持っています。
そんな意味を理解すると、不二家の「チョコまみれ」はチョコでコーティングされているという点では「まみれ」がぴったり。でもマイナスの意味ではないので、おそらく商品に注目させるためのあえての「違和感」というかアイキャッチ的な狙いがあるのだろうな、と感じています。また不二家の同シリーズに「チョコだらけ」という商品もあり、こちらも同様の違和感を覚えます。不二家さんの真意は不明ですが、こう分析すると広告って興味深いです。
4.「〇〇で満たされている、全部が〇〇」という意味の「ずくめ」
「ずくめ」は一番使用範囲が狭い表現。某漫画・アニメで有名な「黒ずくめ」のほか、「白づくめ」「いいことずくめ」程度しか使い道がなく、どれも「全部が〇〇で満たされている」という意味です。気持ちはブラスまたは感情なし。慣用句だと考えていいぐらい場面が限られます。
あえて「チョコ」と組み合わせるとしたら、「チョコずくめ」は目の前がたくさんのチョコで埋め尽くされているニュアンスなので、ひとつの商品に対しては使わないだろうという言葉です。
表現は、選ぶ理由がある!
やっぱり「チョコまみれ」は「まみれ」がぴったり!今回はちょっとニッチに商品名から日本語を紐解いてみました!表現の選択には理由があるもの。多くの表現を知って一番しっくりくるものを選べると気持ちが伝わります。みなさんも知りたい日本語があったら、ぜひリクエストください!