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相模、星稜、履正社進撃! 夏の甲子園、優勝争いを占う

森本栄浩毎日放送アナウンサー
優勝候補同士の初戦もあったが、まずは順当な勝ち上がり。後半戦を占う(筆者撮影)

 大会は7日目の智弁学園(奈良)で49代表が出揃い、初戦を終えた。6日目には東海大相模(神奈川)が、昨夏8強のバッテリーが健在の近江(滋賀)を6-1で退け、3回戦に進んだ。2日目に登場した履正社(大阪)は、5本塁打で圧勝し、星稜(石川)も、エース奥川恭伸(3年)が完封して、それぞれ「らしさ」を発揮。次戦以降に期待を持たせる内容だった。このあと優勝戦線はどう展開していくのか?

注目の一戦は相模が最強バッテリーに挑む

 初戦の最注目カードとなった東海大相模と近江の一戦は、今大会初の超満員の観衆が見つめる中、相模が無類の強さを発揮した。神奈川決勝の24得点が物語るように、相模の攻撃力は大会随一だが、近江の左腕・林優樹(3年)と有馬諒(3年=主将)のバッテリーも大会ナンバーワン。攻撃力の相模が、この強力バッテリーをどう攻略するかが焦点だった。門馬敬冶監督(49)も試合前、「走塁も含め、ウチの攻撃のすべてを出さないと、あのバッテリーには勝てない」と話していた。林は、大きく変化するチェンジアップとスライダーを駆使し、有馬の構えたミットに、要求通り投げられる。相模からみれば、自慢の長打力を封印される可能性が高く、最もやりにくい相手だっただろう。

相模の「走塁」に近江守備陣が崩壊

 林の立ち上がりは完璧だった。初回をゴロアウト3つで、2回に失策の走者に走られたが、三盗は有馬が阻止する。相模は4回に相手失策で先制するが、無安打のまま。しかしこれも想定内。門馬監督は、強打に頼らない相模のもう一つの攻撃力「走塁」に懸けていた。5回には、1死2塁で、フルカウントから走者を走らせ、打者が、広くあいた三遊間を突破する適時打。6回は、捕邪飛(送りバント)に飛びついた有馬に対し、次の塁を陥れる積極走塁で近江のバッテリーを揺さぶった。バッテリーの動揺は、内野陣にも伝播し、滋賀大会無失策(5試合)の堅守は崩壊。捕手も含めた内野陣が計6失策で、近江はあっさり主導権を手放した。林は6失点したが、ほとんどが失策絡みで、自責は「1」。攻撃陣も、相模先発の遠藤成(3年)に、8回途中まで2安打と沈黙し、終盤の追い上げも、あと一本が出なかった。

長打力温存で相模が優勝争いトップに

 相模の門馬監督は、「ボールが投手に返るまで、絶対に目を切るな、気を抜くな、と言っている。よく動いてくれた」と選手を褒めた。牽制死もあったが、走者が動くことによって内野手をキャンバス近くに寄せ、ヒットゾーンを広げる作戦は見事。外野超えの当たりは皆無に近かったが、わずか6安打で6得点。残塁は4つしかなく、いかに効率よく攻めたかがうかがい知れる。打てないことも想定した中での完勝劇は、練りに練った作戦によるものだった。難敵を一蹴し、十八番の「長打力」を温存したまま、相模は優勝戦線のトップに躍り出た。

笑顔の有馬、涙の林「黄金バッテリー」は色褪せず

 敗れた近江のバッテリーの試合後は対照的だった。

近江の「黄金バッテリー」は日本一の目標を果たせず涙。「この経験を生かしてさらに飛躍してほしい」と多賀章仁監督(59)も二人の将来に期待した(筆者撮影)
近江の「黄金バッテリー」は日本一の目標を果たせず涙。「この経験を生かしてさらに飛躍してほしい」と多賀章仁監督(59)も二人の将来に期待した(筆者撮影)

 自身も2失策し、林の足を引っ張った有馬は、最後まで笑顔を貫いた。サヨナラ2ランスクイズで金足農(秋田)に敗れた悔しさからスタートした1年を振り返り、「今日の林は最高のピッチング。よく投げてくれた。もうバッテリーを組めないのは悲しいが、林がいたから成長できた」としっかりした口調で話した。その傍らで泣き崩れていた林は、「こういう試合でもエースなら、チームを勝たせる投球をしないと。有馬にはこれまでずっと支えてもらって、感謝しかない」と涙が止まらなかった。有馬は、「最後まで笑顔で」という気持ちで気丈にふるまっていたようで、宿舎では林に泣きながら詫びていたという。目標だった日本一こそならなかったが、林-有馬の「黄金バッテリー」は色褪せることなく、いつまでもファンの記憶に残る。

明石商は徳栄に競り勝つ

 この日は、もう1試合、関東と近畿の強豪が激突した。2年前の優勝校・花咲徳栄(埼玉)とセンバツ4強の明石商(兵庫)の注目カードは、4-3で明石商が競り勝った。

明石商の中森は、関東屈指の花咲徳栄打線に6安打しか許さず、来年のドラフト上位候補の実力を見せた。センバツの4強を上回る躍進が期待できる(筆者撮影)
明石商の中森は、関東屈指の花咲徳栄打線に6安打しか許さず、来年のドラフト上位候補の実力を見せた。センバツの4強を上回る躍進が期待できる(筆者撮影)

 明石商のエース中森俊介(2年)は、7回に本塁打を浴びて追いつかれるなど苦しい場面もあったが、すぐさま重宮涼(3年=主将)の適時打で挙げた1点を守り切った。明石商の狭間善徳監督(55)は、「気持ちも乗っていたし、辛抱強く投げた」と若きエースを頼もしそうに見つめた。僅差で敗れ、5年連続の初戦突破を逃した徳栄の岩井隆監督(49)は、「中森君の投球術にやられた。変化球が低めにきていたし、置きにこなかった」と脱帽し、「下級生も多いので、まずはセンバツに戻って来たい」と捲土重来を誓っていた。

2戦目は本来の力が出る

 7日目に49代表のラストで智弁学園が登場し、1年生の左右二枚看板と4番打者に期待が集まったが、乱打戦の末、八戸学院光星(青森)に惜敗した。春の近畿大会以降、投手陣が調子を落としていて、中盤までに大量失点したのが響いた。初戦は、どのチームも手探り状態で、慎重な試合をするチームが多い。それでも、初戦に勝つと勢いがつくし、2戦目は本来の実力に近いものが出る。初戦からチームの特長を発揮して勝てるチームは状態がいい証拠で、その意味では、2日目に登場した優勝候補の履正社と星稜の2回戦に注目したい。両校とも、「らしさ」が存分に出た初戦だった。

履正社、星稜が「らしい」勝ち方

 履正社は、大会記録に並ぶ1試合5本塁打で霞ヶ浦(茨城)を11-6と圧倒した。148キロの速球を持つ霞ヶ浦の鈴木寛人(3年)を序盤から攻め、3回までに大勢を決した。次戦の津田学園(三重)の前佑囲斗(3年)は、同じ速球派(最速152キロ)右腕でも、鈴木より変化球の精度が高く、攻略がたやすいとは思えない。前をも打ち崩すようなら、履正社の打撃は絶好調と言える。星稜は、旭川大高(北北海道)に苦戦を強いられ、1-0で辛勝した。奥川に頼るチームカラーは変わっていない。2回戦で対戦する立命館宇治(京都)も1-0の同スコアで春夏6回目にして初の甲子園勝利で勢いに乗る。奥川以外にも好投手はいて、起用法にもよるが、3回戦を見据えるならエースの負担を軽くしたい。しかし奥川は、「去年の夏も、今年の春も2戦目で負けているので」と、覚悟を決めていた。智弁和歌山は、米子東(鳥取)相手に中盤まで互角の展開だったが、終盤に地力を発揮し、危ない場面はなかった。次戦の明徳義塾(高知)とは練習試合で引き分けたようで、油断できない。投打とも智弁が上回るが、試合巧者が相手で、苦戦が予想される。星稜-立宇治の勝者と智弁-明徳の勝者が3回戦で当たるが、ここを勝ち抜くまでに、かなりの消耗は免れない。

気比、仙台育英の下級生投手も注目

 初戦の内容で目を引いたのが敦賀気比(福井)。2年生エースの笠島尚樹が素晴らしい制球力で富島(宮崎)を寄せつけず、完勝した。大会前の甲子園練習でも、「(投手は)数がいるだけで、継投して何とか逃げ切れれば」と東哲平監督(39)は控えめだったが、力を出し切ると強豪でも苦戦しそう。また、仙台育英(宮城)の左腕・笹倉世凪(せな)-木村航大の1年生バッテリーも能力の高さをうかがわせた。さらにセンバツ準優勝の習志野(千葉)は、沖縄尚学との延長戦を逆転で制し、エース飯塚脩人(3年)が実力を存分に発揮していた。夏に強い同校の伝統は生きている。

関東勢、近畿勢に星稜絡む優勝争い

 2回戦から登場し、日程に恵まれる有力校では、難敵を倒した東海大相模と明石商は、展望でも述べた通りかなり8強に近く、延長で初戦を乗り切った作新学院(栃木)も、安定したチーム力を見せつけた。優勝争いは、相模を筆頭にした関東勢と、近畿の実力校に、星稜がどう絡んでくるか。台風で最低1日の順延は避けられそうもなく、相模や明石商などの、2勝で8強組がきわめて有利な状況である。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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