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いよいよ動き出した夏の甲子園「二部制」 多くの課題や制約が予想される中で、絶対に譲れないものとは?

森本栄浩毎日放送アナウンサー
今夏、ついに甲子園で「二部制」が始まるが、多くの制約が予想されている(筆者撮影)

 ついに、と言うか、ようやくと言うべきか、夏の甲子園で「二部制」が導入されることになった。近年の猛暑対策として、主催者はさまざまな策を講じてきたが、運用面での方法論としては、これまでで最も大きな変革となる。当然のことながら、根本的な部分での見直しが必要となり、さまざまな制約が予想される。

今夏は「試験的」に3日間だけ導入

 導入と言っても、実際には初日からの3日間だけで、いずれも3試合を設定し、4日目以降は従来通りの開催となる。いわば「試験的」な実施となり、問題点や課題を洗い出すとしている。初日(8月7日予定)は開会式を8時半から始め、午前中に1試合、午後4時から残り2試合を行う。2、3日目は、8時から2試合を行い、最後の1試合を午後5時開始とする。いずれも前半が終われば、全ての観客に退場してもらう。観客を安全に退場させるために、前半の部と後半の部の間隔は2時間半以上空ける。入場券はこの3日間に限り前半、後半とも必要で、いずれも指定席となる。価格は、合算で一日の通し券よりも安く設定されるようだ。

4試合日なら午後10時近くまで拘束?

 あくまでも試案であって、夏の甲子園は一日4試合が主流になるため、出た課題をもとに、翌年以降の全面導入に備えようということになるが、4試合をこのやり方で当てはめると、第4試合の終了時刻が午後10時近くになる可能性がある。第3試合を午後4時に始めると、第4試合は6時半以降の開始が想定されるからだ。9時に終わっても取材やクールダウンで、甲子園を離れるのは10時を回る。高校生の部活時間としては疑問符がついてしまうし、応援団とて高校生が最も多いはずで、安全に帰宅できるだろうか。

インターバル優先で「継続試合」も

 また、前後半のインターバルを確実に2時間半とするため、前半の試合が長引いた場合は「継続試合」も視野に入れているという。今年なら、初日の第1試合を午後1時半、2、3日目は第2試合を2時半までに終わらないといけない。運用に振り回されて、わざわざ翌日に試合をさせるなど、本末転倒も甚だしい。後半の開始を遅らせるなど、柔軟な対応も考えるべきだろう。

インターバル間にファンはどうする?

 この時点ですでに多くの制約や課題が想定されるが、甲子園の高校野球は国民的大イベントであり、足を運ぶ観客、ファンを無視できない。今春センバツ時に、二部制導入の噂を耳にしたが、個人的には「ファンをどうするのか」という懸念が真っ先に頭をもたげた。「入れ替え」と聞いただけで落胆しているファンも少なくないだろう。少なくとも屋根の下なら炎天下にはならないが、有無を言わせず退場させられることになる。2時間以上もどこで時間をつぶすのか

真のファンの存在を忘れてはいないか

 甲子園の高校野球は、読者の皆さんが想像している以上に、コアなファンが多い。つまり、高校野球そのものが好きで、特定の試合や学校にとらわれず、どの試合も純粋に楽しもうというファンのことだ。こうしたファンが、長く甲子園の高校野球人気を支えてきたことを忘れてはいけない。彼らが現在の「指定席」や、試合日ではなく「日付固定」のチケット販売方法に怒りの声をあげているが、一日2枚のチケットはそれに拍車をかけかねない。「選手ファースト」は当然としても、近年のスタンドを見るにつけ、ファンの存在が後回しにされているような気がしてならない。

甲子園は日本の野球文化の原点

 先週末に「二部制」の報道があった際、「もはや甲子園での単独開催は不可能。京セラドームとの併用も」という言及や書き込みがあった。涼しいドームなら猛暑対策も一気に解決するので、自然な発想ではある。しかし日本の高校野球が、極論すれば、高校野球を経ずしてプロ野球はあり得ないので、日本の野球文化が甲子園によって育まれてきたことは、まぎれもない事実。今も昔も、甲子園は日本の野球の原点である。

絶対に譲れない甲子園での開催

 同時に現場を預かる指導者の意見も複数、添えられていたが、「甲子園をめざす以上、甲子園でやることにこそ意味がある」という趣旨の発言しか目にしていない。戦後すぐと、大昔の記念大会で出場校が多かった時期など(厳密には3大会)で西宮球場を使用、または甲子園と併用したことがあった。筆者の地元にも、66年前の記念大会に出場した人がいたが、西宮での試合だったことを残念がっていた。甲子園以外での開催はあり得ない。さまざまな制約、課題がある中で、これだけは絶対に譲れないのである。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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