なぜレアルは“欧州の頂点”に立てたのか?アンチェロッティの手腕と逆転のDNAを支える力。
欧州は、白く、染め上げられた。
今季のチャンピオンズリーグ決勝で、レアル・マドリー とボルシア・ドルトムントが激突した。一進一退の攻防になった試合は、ダニ・カルバハルとヴィニシウス・ジュニオールの得点で、マドリーが制している。
マドリーはクラブ史上15度目のチャンピオンズリーグ制覇を達成した。直近11年で、6度目のビッグイヤー獲得だ。
2018年夏にクリスティアーノ・ロナウドが、2021年夏にセルヒオ・ラモスが退団した。昨年夏にカリム・ベンゼマが、この夏にトニ・クロースがクラブから去ることになっている。だがマドリーはマドリーであり続け、欧州の大会で無双の如き強さを発揮している。
■プラン変更と修正力
ただ、この度の決勝で、マドリーはドルトムント相手に苦しんだ。
とりわけ、前半、準備していたプレスの型が嵌まらず、ドルトムントに優位に立たれた。カリム・アディエミのスピードに手を焼いて、再三の決定機を許した。「前半はコンパクトに戦えず、相手にスペースを与えてしまった。監督の指示に従えなかった。でも、後半からシステムを4−3−3にして、それが勝利につながった」とはGKティボ・クルトワの弁だ。
クルトワが語るように、カルロ・アンチェロッティ監督はハーフタイムに修正を試みた。【4−4−2】から【4−3−3】にシステムチェンジを行い、ヴィニシウスを左WGに、ジュード・ベリンガムをファルソ・ヌエベとしてCFに、ロドリゴ・ゴエスを右WGに配置。少しずつペースを取り戻して、後半に2ゴールを叩き込んで勝利を手にした。
思えば、今季のマドリーは、多くのトラブルに見舞われてきた。今夏、カリム・ベンゼマが退団。キリアン・エムバペやハリー・ケインといったトッププラスのストライカーの到着はなく、エースの抜けた穴を同ポジションで埋めることなく、シーズンがスタートした。
加えて、シーズン序盤戦でクルトワ、エデル・ミリトンがひざを負傷。シーズン半ばにはダビド・アラバまで同箇所を負傷して、長期離脱を余儀なくされた。
アンチェロッティ監督は、新加入のベリンガムをトップ下に据え、得点能力を開花させた。守備陣においてはカルバハルやオウレリアン・チュアメニをCB起用しながら、ダブルボランチシステムの採用でディフェンス力を担保した。
「前半は苦しかった。ドルトムントのカウンターが機能していた。後半に入り、システムやポジションを入れ替えながらプレーしたので、少し落ち着かない展開になったけど、最終的には安定感をもってプレーできた」とはドルトムント戦後のフェデリコ・バルベルデのコメントだ。
今季、多くのシステムを機能させてきたマドリーだからこそ、ファイナルで臨機応変な対応ができたのかも知れない。
■マドリーの守備力と戦術
そう、今季のマドリーは守備陣に負傷者が続出した。
それでも、チャンピオンズリーグ準々決勝のマンチェスター・シティ戦では、激闘を制して、ラウンド突破を決めた。「攻めのシティ」と「守りのマドリー」の展開になった試合で、見事に「守り切り」ベスト4への切符を勝ち取った。
クルトワ、ミリトン、アラバと主力級の選手が次々に離脱したから、逆説的に、今季のアンチェロッティ・マドリーは守備が強くなったのだろう。チーム全体で守備をする、という意識が非常に強くなったためだ。
最後に、もうひとつ、ポイントを挙げたい。
今季のマドリーは、幾度となく起死回生のゴールを決め、なおかつそこから逆転して勝負を決めてきた。無論、それはマドリーの“逆転のDNA”あるいは“勝利のメンタリティー”であるとも言えるが、ルーカス・バスケスがドルトムント戦後に妙味深いコメントを残している。
「僕たちは苦しむ術を知っているチームだ。そして、チームメート同士が、お互いをよく知っている。僕たちがノーチャンスで試合を終えるというのは考えにくい。自分たちの時間帯は来ると分かっているんだ。アンチェロッティ監督が言っていた。『死の戦術』は機能している、とね。絶体絶命の状況で、僕たちは常に浮上する」
死の戦術。つまり、普通のチームであれば、“死に体”になってしまうところで、マドリーは蘇生する。死んだフリをする昆虫ではないが、一旦死んだように見せて、そこから生き延びるーー勝利するーーのである。
無論、アンチェロッティ・マドリーが、わざと“死んだフリ”をしているわけではないだろう。しかしながら、そこまで追い込まれても、最後まで勝利の可能性があると信じられる彼らは、やはり強い。15回のチャンピオンズリーグ優勝は伊達ではなく、欧州のビッグクラブは早くも来季以降の「ストップ・ザ・マドリー」に考えを巡らせている。