「言っとくけど、選挙行っとく?」 イットク フェス 国会前で咆哮中!
「お前らは、ほえないのか!」
国会議事堂前でほえる声。僕は確かに聴いた、ことなかれで済ませようとする心を挑発する歌声を。
それは偶然の出会いだった。前日、千葉市内で講演を終え、翌日の高円寺でのトークイベントを控え僕は都内に泊まっていた。翌朝、国会議事堂周辺を走っていて、そのイベントに気づいた。イットク フェス2021。
「言っとくけど、俺の自由はヤツラにゃやらねえ!ロック・フェスティバル」が正式名称だ。5年前、共謀罪が論議を呼んだ時に始まり、以後毎年国会前で行われてきた。今年は衆議院総選挙と重なったから「選挙に行こうぜ!」がテーマになった。国会議事堂を取り囲むように10か所で演奏が行われ、80以上のアーティストが参加した。
面白そうな催しだな、と思いながら国会周辺を走っていると、ギターを抱えた男性とボーカルらしき女性の2人組に出会った。フェスの参加者っぽいが、向かっている方向が逆だ。僕は声をかけた。
「イットク フェスの参加者の方ですか?」
「そうなんですけど、道に迷っちゃって」
国会周辺は確かに道がわかりにくい。僕は2人を会場に案内しながら話しているうちに「この2人を取材しよう」という気持ちがわいてきた。
10月24日(日)午前11時。イットク フェスが始まった。あの2人は先頭を切って、国会正面の会場に登場。「にゃんにゃんブーメラン」という2人組のユニットで活動している。ボーカルの加藤宇宙さんがそこで語ったこと。
「やっぱりね、声は上げ続けなければいけないし、選挙は行き続けなけりゃいけない。あきらめちゃダメなんです。あきらめさせようとしてるんです、アイツらは。だってすごい無力感を押し付けてくるじゃないですか、アイツらは。コロナのこともそうです。アイツら、無力感を植え付けてきました。押し付けてきました。だけど、だけど、だけど、私たちは無力じゃないです。なぜかと言うと、なぜかと言うと、命を生み出すことができるんです。命がつながっていって、生きるんですよ。そのもとになっているのはね…」
ここから先はネタバレになるので、ぜひ「にゃんにゃんブーメラン」のライブを見てほしい。彼のギターをバックに彼女は歌う。国会に向かって。聴衆に向かって大音量で。合間に聴衆を挑発してほえる。
「中身がないのはダメ。中身がないことをやっても何の意味もないから。ほえないのか? お前らは。お前ら、ほえないのか!」
警備の警察官が音量をチェックする機械を持って近づいてきた。だけど彼女はやさしい。
「お巡りさんは悪くないですよ。仕事でやっているんですから」
ここで聴衆から「警察官も労働者だ!」と声が飛ぶ。
「そうですよ。お巡りさんは悪くない。だから『罰金ポリス』とか言っちゃダメですよ」
…何だかディスっているようでもあるが、警察官は何も制止することなく立ち去っていった。主催者によると、警察とは国会周辺の歩道上でのライブについて話し合いをつけているそうだ。ただし国会に隣接する総理大臣官邸の前では行っていない。権力側が何を重視しているかをうかがわせる話だ。
「にゃんにゃんブーメラン」が出演している映画が、東京の代官山シアターギルドで10月29日まで上映されている。題は「もうそろそろ音楽をやめようと思う」。映画を見ると、感じるものがあるかもしれない。
主催者によると、催しを通して投票率75%をめざしたいという。前回総選挙の投票率は50%程度。低い投票率は組織力のある自民・公明にとって有利だとされる。逆に政権交代が起きた2009年の総選挙は投票率が70%近くまで上がった。
ただ「投票に行こう」と呼びかけても、投票に行かない人を行く気にさせることはできない。この催しも、訴えが直接届くのは限られた人だけだろう。
でも、ここで語られた「アイツらがあきらめさせようとしている」という言葉はすごく大切だ。演奏後、ボーカルの加藤宇宙さんにあえて野暮なことを聞いた。
「アイツらって、どいつらですか?」
彼女は笑って答えた。
「アイツらはアイツらですよ。私たちに無茶を押し付けてくる人たち。あそこ(国会を指差しながら)にいる人たちです。黙っていられませんよ」
僕らは無力じゃない。投票ができる。命を生み出すこともできる。将来の世代のため、僕らにできる精一杯のことをしたい。衆議院総選挙は10月31日が投票日。期日前投票は毎日行われている。