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自殺予防活動が持つ「トゲ」:駅の自殺防止ポスターは遺族追い込む?

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:バラにはトゲがあるけれど)(写真:アフロ)

すべての自殺予防活動には、自死遺族を傷つける面がある。それでも、自殺予防は必要だ。

■駅の自殺防止ポスター、遺族追い込む? 撤去も

愛知、岐阜両県の鉄道駅に掲示中の自殺防止ポスターが波紋を広げている。鉄道利用者への影響を指摘する文言を盛り込んだところ、有識者らが自殺者の遺族を傷つけると指摘。抑止効果についても疑問が寄せられた。苦情を受け、一部に撤去の動きも出ている。

出典:駅の自殺防止ポスター、「遺族追い込む」と撤去も:朝日新聞7/20 Y!

問題となったポスターには、「STOP自殺」の言葉や、相談電話の番号のほかに、「鉄道での自殺は、大切な命が失われるだけでなく、鉄道を利用する多くのひとの安全や暮らしに関わってきます」との文章があります。

このポスターの言葉に対して、地元の自死遺族グループの代表が、「身近な自死を防げず、自責の念に駆られている遺族をさらに追い込む」「『世間に迷惑をかけるからやめよう』と当事者が考えるだろうか」と意見を述べています。

■すべての自殺予防活動には、「トゲ」がある

自殺予防の研究によれば、「自殺は止められる死であり、止めるべき死」だと考えて自殺防止活動を進めることが効果的だとされています。私も、同感です。

しかしこの言葉は、自死遺族や自殺した方の身近な人々にとっては、とても辛い言葉でしょう。止められたはずの死なのに自分は止められなかったと感じるからです。

実は今回話題になっている駅のポスターだけではなく、すべての自殺予防活動は、このような「トゲ」を持っているのだと思います。自殺対策に関わっている人間は、このトゲを自覚すべきだと思います。

■自殺予防活動の必要性

世界でも日本でも、自殺予防活動は自殺を減少させる効果をあげています。

かつて日本では、自殺予防の目的であっても、自殺のことを話題にすることはタブーでした。学校などでも、自殺予防活動が難しい時代もありました。「寝た子を起こすな」という主張です。自殺ということば、文字を表すだけで問題視されました。

しかし、様々な研究によれば、自殺予防活動は効果をあげます。自殺予防教育も必要です。自殺予防教育は、事が起きてしまったあとではむしろ難しく、日常的な活動が必要でしょう。

■鉄道自殺の「コスト」

自殺を考える人は、真面目で責任感が強い人も多いでしょう。しかし、自殺の直前には、心の余裕を失います。だから、「世間への迷惑など考えるだろうか」というご指摘はごもっともです。

けれども、鉄道自殺という自殺方法はとても「コスト」が高いということを知っておくことは、悪くないと思います。他の乗客、鉄道職員、家族らに大きな迷惑をかけるというコストです。

自殺を考える人の心は揺れています。時に死に場所を求めてさまよいます。死に場所が見つからなければ今日は死なず、自殺が一日伸ばしになれることもあります。そうしているうちに、死にたい気持ちが和らぐこともあります。理由は何でも良いので、自殺を先延ばしにすることは大切です。

都市生活者にとって鉄道自殺は身近かもしれません。その鉄道自殺を減らすことは、意味のあることだと思います。

(他の自殺方法も、それぞれ大きなコストががありますが。)

■自殺予防活動をすすめるために

2006年に自殺対策基本法をできてから、以前に比べれば自殺予防活動はずっとしやすくなりました。それでも、交通事故対策の活動に比べれば、まだ多くの課題を抱えています。

自殺予防活動をしていて、クレームがつくこともあるでしょう。そのことによって、自殺対策にブレーキがかかってはいけません。最良の方法はなかなかわかりませんが、様々な工夫をこらした方法があっても良いと思います。

ただし、世のため人のための自殺予防活動には、トゲもあることを忘れててはいけません。しかしトゲを完全になくそうと思うと、自殺予防活動自体がとても難しくなってしまうでしょう。

自殺は、実行される前であれば、止められるし止めるべき死だと考えてよいと思います。しかし、自死の理由もよくわからないまま実行されてしまった後になっては、ご遺族に対してはどうしようもなかったとしか言いようがありません。

自殺予防活動によって助けられるたくさんの命があります。だからこそ自殺予防活動は、自死遺族支援とともに、車の両輪として進めるべきものなのだと思います。

自殺は不名誉ではない:世界自殺予防デー・自殺予防週間に考える私たちにとっての自殺問題

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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