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出火元の誤報で中日新聞おわび 抗議の訴え、フェイスブックで拡散の末

楊井人文弁護士
三重県警・桑名警察署

【GoHooレポート6月2日】三重県桑名市で5月27日夕方、松田貢さん方の住宅兼倉庫など少なくとも5棟が全半焼する火災があった。中日新聞などは28日付朝刊(三重版)で「松田貢さん方から出火」と報じたが、28日午前の見分で火元は隣家の物置小屋だったことが判明した。中日新聞は当初誤りとは認めず、続報で修正していたが、6月2日付朝刊で誤りを認め、「警察への取材を基に記事にしましたが、不十分でした。関係者に多大なご迷惑をかけ、おわびします」との記事を掲載した。松田さんの長女がフェイスブック上で中日新聞が続報で済ませたことに抗議する投稿をしたところ、6月1日までに7万人以上がシェア。日本報道検証機構は同日、中日新聞社に質問状を出していた(各紙記事の詳細や続報はGoHooサイト参照)。

中日新聞2015年6月2日付朝刊
中日新聞2015年6月2日付朝刊

5月28日付で「松田貢さん方から出火」と誤報したのは、中日新聞、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞(いずれも三重版)と地元紙の伊勢新聞。松田さんが訂正を求めたのは中日新聞と朝日新聞の2社で、朝日は29日付朝刊で「訂正して、おわびします」との見出しで火元が松田さん方ではなかったことを掲載。読売新聞は同日付朝刊で、実況見分の結果「火元が判明した」と続報するにとどめていた。伊勢新聞は当機構の質問に対し、誤りだったことを認め、まだ続報も出していないが、6月3日付朝刊でおわびと訂正の記事を出すと回答。毎日新聞は1日遅れの5月29日付朝刊で第一報を載せ、出火場所を誤報していたが、6月2日付朝刊で「桑名の火事、火元判明」との続報で「当初は、隣接する建設業、松田貢さん(57)方の住宅兼倉庫から出火したとみられていた」と釈明した。(追記 伊勢新聞は6月3日付朝刊で訂正おわび記事を掲載した。記事の内容はGoHooサイト参照。

中日新聞の「続報」という対応ぶりに疑問をもった松田さんの長女・酒井和子さんは29日、自身のフェイスブックで、詳しく経緯を綴った文章を公開。それによると、松田さん方に住んでいた貢さんと次女久美子さんは、火災当時不在でけが人はいなかったが、愛犬3匹のうち2匹が亡くなり、1匹も火傷を負ったという。27日夜、消火活動をしていた時点では「裏の家の倉庫から火が上がったらしいという噂のみの状況」で、火元が確定したのは翌28日正午ごろ。しかし、28日付各紙朝刊の第一報には、すでに火元を「松田貢さん方」と断定するような記事が掲載され、酒井さんは「火元が見つかってもいないのに『私の実家から出火』『隣の家の倉庫も燃えた』こう書かれていたのです。逆なのに… うちはいっぱい大事なものをなくしたのに… 火元がきちんと確認もされてないのに どうしてこんな記事が書けるのか… 悲しくて悔しかった」と心情を吐露していた。

被災した松田貢さんの長女のフェイスブックの投稿と中日新聞の28日付第一報の記事
被災した松田貢さんの長女のフェイスブックの投稿と中日新聞の28日付第一報の記事

建設会社を自営している松田貢さんは28日、朝日新聞と中日新聞に訂正を求めたが、朝日は自ら訂正する意向を示したのに対し、中日は「警察の発表を記事にしただけ」と訂正・謝罪を拒否したという。この対応について、酒井さんはフェイスブックで「おかしくないですか?続報でなく『誤報』が普通ですよね?」「同じ新聞会社なのにこの対応の違い… 中日新聞の大人気なさに酷くガッカリしました」と書き綴り、「この真実を沢山の人に知ってほしい」と訴えていた。

松田さんによると、当機構が質問を出した後の1日午後になって同社の四日市支局の幹部が訪れて経緯を説明。その後、おわび記事を出すことになったと連絡が来たという。松田さんは当機構の取材に対し「朝日新聞は昨年のこともあったのかもしれないが、自ら進んで訂正とおわびをすると言っていた。それに比べて中日新聞の対応はなさけなかった。新聞社にとっては小さな火事の記事でも、火元がはっきりするまで慎重に書いてほしい。他の方がこんな目にあわないように」と話した。

桑名警察署の水谷裕考副署長は当機構の取材に対し、27日夜、火災発生の第一報を新聞各社に発表した時点で、松田さん方を「発生場所」と記載したが、松田さん方を「出火場所」とは特定してはいなかったと説明。鎮火して隣家の物置小屋などの罹災状況が判明し、第二報を新聞各社に発表したのは28日0時ごろだったが、この時点でも出火場所はまだ特定していなかったという。中日新聞の記事には火災現場の写真が掲載されているが、消火活動にあたった桑名市消防署大山田分署員も当時、現場で報道陣からの取材は受けなかったという。

他方、中日新聞の平田浩二編集局次長は当機構の質問に対し、桑名署の第一報の資料には「発生場所」と書かれていたが、警察を取材した結果「松田貢さん方から出火」と報じたもので、その段階では「誤認があったとは考えていない」と説明。ただ、桑名署の第二報で隣家の罹災者情報も発表され、「警察の初期の判断が誤りであったことが判明」したため、初報より目立つ大きさで29日付朝刊に続報を掲載したという。同紙では事案の内容を勘案して『続報』か『訂正』にするかを判断しているといい、「今回は、出火場所が違っていたことが判明した段階で、速やかに訂正すべきであったと反省しています」と回答した。

  • 伊勢新聞が訂正おわび記事を掲載したことを追記しました。(2015/6/4 07:50)
弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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