やっぱり閉店。八戸の百貨店・三春屋~八戸市は、ポスト・コロナ時代の地方都市の先駆けになれるか
再建計画が二転三転
青森県八戸市の百貨店・三春屋を2022年4月10日で閉店すると、運営会社であるやまき三春屋が2022年3月4日に発表した。
三春屋に関しては、ダイエー子会社の百貨店・中合から、2019年に商業コンサルティング会社の株式会社やまきが事業譲渡を受け、立て直しを模索していた。
しかし、再建計画は二転三転した。2021年の秋にリニューアルオープン計画を発表し、2021年3月から長期間の「三春屋全館閉店セール」を開始した。2021年8月から改装工事を開始する予定が、8月に入ると百貨店事業の縮小を発表。
さらに8月18日には、労働組合側に従業員を3割程度に削減すると通告。地階の食料品売り場も9月で閉鎖すると発表した。
ところが、今度は9月に入り、直営部分を大幅縮小してテナントを誘致するリニューアル計画を発表し、9月で閉鎖するとしていた食品売り場の継続を発表する一方で、全従業員約140人のうち約100人に解雇通知を行った。
筆者は、こうした三春屋の問題に関心があり、昨年(2021年)12月に八戸市を訪れた。その当時の三春屋の発表や広告を見る限りでは、今回のような急転直下の閉店は予想できなかったが、閉鎖したまま改装を行っていないフロアやまばらな品揃えや、地元の人たちとの話から、問題の複雑さは感じられた。
リニューアル計画から一転、閉店へ
営業に関する発表が二転三転する中で、2021年秋に予定されていた改装オープンを、2022年3月に延期。
しかし、2月15日になって、3月30日に予定していた全館改装によるグランドオープンの見送りが明らかになった。
そして、今月3月4日になって、三春屋を4月10日に閉店することが、運営会社やまき三春屋から発表になった。
「悪い予感が当たった」
こうした二転三転する運営会社の発表や、さらに生演奏を行うラウンジレストランや大型画面を設置してのバーチャルショップの計画などに対する疑問などもあり、今回の閉店の発表も、「悪い予感」が当たったと言える。
12月に八戸市を訪れた際にも、「無くなるのは寂しいが、百貨店というものが時代遅れなのでは。さくら野百貨店があるし、困らないなあ」(40歳代の女性)といった意見や、「中心部にはスーパーがないので、地下の食料品売り場が無くなるのは困る。百貨店を残してほしいというより、食品スーパーが出店してくれれば、それで良いのでは」(30歳代の男性)といった意見を耳にした。
「運営会社の発表が二転三転し、信用できないという雰囲気が強くなった。県外のファンド会社や運営会社などが手掛けた山形や盛岡、姫路などの百貨店も結局、立て直しに失敗している。地元でも百貨店が残って欲しいという気持ちは強いが、では自分たちで投資するかというと、現実的な判断をする。ファンド会社などにとっては、期待外れだったのではないか」と、地元金融機関の職員は話す。
コロナ禍だけではない衰退理由
閉店理由として、運営会社はコロナ禍による影響を挙げている。しかし、地方百貨店の衰退は、コロナ禍以前から続いている。
2017年以降の百貨店販売額の推移を見ていると、バブル期以降、減少傾向にあった百貨店の販売額は、外国人観光客急増の好影響を受け、インバウンド需要によって改善する様子を見せた。
しかし、インバウンド需要を享受できたのは、都市部の百貨店だけで、地方部の百貨店の販売額は減少傾向を止めるまではいかなかった。また、2021年には前年比で都市部の百貨店の販売額は、わずかだけだが増加に転ずる傾向を見せたが、地方部の百貨店では減少傾向が続いている。
人口の減少が招く市場と地域経済の縮小
青森県の人口は、1985年以降、減少傾向が続いており、止まる気配はない。人口の減少は、消費市場の縮小につながる。
八戸駅から乗ったタクシーの運転手は、「昔と違って、魚が採れなくなってしまいました。今でも八戸名物になっているサバなんかも、私らの若い頃に比べたらさっぱりです」と嘆いてみせた。
八戸市の資料では、1980年代に70万トンを超していた水揚げ数量は、1990年代に入ると急減し、2019年には6万トン台にまで落ち込んだ。実に10分の1である。地域経済に大きな影響を及ぼしていることが理解できる。
地方の人口減少について、話題になることが多いが、地域経済の衰退が雇用機会を失わせ、さらなる人口流出を引き起こしていることにも注意が必要だ。
新しい中心市街地への取り組み
八戸市は、他都市と異なる点がある。中心市街地再生のために、八戸市では、郊外である準工業地域での売り場面積10000m²以上の大型商業施設の建設を制限している。そのため、2009年に開業したシンフォニープラザ沼館以降、郊外型の大型商業施設の開業は行われていない。この点は、依然として大型郊外型商業施設の出店が続く、他の地域と異なる。
八戸市周辺の大型郊外型ショッピングモールとしては、1995年に開業した、八戸市の北に位置する上北郡おいらせ町に所在するイオンモール下田がある。八戸市中心部から、直線距離で約12キロメートルの位置にある。
自家用車で、八戸市中心部から高速道路経由で約20分程度で到着する。また、八戸市中心部の本八戸駅からイオンモール下田まで、シャトルバスが運行されている。所要時間30分程度、片道大人500円だが、イオンモールからの帰りのシャトルバスの無料券が配布される。実質、往復500円だ。シャトルバス以外にも、十和田観光バスや南部バスの路線バスもイオンモールと八戸市内を結んでいる。
「三春屋には高齢者のファンが多い。無くなれば、イオンモール下田に流れる人も多いのではないか。今でも魚介類などは、バスに乗って八食センターに買いに行くことも多い。下田まで行くのは、手軽とは言えないが、バスに乗れば一本だし」と、60歳代の女性は話す。
市内の大型郊外型商業施設の制限を行うことは、コンパクトシティ形成の手法として有効ではあるが、このように隣接する市町村に立地されれば、こういったことが起こりうる。また、中心部から4キロメートル半径には、売り場面積10000m²以上の商業施設の出店はないものの食品スーパーや専門量販店などの出店が進んでいる。中心市街地の活性化を図るためには、こうした状況を前提に考える必要がある。
新しい中心市街地の形とは
「2003年2月にイトーヨーカ堂が撤退した時の八戸市中心部の落ち込みが記憶にあり、もし三春屋が閉店したら、どんな影響が出るか心配だ」と40歳代の飲食店経営者は話していた。イトーヨーカ堂が撤退したビルは、チーノはちのへと名称を変え、映画館やテナントが入居していたが、活性化は難しく、今年2月になって、11月に閉鎖し、周辺のビルなども含めて、再開発することが発表となった。「三春屋やチーノは、ビルも老朽化していて、あのままでは活性化も難しい。さっさと建て替えてくれて、マンションになれば住民が増える。その方が、飲食店などにとっては良いのではないか。」先の飲食店経営者は、再開発に期待をしている。
「百貨店でどうこうよりも、屋台村とか路地の店とか、ブックセンターとかで、チェーン店にないような楽しさができればいいんじゃいですかね」と30歳代の男性会社員は言う。昨年12月に八戸市で話を聞いた人たちの多くは、三春屋への思い出などを語ってくれたが、百貨店を残すことにに固執する必要はないだろうという考えだった。
八戸市の中心部には、地域観光交流施設「八戸ポータルミュージアム はっち」や公営書店「八戸ブックセンター」などがあり、利用者には高校生など若い世代も目立つ。「八戸ブックセンター」は、読書会コーナーなど地元住民向けとなっているが、八戸市の文化に触れられ、執筆するための「カンヅメブース」などもあり、観光客にとっても充分、魅力的な施設となている。
2002年に東北新幹線八戸駅開業に併せて、開業した八戸屋台村「みろく横丁」も人気施設として定着している。コロナ禍の影響は大きく、飲食店なども経営難に直面しているが、いずれこの状況は終わる。その時、ポスト・コロナ時代の地方都市のあり方として、今回の三春屋の閉店が未来を見据えた転換期となるよう、八戸市の中心市街地の今後に期待したいところだ。
参考