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iPhone 5sに搭載される指紋認証「Touch ID」の詳細とApple IDの展望

松村太郎ジャーナリスト/iU 専任教員
Touch IDを披露するフィル・シラー上級副社長。

結構アイコンが好きなのですが。

AppleがiPhone 5sに搭載した数少ない技術的な新機能である指紋認証センサー「Touch ID」について、Appleは以下のビデオを公開していますが、ウェブサイトでもう少し詳細の内容が語られました。セキュリティに関することなので、こうした技術的、仕組み的理解の促進は重要でしょう。

こうした普及は、1年後になるのか半年後になるのか分かりませんが、Touch IDを活用してECサイトやリアル店舗での決済を可能にする「Touch Pay」の仕組みを導入する方向に動いて行くのではないか、と思います。

以前CNET Japanで、名前で決済を済ませるSquare Walletの仕組みを紹介しましたが、スマート決済市場に対して新たなプラットホームとして展開していくのではないか、と予想しています。

■ Touch IDはどのように動くのか?

まずは、Appleのプレスイベントでも披露されたTouch IDについてのビデオをご紹介。

Touch IDはiPhone 5sを購入した際に、パスコードなどを設定する初期設定で簡単に登録することができます。以降、1日に50回以上は入力するんじゃないか、というロック画面解除のパスコードの代わりや、アプリや音楽を購入する際に入力するApple IDパスワードの代わりとして利用できるようになります。

以下に、現在分かっている情報をまとめます。

  • Touch IDはセンサーで指紋の特徴を登録し、これをA7チップに暗号化して保管する仕組み。A7チップは指紋の写真そのものをほおzんするわけではない。デバイス内に閉じて管理され、AppleがiCloudにバックアップを取ったり、他のアプリから抜き取られたりしない。
  • Touch IDセンサーは360度読み取りが可能。例えば右手でiPhoneを握って親指を横向きに読ませても、左手で握って右手の親指を縦向きに読ませても認識する。
  • Appleは指紋の登録数上限を特に言及していない。例えば、右手の親指と左手の親指の両方(両手で握ってロック解除する可能性があるから)、人差し指と中指、といった具合で登録しておくと便利そう。
  • 現在はiPhone 5s(A7搭載モデル)にしか内蔵されない。廉価版のiPhone 5cのホームボタンはこれまで通りの通常のもの。
  • セキュリティは高まるか?という疑問について。まず指紋認証は歴史がある技術で、過去に破られたことはある。また寝ている間にタッチセンサーに親指をあてられれば、もちろんロックは解除される。またiOS 7で、指紋とパスコード、といった2段階認証に対応するかは不明。

■ Touch IDの効能--- BOYD市場とモバイル決済

富士通が指紋認証付きのケータイをリリースしたり、ThinkPadも指紋認証を搭載しており、モバイルデバイスでは決して珍しいわけではない指紋認証センサー。

おそらく次のiPadのA7チップ搭載モデルにもTouch IDを搭載してセンサー付きボタンの量産効果を高めてくるはずで、iPhone、iPadともにセキュリティ強化をビジネス市場に訴求していくのではないか、と考えられます。

例えば企業で利用するiOSデバイスについて、セキュリティポリシーに指紋認証を必須とする、といった管理を行うことで、Touch IDによる認証を用いないiPhoneやiPadを企業のネットワークから排除することができるようになるでしょう。

また個人にとっても、iOS 7から強化されるデバイスそのものApple IDによるアクティベーション・ロックをApple IDと指紋で行うようにすれば、盗難されても中身が見られないどころか、デバイスのアクティベーションもできない、といった状況を作り出すことができるようになりそうです。

そして、最後に、Touch IDを用いた将来像はモバイル決済になるでしょう。

Apple IDは現在、iTunes Store、App Store、iBookstoreなどのデジタルコンテンツの決済に利用できますが、同時に、リアル店舗のApple Storeで、Apple Storeアプリを利用することで、自分でバーコードを読み取ってApple IDで決済を済ませることができます。単純に考えて、Apple IDを用いた決済を他のリテールに広げていったら、という話が考えられます。

前に紹介したSquareはクレジットカード決済のシステムを提供する事で利用する店舗を草の根的に増やし、結果として位置情報を活用したSquare Walletの仕組みを提供し始めました。Appleはより大きなチェーンからアプリによる決済を広げていく戦略を採っていくのではないか、と思います。

冒頭に紹介したSquare Walletの記事でも触れた通り、米国でのリテールへのインフラ普及は驚くほど遅く、NFC対応決済はわずかで、ほとんどがバーコードとクレジットカードの決済で止まっています。Appleが指紋認証を生かした決済の仕組みを広げていくには相当な時間がかかり、現状ではSquareに分があるように思いますが、取り組み初めて損はない市場でもあるでしょう。

ジャーナリスト/iU 専任教員

1980年東京生まれ。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。2020年よりiU 情報経営イノベーション専門職大学で、デザイン思考、ビジネスフレームワーク、ケーススタディ、クリエイティブの教鞭を執る。

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