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肉食後進国の日本で「生食できますよ」と囁いてレバーを出す店で肉を食べてはならない

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト
(写真:イメージマート)

すべてのレバ刺しはモグリです。いまどき「新鮮だから」という理由で生レバーのレバ刺しをドヤ顔で出すような店で食べてはなりませんし、「ナイショね」と親切心で提供する店も勉強が足りません。すべてのレバ刺しからリスクは排除できないのです。

2011年、富山県の焼肉店「焼肉酒家 えびす」で提供されたユッケによる集団食中毒事件では、5人の生命が失われました。以降、国内の飲食店ではレバ刺しは全面提供禁止。ユッケなど正肉の生食にも厳しい基準が設けられ、保健所の許可なしには提供できなくなりました。亡くなった方が複数いるのですから、当たり前の話です。生死を左右するリスクのある安全を超える美食なんてありません。

四方を海に囲まれ、新鮮な海産物をごちそうだと思ってきた日本人にとって、刺身に象徴されるような「生」は新鮮なおいしさの象徴です。

しかし肉は、新鮮だからといって生で食べられるわけではありません。前出の食中毒事件の原因菌となったO111やO157などの腸管出血性大腸菌は牛、豚、鶏などの腸管内に存在し、毒性の強い「ベロ毒素」を産生します。富山の食中毒事件でもこの毒素が猛威をふるいました。腸管出血性大腸菌やカンピロバクターは鮮度を問わず腸管内に存在します。

本来腸管内にいるはずの大腸菌ですが、と畜や加工の工程で赤身に付着するリスクはゼロではありません。

1999~2010年の食中毒統計によれば生食用牛レバーを原因とする食中毒は116件、同時期の生食用牛肉を原因とする食中毒は5件あります。

その他「牛レバー内部における腸管出血性大腸菌等の汚染実態調査」では牛レバー173件中、レバー表面7件、内部2件のO157汚染が検出されています。これら牛レバー内部へのO157侵入経路については明確な結論は出ていません。

牛の腸管内に存在するO157が逆流してレバーに侵入するという見立てもありますが、いずれにしてもレバー表面はもちろんのこと、内部にO157が存在する可能性はいまなお排除できず、それゆえ牛レバーの生食は規制が外せないままとなっているのです。

ちなみに牛の内蔵にはO157だけでなく、ギラン・バレー症候群の原因菌でもあるカンピロバクター汚染のリスクもあります。農林水産省の調査では牛は直腸(テッポウ)のほか、レバー、第4胃(ギアラ/アカセンマイ)などから菌が検出されています。

直腸を生やレア焼きで食べるという店(や人)はさすがにいないと思いますが、レバーやギアラ(アカセンマイ)もきっちり火を入れてから食べましょう。どちらも上手に加熱すれば、味わいも歯ごたえも膨らみます。

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編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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