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Meetic のデーターベースから見えたモテる人とは

プラド夏樹パリ在住ライター
出会いサイトでパートナーを求める人は国民の4分の1(写真:アフロ)

フランスの国立人口研究所(INED)の社会学者マリー・ベルグストロム氏が、フランス系出会いサイトMeetic とアメリカ系OKCupidの膨大なデーターベースをもとに、現代人の恋愛行動を分析した『Les Nouvelles Lois de l’ amour. Sexualite, couple et rencontres au temps du numeique デジタル時代の恋愛、セクシャリティー、カップル、出会いに関する法則』という本を出版した。

のっけから利用者をがっかりさせるようで申し訳ないが、Meetic に登録する男性がプロフィールに書き込む体重と身長を平均すると、国民の平均体重より2kg少なく、その身長は国民平均より2cm高いそうだ。同じくMeetic に登録する女性の身長は国民平均より2cm高く、体重はなんと5kg減る。そして男女共に、年齢は当然若く誤魔化す。例えば37歳なら35歳と、52歳なら50歳とサバを読むのはごく普通らしい。

フランスではパートナー探しをメディアや専門機関に依頼するのは今に始まった事ではない。1885年創刊のLe chasseur francais という狩猟をする人々を対象とした新聞や、左派のLiberation紙のパートナー探し三行広告が有名だった。

ただ、1985年、結婚相談所を利用していたフランス人はわずか2%に過ぎなかったのに対し、今や18歳から65歳の4人に1人が出会いサイトやマッチングアプリを利用している。57.5%のフランス人が独身者、離婚者、あるいはパートナーを亡くして一人で暮らしている(Insee国立統計研究所2018 調べ)ので、当然かもしれない。ちなみに、 出会いサイトの利用者の3分の1は50歳以上らしい。

ベルグストロム氏が資料として使用したのは2011年からMeeticを利用した1千万人のプロフィール(写真もハンドルネームも除いた匿名化されたもの)、そして彼らが送信し合った約2億通のメッセージだ。もちろん彼女はメッセージの内容にはアクセスすることはできないが、AさんがB氏にメッセージを送り、B氏は何日後にあるいは何時間後に返信したということがわかるといったものである。誰が誰に惹かれるか、誰が誰に返信し、誰がメッセージを全く受け取らないかというデーターをもとに、現代の恋愛法則について社会学的観点から研究した結果である。

これまでの恋愛行動に関する社会学研究では対象となる人々に直にアンケートをとる方法をとることが多かったが、自分で自分の行動を客観的に観察することができる人は少ない。また、インタビューを受けると、どちらかというと「自分がイメージする自分」、あるいは「自分がなりたい自分」について語ってしまったり、無意識に隠蔽してしまう事実もある。ところが、匿名化されたビッグデーターではそうはいかず、すべてはバレバレになってしまう。

意外にモテない若い男性

例えば、40歳以上の男性は社会学者を前にしてのアンケートには「いやー私は何歳の女性でもOKですよ」と鷹揚に答えるのに対し、その彼らが出会いサイト上では若い女性だけをターゲットにパートナーを探すことが多いということだ。

何れにせよ、ほとんど全ての文化圏で、一番、カップルになりやすいのは若い女性と年上の男性。特にフランスでは、女性側がそのように望んでいるらしく、20歳代から30歳代の女性は安定した年上男性を探す。(アメリカのミシガン大学の研究 によれば、女性のモテ時は18歳、男性は50歳。ちなみに一番モテるのはアジア系とラテンアメリカ系女性。一番人気があるのは大卒程度、それ以上になると敬遠される傾向があるとのこと)

その結果、出会いサイトは「平等」とは程遠い場らしい。若い男性はシカトされる。育児を終え、新しいパートナーを探す40歳以上の女性は多いが、反対に、同世代の男性は新しく家庭を築くことを求めているので、どちらかというと若い女性とゴールインしやすい。また、貧困層、低学歴の人々はメッセージを書くのを苦手とする人が多いので出会いサイトでは人気がないそうだ。

出会いサイトで知り合った相手と付き合うことは、バーや路上で出会った男性と付き合うより安全と考える人々は多い。メールでのやり取りで相手の出方を観察することもできるからだ。しかし、相手が見えないだけに、伝統的なジェンダーステレオタイプに縛られるということもあるらしい。著者のベルグストロム氏はスウェーデン人だが、「スウェーデンでは、バーで気に入った男性がいたら女性から声をかけるのは普通だけれども、フランス社会では、男性から女性に誘いをかけるというのが定型となっており、サイト上でもこうした行動規範は変わらない。女性が魅力を振りまき、男性からアプローチするのが90%」と言っている。

確かに周囲の人々の監視から逃れて、女性たちはパートナーを積極的に探すことができるようになった。しかし、だからと言って「女はこうあるべき」「男はこうでなくちゃ」という意識から自由になったわけではない。他者からの束縛は無くなったが、自分の中にあるジェンダーステレオタイプから自由になるのはまだまだ時間がかかるらしい。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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