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鉄人・玉鷲の「最年長V」 で幕を閉じた秋場所 批判が上がった貴景勝の「立ち合い変化」への私見

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
大相撲九月場所千秋楽、玉鷲×高安、優勝した玉鷲(写真:東京スポーツ/アフロ)

玉鷲が2度目の賜杯 高安にもエールを送りたい

大相撲秋場所千秋楽。2敗の玉鷲と3敗の高安による大一番は、鉄人・玉鷲に軍配が上がった。

立ち合いの圧力で攻め勝ったのは玉鷲だった。得意の右からの攻め。体勢を崩した高安に休まず突き押しで攻め続けて押し出した。最後の最後まで、玉鷲らしい素晴らしい相撲で有終の美を飾った。37歳10か月。一度優勝を経験したことによる精神面の安定も大きかっただろう。昭和以降最年長優勝を記録しただけでなく、まだまだこれからの躍進も期待される。

2番勝たなければならなかった高安としては厳しい戦いだったかもしれないが、個人的には高安の初優勝も見てみたかった。筆者と同い年の32歳。角界ではもう「ベテラン」と呼ばれる域ではあるが、今回の玉鷲の活躍が「まだまだチャンスはある」と訴えかけてくれているようにも感じられる。取組後に「玉鷲関が強かったです」と真っすぐ答えることができる高安。そんな彼にも、いつか必ず賜杯を抱いてほしい。

横綱・大関の立ち合い変化に思うこと

また、今場所話題になったのが、12日目に勝ち越しを懸けた大関・貴景勝が、優勝争いに絡んでいた平幕の北勝富士に見せた立ち合い変化。真っ向勝負を期待するファンにとっては「残念な結果」で、大関がするべきことではないと一部で批判が上がったのだ。

しかし、個人的には貴景勝に寄り添いたい。もちろん、ファン心理としては常に正攻法の相撲を期待しているし、たしかに立ち合い変化は「美しくない」といえるかもしれないが、横綱だろうと大関だろうと、力士たちは全員、目の前の一番に必死で15日間を戦っているのだ。

2017年3月場所。かつての大関・照ノ富士が、関脇に陥落して大関復帰を目指していた琴奨菊(現・秀ノ山親方)に対して立ち合い変化をした。実は、多くの人が知る由もない前日の膝の大ケガによって、やむを得ず選択した結果だったのだが、ファンはやはりそれを許さなかった。当時のことを振り返り、照ノ富士は自身の著書のなかで「目の前の白星のために必死にやったことだが、菊関にはいつかあのときのことを謝罪したい」とした上で、こう語っている。

いまだからわかるのは、みんな目の前の白星のために必死にやっていたということ。いろんなことを考え、絞り出した上での選択なんだ。自分の選んだ変化という策もそうだけど、稀勢の里関も琴奨菊関も、みんなみんな、その時々の「最善」を考え、選択しながら相撲を取っている。だからこそ、いまの私は、どの力士のどんな相撲にも、リスペクトをもっていたいと常に思っている。(照ノ富士春雄・著『奈落の底から見上げた明日』〈日本写真企画〉123ページより引用)

今場所、貴景勝に批判が上がったとき、筆者は横綱のこの言葉を思い出し、必死に目の前の白星をつかんだ大関に思いを馳せた。さまざまな意見はあれど、常に「力士ファースト」を信条にする筆者は、上記の考えでいることを最後にここに書き記しておきたい。

平幕が奮起し盛り上がった秋場所が、ついに幕を閉じた。優勝争いを演じた玉鷲、高安以外にも、多くの力士が奮闘した印象だ。次の舞台は九州。それまでまた、ファンの皆さんの「相撲ロス」を埋めるべく、力士たちのインタビューをお届けできるよう奔走したいと思います。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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