ぼったくりに厳罰/どこでも消毒液の匂い……中国武漢の“コロナ封鎖”まもなく2カ月
新型コロナウイルスの中国湖北省での新規感染者が18日はゼロだったと当局が発表したものの、感染拡大の発端となった武漢の封鎖状態が終了するめどは立っていない。封鎖から間もなく2カ月。この間、生活はどう変化し、住民の気持ちはどう揺れ動いたのか。現地在住の王海霞さん(20代女性、仮名)に聞いた。
◇ぼったくりには罰金
武漢市は面積約8570平方キロで広島県(約8480平方キロ)並み、人口約1100万人は神奈川県(約920万人)よりも多い。中国の陸と空の交通の要衝で、高速鉄道の武漢駅には主要幹線が通り、武漢天河国際空港では東京や大阪をはじめとする世界各地への国際便が運航している。
感染拡大を抑え込むため、こうした交通機関が1月23日から使えなくなり、市内が事実上、封鎖された。
「人とモノの流れが止まってしまったので、今は団地単位で生活必需品をネットで共同購入しています。先日、パソコンの電源コードが故障して使えなくなりました。メーカーや修理業者に送る手立てがなく、テレワークで大きな痛手を受けました。友達の友達、さらにその友達をつたって、何日もかけて電源コードを確保したんですよ」
日本ではマスクやトイレットペーパー、ティッシュ類の品不足が続く。買いだめに走った人の多くが「トイレットペーパー不足はデマ」と知りながらも店頭に走る。転売目的のマスクの買い占めを防ぐため、日本では3月15日から、マスクを購入した値段よりも高値で転売する行為が法律で禁止された。
「中国政府は、物価を吊り上げることに対して、非常に厳しく対応しています。ある薬局は法外な値段で薬を売って300万元(約4700万円)の罰金が課せられました。ぼったくり価格を表示していた豚肉業者も数万元の罰金を受けました。なので、私には物価が極端に上がったという感覚はあまりありません」
◇弱者へのいたわり
共産党機関紙・人民日報のニュースサイト「人民網」が2月13日に報じたところによると、武漢では、新型肺炎の重症患者を集中治療する指定医療機関が40カ所以上。仮設専門病院の火神山医院と雷神山病院も合わせると、病床数は1万2000床まで増えた。
「市内の多くの病院が指定医療機関として使用されているため、基礎疾患(心血管疾患、糖尿病、悪性腫瘍など)をもっている人たちは病院を出なければなりません。つまり、そうした人たちが必要な治療を適切に受けられない状態が続いているのです。都市封鎖が続けば、彼らの生命が脅かされます。持病の薬、特に処方薬をどうやって届けるか方法を考えなければなりません」
武漢市の対策本部は3月12日の記者会見で、患者数が減少し続けていることを受け、すべての指定医療機関が3月末までに通常診療を再開することを明らかにした。これら医療機関は徹底した消毒が施されたあと、通常の業務に戻る。既に武漢の新型肺炎患者の3分の2以上が回復して退院したといい、公共施設を使った臨時の医療施設(16カ所)はすべて閉鎖されたという。
武漢での感染者は40代までは重症化は少なく、50代から年齢が高くなるに従って致死率も高くなっている。中国の患者約4万5000人のデータによると、80代の致死率は14・8%にも上った。
「身寄りのないお年寄りの問題も深刻です。お年寄りには中国最大級のSNS「微信」(ウィーチャット)を使っていない人が多く、微信を使ったコミュニティーの連絡網に入れません。生活必需品の団体購入もできません。お年寄りの中には街が突然封鎖されたため、身の回りの世話をしてくれる身内が戻って来れない例もあります。コミュニティーは必ず、こうしたお年寄りのもとに、定期的に専門家を送り、何か不自由がないか確かめる必要があります」
◇力を発揮した隣近所の連携
武漢では感染が広がるペースが落ちているものの、その脅威が消えたわけではない。住民の外出制限もいつまで続くのかは見通せない。王さんは外出の際、帽子、手袋、大きめのゴーグル、顔の下半分がすっぽり入るマスクを着用のうえ、フードの付いたレインコートを被り、ガムテープなどで隙間をふさぐ。団地のどこに行っても消毒液の匂いがする。
不自由な生活の中では、人と人とのつながりの大切さをこれまでにないぐらいに感じたという。
「隣近所の関係はものすごく親密になりました。みんな互いに助け合っています。どこの世界にも不平不満を口にする人はいますが、それはごく少数です。足らない物は互いに融通し合っています。なので、トイレットペーパーやマスクが手に入らないという状況にはなりません」
湖北省は3月11日の段階で、武漢にある公共性の高い医療関係、電気・ガスなどの公共関係、食料や配送など生活に関わる企業の再開を段階的に許可すると発表したが、それ以外の企業の再開はさらに延長された。
だが、不便な生活がいつ終わるのかは見通せない。
「助けを求める人はあちこちにいます。必要とされる物資をコミュニティーの力で見つけ出し、それをバトンをパスするように流していく。薬を手に取ることができたら、それを手元に持っておくのではなく、必要な人にパスする。こういう難局では、住民たちが私利私欲を越えて協力し合わなければならないと実感しています」
◇
王海霞さんの感想は、自身の周りで起きたことや、微信などで共有した情報に基づくものだ。ごく限られたコミュニティーでの出来事に過ぎず、武漢市民の置かれた状況の典型的な例ではない。もっとも、習近平指導部を批判するような情報を国外に発信すれば、王さん自身が摘発の対象となる。
現地からは厳しい状況を伝えるニュースが頻繁に届けられる。
ある患者は、病院に空きがなく、「隔離ポイント」のビジネスホテルに送り込まれた。だがそこには医療スタッフがおらず、マスクも消毒液も酸素ボンベもない。家族からも引き離され、そのまま亡くなった。
また、新型肺炎で亡くなった人の遺体は袋に密閉されたまま火葬され、遺族はその最期に会うことができない。葬式さえ禁止されたという話もある。
武漢の惨状をネットを通じて発信していた中国人のジャーナリストらが相次いで行方不明になっている。当局に不都合な情報を入手・報道したため連行された可能性が高い。