虐待で殺害される子どものほとんどは0歳児。私たちにできることは?
日本財団「ママの笑顔を増やすプロジェクト」では、毎月25日に「みんなニコニコ(2525)ミーティング」を開催しています。
4月25日のテーマは、「子どもたちに愛を! みんなで出来ること、あなたに出来ること」でした。自分の子どもだけでなく、地域の子どもたち、中でも社会的養護が必要な子どもたちに対して何ができるのかを考えることが目的です。
近年、子どもに対する虐待が増加傾向にある中、その原因の多くは予期せぬ妊娠ともいわれています。会の前半では、こうした妊産婦の状況や、専門里親・養育里親の実情について、婦人保護施設、児童養護施設、里親家庭の当事者と弁護士にお話を伺いました。後半では母子支援に携わるゲストを交え、現場で必要とされている支援は何か、施設で暮らす子どもたちに何ができるのかなどを議題に、グループディスカッションを行いました。
「自らを律するママが、配慮ある環境で、活躍できる社会」を目指す取り組み
みんなニコニコミーティングとは日本財団「ママの笑顔を増やすプロジェクト(通称:ママプロ)」が、女性が生み・育て・活躍しやすい社会を次世代につなげることを目的に、ママを取り囲む多様なセクターの方を迎えて毎月25日に実施するネットワーク構築の場です。
2012年10月にスタートし、3年目を迎えます。たくさんの人たちと対話し、協働する機会を見つけながら、「みんながみんなを支える社会」、「自らを律するママが、配慮ある環境で、活躍できる社会」を目指して活動しています。
殺害される子どもで最も多いのは0歳児
弁護士でNPO法人シンクキッズ代表理事の後藤啓二さんは「子ども虐待死ゼロ」を目指す法改正の署名活動をしています。
平成24度に把握した心中以外の虐待死は、0歳児が22人(43.1%)、1歳が7人(13.7%)、2歳が3人(5.9%)と、3歳未満で32人(62.7%)を占めます。さらに0歳児では月齢0か月が11人で0歳児の半分を占めています。
主な加害者(心中以外の虐待死)は実母が38人(74.5%)と最も多く、特に3歳未満では実母が27人(割合84.4%)と実母の割合が更に高いのです。
虐待予防は胎児のうちから必要です。そのため妊娠に悩む女性を救う体制の整備を求めています。署名活動では「望まぬ妊娠等子育て困難な妊産婦を医師が市町村に通報する制度及びこのような妊産婦に対する児童相談所の特別養子縁組あっせんを含む支援体制の整備」を目指しています。
産むか産まないか悩んだ末に出産した後、どう育てて良いかわからない
社会福祉法人ベテスダ奉仕女母の家/婦人保護施設「いずみ寮」施設長の横田千代子さんはこれまで様々な困難を抱えている母親への支援を行ってきました。
婦人保護施設はもともと売春を行うおそれのある女子を収容保護する施設でした。しかし、現在では家庭環境の破綻や生活の困窮など、様々な事情により社会生活を営むうえで困難な問題を抱えている女性も保護の対象としています。平成13年4月に成立した配偶者暴力防止法により配偶者からの暴力の被害者の保護も行っています。
「いずみ寮」でも夫などから暴力や、性暴力を受けてきた女性たちが利用しています。逆に子どもへの虐待経験があったり、子どもとの面会が拒否されているケースもありました。
横田さんは母親自身が子どもの頃に虐待を受けていたため子どもの育て方に悩んでいたり、産むか産まないか悩んだ末に出産した後、どう育てて良いかわからない母親に対する支援の必要性について訴えました。
子育ては未来を育てること。みんなで一緒に子どもを育てたい
一般社団法人こどもみらい横浜会長の新井淳子さんは養育里親として、これまで何人もの子どもたちを育ててきました。
里親制度とは、さまざまな事情により家庭で生活することができない子ども達を、家族の一員として迎え入れ、温かい愛情と家庭的な雰囲気の中で育てていく、児童福祉法によって定められている制度です。
里親になるためには、特別な資格は必要ありません。いくつかの要件を満たすことは必要ですが、望まれることは健康で明るい家庭であることです。一般社団法人こどもみらい横浜は横浜市の里親会として、里親子支援、里親制度の普及啓発などにつとめています。
新井さんは、「子育ては未来を育てること。みんなで一緒に子どもを育てたい。」とお話していました。
子どもたちの居場所がない。今こそ社会みんなで子育てを
千葉みらい響の杜学園施設長の渡部靖久さんからは児童養護施設で暮らしている子どもたちの現状について説明がありました。
児童養護施設は保護者のいない児童、虐待されている児童など、環境上養護を要する児童を入所させて養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設です。
千葉みらい響の杜学園は福祉と教育を融合した暮らしの学校(もう一つの還る家)として自立支援と家族支援を行っており、2歳から高校生までの子どもたちが暮らしています。
児童養護施設に入所している子どもの半数以上が虐待を受けてきました。施設に入所していなくても地域の中で同様の不安を抱えて暮らしている子どもたちも少なくありません。
渡部さんは「養育機能を果たしていない家庭が増えてきている。子どもたちの居場所がなくなってきていると感じる。今こそ社会みんなで子育てをしていくことが必要」とお話していました。
私に出来ること
最後にサイボウズ株式会社の渡辺清美さんより「私に出来ること」として、故有尾美香子さん(一般社団法人ぐるーん創設者)の実践事例についてご紹介がありました。
有尾さんは、9年前、育休をとられていたときに虐待を受けている子どもたちをに出会い、救うべく行政に働きかけていました。育休中に離婚し双子を育てるシングルマザーとして職場に復帰したのち、より子どもたちの育成に関われる仕事へと児童養護施設の子どもたちの支援をしている企業に転職し、プライベートでも乳児院に通い、抱っこボランティアを始めました。
2011年には「抱っこサポーター」の派遣やさまざまなイベントを通して、社会の人々と施設の子どもたちの交流を促し、里親制度や養子縁組制度を普及し「血縁」にとらわれない、さまざまな新しい絆を生み出していくことをミッションとした「ぐるーん」を設立しました。「ぐるーん」は、人々の心の温かいところに触れ広がり、全国で800名近くの方々が参加する活動へと発展しました。参加者からは里親希望者も出ています。
大変に残念ながら有尾さんは今年2月に卵巣がんのため急逝されましたが、昨年2月にサイボウズ社員が撮影したインタビュー映像を会場で上映しました。
「ぐるーん最初の抱っこサポーター」有尾美香子さんのインタビュー
有尾さんの最期の言葉も合わせてご紹介します。
尊い2つの命をこの世に送り出せたこと。愛を求める小さな命を抱きしめてくださる方々が集う"ぐるーん"をうみだせたこと。この2つは私がこの世に生を受けた証です。明日何があるかは誰にもわかりません。だから、あなたの大切な人を、そして愛を求める小さな赤ちゃん達を、今日も惜しみなく抱きしめましょうね。