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なぜか? 台湾で一番「不快」な列車に群がる観光客の不思議。

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長
枋寮駅で発車を待つ1日1往復の「普快車」

今、台湾の鉄道がブームです。

ここ数年、日本では台湾ブームで、多くの観光客が訪れるようになりましたが、そういう観光客にとって便利なのが台湾の鉄道。新型で快適な特急列車は移動だけでなく鉄道ファンにも魅力的な存在ですが、そんな台湾の列車の中で一番人気なのが本日ご紹介する「不快」な列車。

南国の台湾で冷房がついていない地獄のような「不快」な列車に観光客が群がるという不思議な現象が起きています。

台湾は日本統治時代に鉄道などのインフラが建設されたため、線路の幅に始まり、列車の運行システムや走る車両なども日本の国鉄とほぼ同じ規格で、私たち日本人から見ても違和感がなく、なんとなく懐かしさを覚えるのが台湾の鉄道です。その中で、今もっとも注目を集める列車が台湾で一番「不快」な列車といわれる「普快車」です。

台湾の鉄道(在来線)は国鉄で、いろいろな列車が走っています。

列車種別としては、

自強号(特急列車)

呂光号(急行列車)

復興号(準急列車)

区間快車(快速列車)

区間車(各駅停車)

のほぼ5種類で、台湾全土をネットワークしていますが、「普快車」というのは区間車(各駅停車)よりも下に位置する列車です。何が違うかというと、上記5種類の列車はすべて冷房付きで運転されているのに対して、普快車は冷房なしの車両で運転されている唯一の列車。

南国台湾で通年冷房が必要な土地柄にあって、冷房のない車両というのは実に「不快」この上ないものでありますが、今、その台湾で一番「不快」なこの「普快車」が、一番人気の列車として観光客が殺到しているのです。

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台湾鉄道路線図。普快車が走るのは南部の枋寮-台東間(拡大図) 提供:台湾鉄路管理局
台湾鉄道路線図。普快車が走るのは南部の枋寮-台東間(拡大図) 提供:台湾鉄路管理局

その「普快車」が走るのは、台湾南部の大都市高雄から1時間ほど南に進んだ枋寮から、山を越えて太平洋に面する台東までの南廻線と呼ばれる約100kmの区間。この間を2時間半ほどかけて走る1日1往復の「普快車」に今観光客の注目が集まっています。

筆者が訪ねたのは9月15日。ちょうど台風22号がフィリピンに上陸した日で、台湾南部も大荒れの天候でしたがその悪天候にもめげず、列車はたくさんの乗客でにぎわっていました。

枋寮駅で普快車に乗り込む結解先生。先生は台湾国鉄から「台鉄の友」として表彰を受けているほどの日本人として台湾鉄道情報発信の第一人者です。
枋寮駅で普快車に乗り込む結解先生。先生は台湾国鉄から「台鉄の友」として表彰を受けているほどの日本人として台湾鉄道情報発信の第一人者です。

今回の取材にご同行いただいたのは台湾の鉄道を研究して40年以上という鉄道写真作家の結解喜幸(けっけ よしゆき)先生。結解先生は長年の功績を認められて台湾国鉄(正式名称:台湾鉄路管理局)から「台鉄の友」として表彰されている実績がある、おそらく台湾国鉄を一番よく知る日本人ですが、その結解先生一番のおすすめの列車が、今回ご同行いただいた南廻線を走る「普快車」なのです。

ディーゼル機関車を先頭に3両の客車が連なる普快車。いつもはオレンジ色の機関車ですが、この日は珍しく客車に合わせたブルーの塗装の機関車が先頭に立っていました。
ディーゼル機関車を先頭に3両の客車が連なる普快車。いつもはオレンジ色の機関車ですが、この日は珍しく客車に合わせたブルーの塗装の機関車が先頭に立っていました。
車体にはこのような形式表記が。日本の国鉄時代を知る方には懐かしい日本式表記です。
車体にはこのような形式表記が。日本の国鉄時代を知る方には懐かしい日本式表記です。

その普快車がこの列車です。先頭のディーゼル機関車が後ろに連結された客車をけん引するタイプの列車で、日本ではすでに乗れなくなってしまった客車列車です。そしてその客車というのが、オンボロの非冷房車。ムシムシする車内で窓全開で乗車する列車ですが、走り出すと時速80キロ以上になりますので思いっきり風が入ってきて、帽子は飛ばされるし髪の毛はボサボサ、弁当の殻は飛んでいくはと、実に大変な列車なのです。

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観光客で混雑する普快車の車内。
観光客で混雑する普快車の車内。

ところが、この普快車がご覧のように大人気の状態で、それも鉄道ファンばかりではなくて、高齢者を含む普通のおじさん、おばさんが乗りに来ているのですから不思議です。

この日は台風22号の接近で大荒れのお天気でしたので、「いつもより少ないよ。」と車掌さん。それでもこの乗りですから、人気はかなりのものだと思います。

台風で大荒れの絶景区間。この荒波も絶景ではありますが。
台風で大荒れの絶景区間。この荒波も絶景ではありますが。
お天気が良いと、このような素晴らしい景色が広がります。
お天気が良いと、このような素晴らしい景色が広がります。

列車は台湾でも1~2を争う絶景区間を何か所も廻ります。

冷房がない車両ですから当然窓を開けて風を直接感じながらこの絶景区間を走るのが「普快車」の醍醐味です。

この列車は結解先生のご著書やご出演されたテレビ番組で近年有名になりましたので、日本からも訪れるファンが多く、筆者も年に3回ほどこの区間を走りますが、必ずと言ってよいほど日本からの観光客に出合います。

この日も沖縄からいらした山城さんというご夫婦が汽車旅を楽しまれていました。

山城さんはご主人も奥様も鉄道にはあまり興味がないとおっしゃる普通の旅行者でしたが、枋寮の駅で列車の発車前に奥様の方から結解先生にお声をかけられていらっしゃいました。お話をお伺いすると、「テレビで見て面白そうなので来てみたんです。そうしたらテレビで見た方がお乗りになっていらっしゃるのでびっくりしました。」とのこと。偶然の出会いに大歓迎されていらっしゃいました。

沖縄県からいらした山城さんご夫婦。結解先生の番組でこの列車を知って乗りに来られたようです。
沖縄県からいらした山城さんご夫婦。結解先生の番組でこの列車を知って乗りに来られたようです。
その結解先生がご出演されたテレビ番組がこちら。山城さんの奥様のスマホにも保存されていました。
その結解先生がご出演されたテレビ番組がこちら。山城さんの奥様のスマホにも保存されていました。

もちろん台湾最南端のローカル列車ですから日本人観光客は少数派で、台湾人の観光客がとても多いのですが、それも如何にも鉄道マニア風の人は少なく、女性や家族連れなどごく普通の観光客でにぎわっているのがとても印象に残りました。

特別な設備がある観光列車でも何でもない旧式の車両を使用する「普快車」。この台湾で一番「不快」な列車が、今、台湾で一番人気の観光列車なのです。何も新しいもの、快適なものを追いかけるだけが旅じゃない。そんな時代が来ているようです。

もしかしたら、日本人よりも台湾人の方が鉄道に対する考え方が深く、親近感を持っているのではないか。時代のとらえ方が上手なのではないか。そんなことを考えさせられる台湾のローカル列車の旅です。(写真はすべて筆者撮影)

※ご注意:台湾国鉄は10月中旬にダイヤ改正が予定されています。ご旅行の際にはweb等で必ずお調べの上お出かけください。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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