みんなで集まってゲラゲラ笑いながら考えたことをそのまま具現化したい[横沢ローラ インタヴュー]
2022年の年末にかけて、2つの“規格外”な音楽イヴェントを体験する機会を得た。ひとつは“conte de fées「青い鳥」”という“音楽と創作するインスタレーション”。もうひとつは、「赤鼻祭」という祝祭性を帯びた音楽フェス。その2つに大きく係わっていたシンガーソングライターの横沢ローラに、イヴェントの経緯と実現までの道のり、これからの抱負などを語ってもらった。
“ムシケラ”が“青い鳥”に変身⁉
──まず、2022年11月26日に神奈川・横浜の逃げBar White outで開催された「青い鳥」のほうはどういう経緯で立ち上げたのかをうかがいたいと思います。
横沢ローラ
Hitomi*さんっていうヴィブラフォン奏者の友だちがいまして、彼女と出会ったのは5~6年前だと思うんですけど、物語という切り口で曲をオリジナルで作って、そのインスタレーションと映像、装飾とかの会場の空気とお客さんの存在も含めて「“総合アート”みたいなことをやりたいね」っていうことで意気投合して、“ムシケラ”っていうバンドを組んだんです。
ムシケ・ラビリントス(Mousike Labyrinthos)、通称“ムシケラ”(笑)。ミュージック・ラビリンスのラテン語読みですね。そういうユニットを、映像作家でベーシストのLittle Woodyさんっていう方と3人でやっているんですけど、Hitomi*さんが探してくる会場はいつも不思議な空間ばかりで、さらに映像や衣装の演出も加え、飲み物とかも自分たちで作って出すみたいな。そういうイヴェントを3年ぐらいやっていました。
メンバー同士は引き続き自分たちの活動としていろいろ一緒に作っていますが、“ムシケラ”としてのライブはやらなくなってしまって、2022年の後半にかけて少しコロナ禍も落ち着いてきたから、「やっぱり物語ライブみたいなことをしたいよね」ってお互いに話していて、それで彼女はインスタレーション・ライヴを企画しよう、となったわけです。
──役割分担?
横沢ローラ
コロナ禍でも定期的に“自分がいちばんやりたいことってなにかな”っていうことを話しあっていて、その結果が、彼女のインスタレーション・ライヴと、私のほうは映像とか装飾とかご飯とかいろんな人がごちゃごちゃになったフェスみたいな祭りだったということなんです。つまり、「今年は自分たちのやりたいことやってみよう!」っていうのをやってみた、というかたちだったんです。
──それでまず、Hitomoi*さんの企画として2022年11月26日にインスタレーション・ライヴの「青い鳥」が開催されたわけですね。
“青い鳥”のひとりごと vol.1
https://ameblo.jp/jasminhitomin/entry-12772881333.html
青い鳥のこと vol.2
https://ameblo.jp/jasminhitomin/entry-12773555694.html
青い鳥のこと vol.3
https://ameblo.jp/jasminhitomin/entry-12775528450.html
conte de fées“青い鳥”終演&ライブ配信
https://ameblo.jp/jasminhitomin/entry-12780586359.html
横沢ローラ
それまでのHitomi*さんとのコラボは、話も曲も私が作って、そこに彼女が参加するってスタイルだったんですけど、今回の「青い鳥」では彼女がすべて曲を作り、会場も探し、演者もブッキングして、私は“作詞と歌”というかたちでの参加でした。
つまり、彼女がすべてプロデュースを担当し、横沢ローラというアーティストの文章力に信頼を置いていて、ラヴコールとして作詞を依頼してくれたのが「青い鳥」公演で、「赤鼻祭」は私が企画提案をし、賛同してくれる人たちを巻き込んで実施したというわけなんです。
類は友を呼んだのか⁉
──ローラさんって、デビュー当時からライヴで映像を使ったり、CDジャケットが組み立てられる仕様になっていたり、音だけにこだわるというより、表現全般的というか、いろんなことをやってみたい人なんだと思っていました。そういう意味でHitomi*さんとのコラボというのは、Hitomi*さんがローラさんをただ歌うだけ、音楽だけっていう人じゃないと思っていたのか、それともローラさんもHitomi*さんの活動を見て「この人ならできる!」と思ったのか、というあたりはどうだったんですか?
横沢ローラ
いちばん最初に観たHitomi*さんのライヴって、すごい素敵なところだったんですよ。マリンバとヴィブラフォンを2台置いてやるっていうライヴだったんですけど。
──それって、すごく楽器の場所を取る企画ですね(笑)。
横沢ローラ
そうなんです。場所は取るわ、運搬はタイヘンだわという楽器だから(笑)。その会場、アンティーク家具屋さんだったんですけど、装飾はもう最初からなされてるというか、シャンデリアがいくつもぶら下がってるような、夢のような会場でライブをしているのを発見してしまって、最初は、その会場を紹介してもらえたらと思って出かけて行ったんですよ。
──下見のつもりで?
横沢ローラ
そう、最初は……。Hitomi*さんご本人にも紹介してもらいたいし、ライブも観てみたいし、会場も紹介してもらいたいって。ところが、観終わったら、会場を紹介してもらうんじゃなくて、この人と一緒になにかやりたいなと思っていた。
その後、共演するようになって、好みとかいろいろ話しているうちに、やりたいことが似ているというか、音楽だけじゃなくて空間演出と映像と曲の背景も込みで届けたいと思っていることがお互いにわかったんです。オンラインの作品でもなくて、やっぱり会場で実際にみんなが集まって、全員で空気を作っていく──みたいなことをやりたいと思っていた。
ただ、一緒にやるとなると、私がシンガーなので、どうしても歌詞アリになっちゃう。それで歌詞アリでやってきて、曲や曲順など歌詞の物語を伝えるための作業については、私が担当することが多かったんですけど、この2022年11月の「青い鳥」では彼女がインスタレーションに初めて挑戦し、私は手伝わせてもらえたかたちでした。
だからあのステージは、インストゥルメンタルも多くて、ナレーションはひと言もなし。音楽と空間だけで表現してみたいっていうHitomi*さんがやりたかったことを実現したものだったんです。
彼女がストーリーの元になるメーテルリンクの「青い鳥」(原作を江國香織さんが日本語訳したもの)を選び、私にAmazon Kindleのリンクを送って来たんです。「これ読んで」って。
曲のコンセプトも彼女が全部決めて、どういうライヴの見せ方にするのかも決めて、1ヵ月ぐらい前に「こういう感じで」って連絡してきて、歌詞をつけてほしいって言われて「わかった」って言って、結果的に5曲作りました。
──一般的な音楽劇というスタイルではなかったですよね?
横沢ローラ
そうですね、音楽劇だったらきっとナレーションが入ったり、ストーリー展開を映像で説明したり、粗筋をもうちょっと追うようなものになると思うんですけど。
Hitomi*さんが試したかったのは、お客さんたちに「余白があるからこそ想像する楽しさと体感する幸せが生まれる」ということだった、って言ってました。
彼女が全指揮をとり、ライブ当日にも歌詞以外で喋るのは“タイトル”、最初のひと言だけにしようって、Hitomi*さんが決めたんですよ。
──話の筋が提示されない構成だということは観ていてわかりましたが、その分、演奏の負担が増していましたよね。Hitomi*さんはいろんな楽器を使われてたし、森田悠介さんも倉井夏樹さんも八面六臂の活躍を強いられていたというか……(笑)。
横沢ローラ
ほんと、そうなんですよ。場所的にも演奏者の人数を増やせないし、まさに厳選されたメンバーでした。ベースは絶対に必要だから、お芝居の仕事もやっていて曲も作っているような森田君を選んだのかなとか、倉井さんはハーモニカでいろんなサウンドを表現できたりとか、パーカッションも使って効果音を入れられて幅を広げられたりとか。それがHitomi*さんのやりたいコンセプトにめちゃくちゃマッチしていたと私は感じました。そのへんHitomiさんがどう考えていたかはわからないんですけど、私としてはそれぞれ今回の企画に適した、最少にして最高の人たちを選んだんだな、と思っています。
──会場の飾り付けも物語に没入させる効果が出ていたし、途中で白鳥紗也子さんが布を張り巡らせていくパフォーマンスも印象に残りました。
横沢ローラ
前日から白鳥さんが布を持ち込んで飾り付けていたんですよ。会場の白い壁に映像を映し出していたHIDERUさんは、白鳥さんと昔から舞台づくりを一緒にやってらっしゃるみたいで、不思議な光の球とかも……。
──そうそう、あの不思議な光の玉の謎とか、ああいうのはぜひ会場に足を運んでもらわないと、インタヴューでは伝えきれないから……。
横沢ローラ
ホントホント(笑)。実は、本番前までみんな設営に必死だったので、HIDERUさんがなにを持ち込んでいるのか気にも止めなかったんです。ようやくゲネリハ(=本番直前に本番を想定して行なう予行演習)を始めるっていうときに、HIDERUさんがあの球に、青い鳥を映したんです。そうしたらみんな「わー!」ってなって、森田君が「あの“水晶”はどこから持ってきたんですか?」って。
そのときHIDERUさんと白鳥さんが声をそろえて「水晶に見えるの?」って。
そういう創造力のある人がメンバーであのステージを作っていた、ということなんですよね。
ゾンビタウン渋谷に復活の狼煙を!
──12月17/18日に東京・渋谷の渋谷キャスト スペースで開催された「赤鼻祭」ですが、これ、2回目?
横沢ローラ
「赤鼻祭」という名前のイヴェントとしては、1回目です。コロナ禍の2020年、それまで私が150本ぐらいやってたライブ、弾き語りで1人でやるのも含めてそれぐらいやってたのが、たった5本になってしまった。でも、そこで止まっちゃうのはイヤだと思って。
で、渋谷がゾンビタウンみたいに誰もいなくなってた5月に、みんなが今年は渋谷に遊びに来れないんだったら、渋谷の住人として自分からクリスマスにクリスマスソングのBGMを届けて、みんなのパーティーを盛り上げたい、みんなを幸せにしたいなっていう発想で、渋谷のクリスマスソングを作り始めたんですね。
それはオノマトペルっていうユニットの相方(=工藤拓人)とフルリモートで、いろんなミュージシャンたちに参加してもらって5曲を英語で作りました。
コロナ2年目の2021年は、外でだったら換気状況もいいんじゃないかってことでライブの準備をしながら、クリスマスソングを2曲作って、前の5曲と合わせて7曲のオリジナル・クリスマスソングを用意して渋谷キャストの広場でライブをしたんです。
──今回の「赤鼻祭」が開催されたビル前の野外イヴェント会場のようなところですよね。
横沢ローラ
そうですそうです。
で、3年目にして、なんかもう、「フェスしたい!」と思って、1人じゃちょっとできないので、私のホームグラウンドである東京・青山の月見ル君想フっていうライヴハウスの店長さん、タカハシコーキさんに相談に行ったんですよ。
それから、どうやったら空間装飾好きの私が望むような、ごちゃごちゃして、クリスマスというかお祭りみたいな感じにできるかなって。妖怪の曲を作ったから、妖怪が出てきそうな雰囲気とかね(笑)。サンタもゾンビもごちゃ混ぜで、ハロウィンなのかなんなのか、みたいな雰囲気がいいんですって話が広がっていくなかで、ものづくりユニット「村のバザール」さんを紹介していただいて、天狗みたいなトナカイみたいなキャラクターの“顔はめ”を作ってくれたりとか……。
──入口のところにあったやつですか?
横沢ローラ
そうですそうです。
イヴェントのタイトルも、最初は渋谷クリスマスキャロルライブにしてたんですけど、もっとなんかヘンな名前にしようって言って、みんなから「“赤鼻祭”ってどう?」ってアイデアが出たときに、もうめちゃくちゃバカバカしくておもしろいってなって、もう、奇妙な感じがいいよねって盛り上がって。
そんなふうに、みんなで集まって、ゲラゲラ笑いながら考えたことがそのまま具現化していったみたいな感じなんです。まぁ、終わってみればめちゃくちゃ赤字でしたけど(笑)。
──いや〜、これ、タイヘンだったろうなと思ってました。
横沢ローラ
本当にタイヘンでした。私、それまでは自分でやれる規模のことを自分でやれる小さな場所に持ち込むか、またはライブハウスにお任せしてやってたのに、規模も大きいし、ライヴハウスでもないし、っていうところでやったらこんなにタイヘンなんだって……。
しかも、フェスってやっぱり、まずヘッドライナーという集客のスゴいできる感じの人がいて、っていうふうに組み立てていくものだと思っていたんですが、タカハシコーキさんに相談したら、“謎クリスマス”みたいなカオスなイヴェントにするんだったら集客うんぬんじゃなくて、そのコンセプトにあった、どこかしらヘンな、個性大爆発してるみたいな人たちをブッキングしようって言ってくださった。それで、こういうラインナップになったんです。
それと、会場にお店が10組、これももう本当に諸々で、ご飯やドリンク以外に占い屋さん、オリジナルの香りを作るお店屋さん、ランタンワークショップ、「無料」のフリマ、“お面やさん”は私と「村のバザール」さんの共同開催だったんですけど、そういうのもやっていました。
異空間に浸れる企画を今年も準備中!
──どうですか。“首謀者”として、終わったあとの感想は。
横沢ローラ
まだちょっと整理できないところもあるんですけど、すごい楽しかったっていうのがいちばんにあったかな。
多業種の人たちと1つのイヴェントを企画するという体験は貴重だったし、みんなで作り上げる楽しさみたいなのを味わえたのはとても良かったと思います。とはいえ、できれば音楽に集中したいとも思ったので、次は誰か、プロデュース役をやってくれないかな、と(笑)。
実際、現場で設置と撤収も含めたら丸4日、詰めっきりだったので。あと、出演者などの駐車場へのお迎えや荷物搬入とかもやっていたので。
そうそう、養生テープの代わりになるものが必要になって、スタッフにドンキへ買いに走ってもらったりしてましたし……、そんなドタバタ状態だったんですよ(笑)。
ただ、もうあの会場に入ったら、そこから先は異空間で、ライブも含めてその日の楽しみがそこから始まるみたいなことをやりたかったので、それはできたと思うんですね。私もHitomi*さんも、ゴールとして考えていたのは多分“そこ”だったのかな、と。
私、アルゼンチン・カンパニーというクリエイター集団の体験型エンタテインメント「ビーシャ・ビーシャ~デ・ラ・グアルダ~」や「フエルサ ブルータ」を観たときに感じた、ステージに前も後ろも上も下もないような、観客もビチョビチョになっちゃう、どこからなにが来るかぜんぜんわからない、ひたすらなんかキャーって言ってビックリしながら喜んでるっていうイヴェントが大好きなんです。同じことを私にはできないけれど、その空間にいるとみんなが自分の想像力を発揮して全力で楽しむという、お祭りみたいなことをしたかったというか、したいというか。それがあの、ちょっとヘンテコな「赤鼻祭」ってかたちで実現できたのかなと思ってます。
──タイヘンなこともあったけど、実りも大きかったということなんですね。これをきっかけに、どんどん協力者が増えていくようになるといいですよね。
横沢ローラ
そうなると嬉しいです。
そうそう、実は赤鼻祭の前からもうひとつ、計画していた企画があるんですよ。今年、2023年の7月1日に、「TOKYO天の川」というイヴェントをやります。もうストリームホールをブッキングしちゃったので、決定なんです(笑)。
東京の7月、七夕の日は雨が多く、晴れたとしても星なんか見えない。それに加えてコロナ禍のために、ここ数年、会いたかった人と会えなかったり、大事な人を亡くしたりしたかもしれない。
そんなことに想いを寄せながら、星の見えない東京で、竹あかりのチームとランタンを作り、お客さんたちと一緒に天の川になって音楽を楽しもうっていうコンセプトのイヴェントなんです。
きっとまた、クチャクチャになるんだろうけれど(笑)、これからも、音楽だけじゃない、いろんなことに挑戦しようと思っているんです。
横沢ローラ公式サイト
https://www.laurayokozawa.com/
Vibraphone Hitomi* Official Blog