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『VIVANT』の“ドラムの声”を林原めぐみが生んだ原点は?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(c)TBS

 どんでん返しが続く中で、いよいよ明日最終回を迎える『VIVANT』。警視庁公安部の野崎守(阿部寛)をサポートするドラム(富栄ドラム)が使う音声翻訳アプリの声は、声優の林原めぐみが手掛けている。

 緊迫したシーンが続く中で、「チョー危険、チョー危険」「どうして僕たちの指名手配なくなったの?」などとAIふうながら女子口調のかわいらしい声が、ドラムの愛嬌ある表情と共に流れて和ませる。

多彩なキャラクターを演じてナレーションも流麗に

 林原は1986年のデビュー以来、『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイや『名探偵コナン』の灰原哀など、数多くのアニメ作品で人気キャラクターの声を担当してきたトップ声優。

 役柄も綾波や灰原のようなクール系から、『スレイヤーズ』のリナ=インバースのような元気系、『平成天才バカボン』のバカボンのような男の子など多彩だ。『VIVANT』では“ドラムの声”の他に、流麗なナレーションも務めている。

 『VIVANT』の公式Xでは、林原の音声の収録に富栄が立ち合い、声に合わせて表情の練習をしている様子がポストされた。スタジオ内の林原の後ろ姿も映っている。音声で「野崎さん」との呼び掛けがちょっと色っぽいのは監督のこだわりで、「林原さんが見事に応えてくださり」とある。

音楽活動でも声優ならではの試みを

 林原は一方で、自身が出演するアニメの主題歌から歌手活動も行ってきた。『スレイヤーズNEXT』のOPテーマ『Give a reason』では声優のソロ曲で史上初のオリコンTOP10入りなど、ヒットも多い。

 今でこそ声優アーティストの楽曲はひんぱんにチャートを賑わし、水樹奈々のように紅白歌合戦に出場したり、東京ドームクラスの会場でライブを行う例もあるが、その礎を築いたパイオニアが林原だ。

 本人は「そんなつもりはまったくない」「自分をアーティストだと思ったこともない」と話しているが、「降りかかってきた仕事には全力を尽くす」という性分でもあるとのこと。男女の掛け合いのラップを1人で声色を変えて歌ったり、声優ならではの先駆的な取り組みにも挑んできた。

ボカロのように聞こえたアニメソング

 そんな中で、今回の翻訳アプリの声で思い出した曲がある。2021年に放送されたアニメ『SHAMAN KING』のEDテーマの『#ボクノユビサキ』だ。無機的でボーカロイドかのように聞こえるが、林原がそんな声を出して歌っている。

 当時の取材で聞いたところ、林原はもともと、バーチャルキャラクターの初音ミクのライブで観客が熱狂している姿を「なぜ?」と怪訝に思っていたという。だが、コロナ禍の自粛期間に、YouTubeでこうした歌が広まっているのを知って探求。「人間が不在な分、心より先に脳に何かがダイレクトに行く」などと、魅力に行き当たったそうだ。

 そして、自らがボカロふうに歌うことは「できそうだと思ってました」と話していた。「山寺(宏一)さんと一緒に飲むと、エレベーターの『ドアが閉まります』という声とか、面白くやるんです。私にはできませんけど、声優が機械ふうに歌ったら、それはそれでカッコイイのかなと」

 『#ボクノユビサキ』を知らずに聴いたら本物のボカロかと思われそうだが、加工したような歌声の中、ピンポイントで機械では表現できない肉声を入れたり、プロの技術を駆使している。そこは『VIVANT』の“ドラムの声”のなごみ感とも通じるものがある。

『#ボクノユビサキ』収録のシングル『Soul salvation』(キングレコード)
『#ボクノユビサキ』収録のシングル『Soul salvation』(キングレコード)

陰の役者へのこだわりと職人芸

 近年、声優が実写ドラマに出演することが増えている。この7月クールだと、宮野真守が『転職の魔王様』に朝ドラの『らんまん』、津田健次郎が『トリリオンゲーム』に出演。この2人は特に顔出しが目立つ。『VIVIANT』6話でも、花江夏樹がテロのニュースを伝えるアナウンサーを演じていた。

 他には、木村昴が『鎌倉殿の13人』に『どうする家康』と大河ドラマに連続出演。1月クールの『Get Ready!』には三石琴乃と1話のゲストで梶裕貴が出ていた。彼らの演技ぶりには、声ですべてを表現する声優は役者のひとつの形だと、改めて感じさせられた。

 『VIVANT』は放送前にはストーリーや出演者の役柄が一切明かされなかった。キャストの1人として林原の名前が発表された際は、「女優として演技を?」と色めきたつ向きもあった。

 しかし、林原は図らずも声優のマルチな活動に道を拓いたのと同時に、声優本来の“陰の役者”という立ち位置に強いこだわりを持つ最後の世代でもある。『VIVANT』でも1話で蓋を開ければ声とナレーションでの出演で、やはりスタンスに揺るぎはなかった。

 そして、声だけでドラマの世界でも彩りを添える職人芸は見事だ。本編以外にもバラエティなどで何かとその声が使われ、『VIVANT』の盛り上がりにまさに陰からひと役買って、感服させられる。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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