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トランプ政権よりひどい難民排斥国ニッポン―収容施設で医療を受けさせず死亡事例も

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
クルド難民のW・Aさん(中央)。入管の収容施設に拘束され安否が気遣われている。

今日、6月20日は国連の定める「世界難民の日」だ。先だって公開されたUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の報告書によれば、2016年、戦乱や迫害で自国からの避難を余儀なくされている難民の数は世界全体で2250万人(含むパレスチナ難民)。改善の兆しの見えないシリアや南スーダンなどでの内戦が難民の数を押し上げている。こうした中、難民条約を批准している国々は大勢の難民と受け入れている一方で、際立って難民排斥ぶりが目立つのが、日本だ。2016年に日本で難民申請した1万0901人に対し、難民認定されたのは、わずか28人。難民や移民の排斥で悪名高い米国のトランプ政権ですら、今年度の難民受け入れ数を5万人と想定しているのだから、日本はトランプ政権の米国よりもはるかに酷い難民排斥国家だと言える。難民認定の数の少なさだけではなく、難民認定を申請中の人々を入国管理局の収容施設に長期にわたって収容することや、収容施設での劣悪な待遇も問題だ。日本の難民受け入れの課題を関係者らに聞いた。

〇入管施設での拘束で統合失調症に

「このままだと入管(入国管理局)に殺されてしまいそうな難民の方がいます。是非、取材して下さい!」。そう筆者に訴えたのは、織田朝日さん。法務省・入国管理局による外国人への人権問題に取り組む団体「SYI(収容者友人有志一同)」のメンバーだ。「トルコ国籍クルド人の難民W・Aさん*は現在、品川区の東京入国管理局に収容されています。W・Aさんは一回目の収容がきっかけで統合失調症になってしまったのですが、二回目となる今年3月からの収容では、普段使っている常備薬を取り上げられ、さらに容態が悪化しています。5月には外部の病院に二週間入院しましたが、ふたたび収容所に戻されてしまいました。今は常備薬とは別の薬を処方されているものの、体にあわず本人も飲むのを拒否しています。入管に、無理に飲まされてもたびたび嘔吐しています。面会に行くたび目にみえて容態が悪化しています。それが収容のせいであるのは明らかです。今のままだと、本当にW・Aさんは死んでしまうかもしれません。W・Aさんには四人の子供がいます。子供たちは親と引き離されたせいで強いストレスを感じ、夜中に『パパ』と泣き叫んで外に飛び出すなど、かなり不安定な精神状態になっています。入管当局はW・Aさんを収容することで、彼だけでなく彼の家族の心身をも痛めつけているのです。彼の身にとりかえしのつかないことが起きるまえに仮放免すべきだと入管に電話やFAXをしてもらうよう、私達はネットを通じて人々に呼びかけています」(織田さん)。

*本人のプライバシーに配慮し、本稿ではイニシャルのみの表記とする。

W・Aさんは取材対応が困難な状況なため、彼の親戚のBさんに話を聞くべく埼玉県の某市を訪れた。取材に応じてくれたBさんは「入管の収容所に居続けたら、W・Aさんはどんどん症状が酷くなる。本当に心配です」と大きくため息をつく。入管の収容所は、よく刑務所に例えられる。5、6人の雑居部屋に1日の大半、18時間程をそこで過ごすことを強いられ、部屋の外から施錠される。より広い共用スペースに出られるのは、食事の前後のわずかな時間のみだ。極端に自由が制限され、携帯電話やインターネットは使えないなど、外部への連絡手段も限られる。入管職員も被収容者に対し高圧的で、特に難民として日本に来た人々は「迫害から逃れて助けを求めているのに、なぜ犯罪者扱いされるのか?」と極めて大きなストレスを抱え込むことになる。入管法では退去強制の対象者は無制限で収容でき、仮放免の手続きにも2~4カ月を要する上、理由も明確にされないまま認められないなど、いつまで収容されるのかという不安が、被収容者の精神をむしばむのだ。Bさん曰く、1995年に来日したW・Aさんは難民としての庇護を求めていたが、1999年から2年3カ月の長期にわたり、入管の収容施設に拘束され、その後、仮放免されるものの、2004年末に再び再収容されたのだと言う。W・Aさんはその頃から、精神状態に変調をきたし、2005年6月、ついにトルコへ帰国したのだった。その後、トルコで療養し、家庭も持つなど回復したW・Aさんだったが、2013年に再来日する。

〇トルコでの迫害、テロの脅威

写真を見せながらトルコでのクルド人の窮状について語るBさん
写真を見せながらトルコでのクルド人の窮状について語るBさん

なぜ、W・Aさんは再び日本に来たのか。Bさんはこう代弁する。「トルコでは、(少数民族である)クルド人に自由はありません。クルド語を公の場で話しただけで、警察に酷い暴行を受け、半殺しにされます。クルド人がブイサインをしたら、指を切り落とされる。たとえ、それが子どもであってでも、です。トルコ当局だけではなく、イスラム国も脅威となってきました。私達はガジアンテップという国境近くの街に住んでいましたが、そこではテロが何度も起きていて、2008年8月には、私達の家のすぐそばで大規模な爆破テロがあり、29人が死亡、55人が負傷するということもありました。そんな自由がなく危険なところでは、子ども達を育てられない。そう思って、私達は日本に来たのです」(Bさん)。

だが、トルコ籍のクルド人にとって、日本で難民認定を得ることは絶望的なのだ。在日クルド人の法的な支援を多く手掛ける大橋毅弁護士は日本特有の問題点を指摘する。「もともと難民に対して厳しい日本ですが、トルコ籍のクルド人の場合、明らかに深刻な迫害を受けており、本来であれば間違いなく難民として認められるような状況にある難民認定申請者であっても、日本では認められません。日本が難民条約を批准してから、トルコ籍のクルド人が難民認定された事例は皆無なのです」(大橋弁護士)。こうした日本のトルコ籍クルド難民の排除の背景には、親日国トルコのご機嫌を損ねたくないという外交上の配慮があるとも言われている。

〇医療が受けられないために死亡者も

結局、W・Aさんは再来日と同時に、入管の収容施設に収容され、その後、仮放免を得るものの、今年3月にまたも再収容される羽目となり、W・Aさんの精神状態は、危機的な状況に落ちいってしまった。入管側の飲ませた薬との相性の悪さから、一時は、まともに立てない程に衰弱し、人と話をすることもできなかったという。現在は、入管側が投薬する薬を変えたため、若干、回復したものの、「収容施設から出て入院する必要があるのではないか」と前出の織田さんも危惧している。「W・Aさんの症状にはトルコで服用していた薬が一番相性が良いみたいなのですが、そもそも入管の収容施設には薬の差し入れができません。糖尿病患者の様に命に関わる持病をもつ人々すら、薬の持ち込み・差し入れが許されないのです」(織田さん)。実際、入管の収容施設での医療面での状況は、非人道的と言うべきものだ。2014年3月には、茨城県牛久市にある入管の収容施設「東日本入国管理センター」に収容されていたカメルーン人の難民申請者の男性は糖尿病を患っていたにもかかわらず、6カ月にわたり適切な医療を受けることができないまま死亡するという事件が起きている。また今年3月にも、在留資格を失い東日本入国管理センターに収容されていたベトナム人男性が口から泡を吹き、失禁するなど、明らかに以上な状況であったにもかかわらず、1週間以上、適切な医療を受けることなく放置され、くも膜下出血で死亡するという事件も起きている。2013年以降、医療遅延が原因とみられる死亡例は、上記の例を含め5件起きているが、入管側の抜本的な対策も行われることもなく、また当時の収容施設の責任者が処分されることもないまま。織田さんが懸念していることは、W・Aさんもまた取返しのつかない状況になるのではないか、ということであり、これまでの事例から観ても、単なる杞憂とは言い難いのである。

入管の医療状況を訴える織田さん作の4コマ漫画
入管の医療状況を訴える織田さん作の4コマ漫画

〇イギリスでの先駆的事例

お世辞にも人道的とは言えない日本の入管行政に対し、同じ島国であってもイギリスでの対応は全く違う。2012年、2014年にイギリスでの入管収容施設を視察した児玉晃一弁護士はこう語る。「イギリスでは、収容施設やその施設への視察、裁判所による保釈制度が、被収容者を本来的には自由な存在とし、国際人権規約にそったものであろうとしていることに感銘を受けました。同時に、日本とのあまりの違いに衝撃も受けました」。具体的には、被収容者は、施設内をほぼ自由に動きまわれ、狭い部屋の中に一日の大半を押し込められていることはない。施設内で図書室や美術室、ジムなどを利用し、英語やパソコンなどの技能を習ったりすることができ、携帯電話や施設内のパソコンでインターネットも利用することもできるというのだ。あくまで人間扱いをすることで、管理する側にもメリットはあると児玉弁護士は言う。「何もさせないと暴動等が起きる可能性がある、意味のある活動をきちんとさせることでリスクを減らすという考え方をしているのです」。施設の運営状況は、専門の視察委員が徹底的に視察を行うのだという。「人権侵害が行われていないか、待遇面等で改善すべき点ないか、6,7人のチームが徹底的に5日間視察して、A4用紙で100ページくらいの勧告を出します。日本でも、視察委員会による入管施設の視察はおこなわれますが、質・量ともにイギリスの視察は徹底しています」(児玉弁護士)。

仮放免についての制度も大きく異なる。「イギリスの場合、仮放免にあたる保釈の審査は入管ではなく難民移民審判所が行います。審判所でのやり取りは、被収容者もビデオを通じて確認できます。日本での書類審査だけで仮放免が許可される場合もされない場合も理由が示されないのとは大きく異なります。保釈するか否かの結果も、イギリスのそれは3~6日程で結果が出るなど、非常に迅速です」(同)。こうした、イギリスの入管行政の根底にあるのは、イギリスの市民であろうが、出入国管理の対象となる人であろうが、同じ人であり人権は尊重されるべきという理念だろう。日本とイギリスの違いに衝撃を受けた児玉弁護士は、一緒に英国視察に行った有志の弁護士らと、日本の入管による人権問題に取り組む弁護士の会「ハマースミスの誓い」を結成。公開学習会などの活動を行っている。

〇これでいいのか、難民排斥国ニッポン

現在の日本では、難民認定を求めている人も含め、一度、入管に「退去強制すべき対象」とされた時点で、もはや人間扱いされないという問題がある。一時的にその身柄を拘束するにしても、殺人などの重大な犯罪を犯したわけでもないのに、人権がほとんど配慮されないということは、日本の国際的な評価という点でもマイナスであることは間違いない。難民条約を批准すしていく国の義務として、日本も難民を一定程度受け入れていくべきだろうし、数十万単位で難民を受け入れているドイツがそうであるように、労働力の増加という点で、日本社会にもメリットがないわけでもない。日本における難民の窮状は、非常にマイナーで政治課題として取り組む国会議員も非常に少ないが、世界難民の日という機会に、是非多くの人々にこの問題について考えてもらいたい。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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