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母のがん治療、国も文化も違う学校への転校、SARS。13歳、まだ少女だった自分の心と向き合う

水上賢治映画ライター
「アメリカから来た少女」より

 母が乳がんを患ったため、治療でそれまで暮らしていたロサンゼルスから台湾へ。

 母のことを考えれば仕方ないこととわかっている。とはいえ予期せぬ形で天と地ほど環境の違う学校への転校で戸惑いを隠せない。そんな13歳のファンイーの揺れ動く心模様を描いたのが映画「アメリカから来た少女」だ。

 ロアン・フォンイー監督の長編デビュー作となる本作は、金馬奨や台北映画祭など、台湾の名だたる映画賞や映画祭で数々の賞を受賞。

 昨年の東京国際映画祭でも、少女の切実な想いが伝わってくる思春期の物語として反響を呼んだ。

 「自身の体験を基に作り上げた」と明かすロアン・フォンイー監督に訊く。(全四回)

ロアン・フォンイー監督
ロアン・フォンイー監督

観客の方からおしかりの意見を受けたことが

 前回は映画のエンディングについての話で終わった。

 そのエンディングには、こんな意見も寄せられたという。

「実は、あの結末というよりも、あれで終わってしまうことで、観客の方からおしかりの意見を受けたことがあります。

 その方は、スピーチコンテストがどういう原稿になったのか聞きたかったとのこと。

 それが特になく終わってしまってがっかりとのことで(苦笑)。

 それはもう『ごめんなさい』としかいいようがないですね(笑)」

いまのコロナ禍につながるところも本作にはある

 第一回の話で監督は、「SARS」が大きな影響を及ぼした2003年の台湾をきちんと描きたいと語っていた。

 日本はあまりSARSの影響は受けなかったが、本作をみると、いまのコロナ禍とほぼ同じような影響を当時の台湾の人々は受けていたことがわかる。

 ゆえに、いまも続くコロナ禍という時代、自由が規制される生活や社会が、人々にどのような影響を及ぼすのかにも本作は言及している。

「2018年にシノプシスを書き始めて、SARSの時代がどれほど人々に暗い影を落としたか、しっかりと考えないといけないと思いました。

 いつまた同じようなことが襲ってくるかわからない。そのとき、どう向き合うのかにつながると思ったのです。

 そのようなこと考えていたら、コロナ禍になってしまいました。しかもコロナは一部ではなく全世界に影響を及ぼすものになってしまった。

 各国で多かれ少なかれその影響で生活習慣自体を変えなくてはならなくなった。

 さらに国によってはロックダウンをするところもあった。

 そういったことが人々の精神状態にどれぐらい影響を与えるのかはいまはわかりません。

 でも時の経過とともに大きな影響が出てくるのではないかとわたしは考えています。

 とにかく多くの人が、今まで想像もしなかったような苦しみを味わっているのは確かです。

 そういう危機は、きちんと描いておくことで、後世に残していくことが大切ではないかと考えています。

 そこから学べることが必ずあるので。

 ですから、今回、わたしはSARSのことを描けてよかったと考えています。また、いまのコロナ禍につながるところも本作にはあると思っています」

「アメリカから来た少女」より
「アメリカから来た少女」より

ケイトリン・ファンに決めた理由

 作品の内容もすばらしいのだが、忘れてはならないのはキャスティング。

 中でもとりわけ際立つのがロアン・フォンイー監督の分身といっていいファンイーを演じたケイトリン・ファン。

 10代の女の子の心を揺れを見事に表現している。フォンイー監督とも雰囲気が似ているところがある。

 演技経験のなかった彼女を抜擢した理由についてこう明かす。

「この映画の中で、ファンイーは時々、他人に対して辛く当たったり、激しい言葉を投げかけたりしますよね。

 そういうちょっと乱暴な言葉のセリフをオーディションのときに集まってくれた女の子たちに言ってもらったんです。

 ただ、オーディションの場で、自分を良く見せたいところがまずあって、年齢としても自分をかわいらしくみせたいところがある。なので、なかなかうまくいえない人が多かった。

 ちょっと大人びたセリフもあったのですが、その言葉自体をなかなか理解できない子もいました。

 でも、ケイトリン・ファンはあまり気取らないというか。そういう乱暴な言葉もすごく自然な形で口にしていた。

 そのときに思ったんです。『彼女は言葉の意味を理解して、きちんと自分の言葉として言うことができる人だ』と。

 また、彼女自身がファンイーのような内面ももっているのではないかと思いました。

 ちょっと憂鬱(ゆううつ)でだるい感じの雰囲気のセリフをものすごく情感をこめながら、かつ自然に言うことができていたんです。オーディションの時点で。

 だから、素直に彼女はこの映画の中のファンイーと似ていると思いました。

 そのわたし自身の感性に従って、彼女をキャスティングしました」

いまは彼女にしてよかったと心から思っています

 さらに、こんなことも決め手になったという。

「それから姉と妹役については、アメリカから台湾に帰国するということで、言葉ができるかどうかがかなり重要でした。

 姉妹ともにネイティブの英語が話せなければならない。

 この言葉の面に関してもケイトリン・ファンはクリアしていました。

 そういったことも踏まえて、彼女をキャスティングしました。

 いまは彼女にしてよかったと心から思っています。

 特に厩舎の場面で、彼女はほんとうに素晴らしい演技をしてくれました。

 ここでの彼女の演技には大いに驚かされましたし、彼女のおかげですばらしいシーンになったと思っています」

【ロアン・フォンイー監督インタビュー第一回はこちら】

【ロアン・フォンイー監督インタビュー第二回はこちら】

「アメリカから来た少女」より
「アメリカから来た少女」より

「アメリカから来た少女」

監督・脚本:ロアン・フォンイー

製作総指揮:トム・リン

撮影:ヨルゴス・バルサミス

出演:カリーナ・ラム/カイザー・チュアン/ケイトリン・ファン/

オードリー・リン

公式サイト:https://apeople.world/amerika_shojo/

ユーロスペースほか全国順次公開中

写真はすべて(C)Splash Pictures Inc., Media Asia Film Production Ltd., JVR Music International Ltd.,G.H.Y. Culture & Media (Singapore).

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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