なぜ日本の組織は優秀な若手の給料を2倍に出来ないのか
先日、一橋大学のある講師のつぶやきが大きな話題となりました。
「給料格差ツイート、狙ってやった」 日本捨てる若手学者の危機感
要約すると「日本の組織における給与の水準や決め方はガラパゴスであり、このままではいずれ深刻な人材難に陥るだろう」ということです。筆者もまったく同じ危機感を抱いています。今回は有名大学の文系教授ということで話題となりましたが、理工系の教授や官僚、一般企業の若手幹部候補の間では、同様の人材流出は以前からかなり進んでいますから。
なぜ、日本の組織の若手には突然2倍以上のオファーが届くのでしょうか。なぜ、日本の組織はそれに対して有効なカウンターオファーを出さないのでしょうか。重要なことですけど意外と見落とされがちなこの問題について、いい機会なのでまとめておきましょう。
日本型雇用の肝は“信頼感”
日本の一般的なサラリーマンは終身雇用を前提としているので、どうしても単年度あたりの給料は低く抑えられてしまいます。リスクが少ない分、リターンも少ないというわけです。
くわえて、やはり一般的なサラリーマンは「初任給からスタートして少しずつ昇給する」という年功序列賃金がベースとなっており、2,30代は生産性の割に賃金が抑えられる傾向があります。もちろん、40代以降は生産性以上に支払われるので、トータルでみればトントンですが、若い間は安月給の傾向が強いということです。
その結果、日本の組織で働く2~30代の人材は、終身雇用でも年功序列でもない外資系や新興企業からみると、とても安月給で働かされているように見えるわけです。「若手に2倍のオファーがくる」のは、こうした構造的な事情があるためですね。別に日本企業がケチだからというわけではなくて、給料の支払い方がぜんぜん違うからというのが理由です。実際、終身雇用と年功序列賃金によって、自動車や鉄鋼、商社といった大企業や官庁は優秀な人材を多く囲い込み、戦後の高度成長を実現させたわけです。
ただし、“終身雇用”や“年功序列”というのは契約ではなく単なる慣習にすぎません。「絶対に定年まで雇用が保証される」「40歳以降はポストについて昇給もバッチリさせてもらえる」という組織に対する信頼感がないと、優秀層を囲い込むことは不可能です。今の日本でそういう信頼感が維持できている組織がどれほどあるでしょうか。
追い出し部屋があったり、50歳過ぎてもヒラの社員がいっぱいいる会社で「うちにいれば50歳すぎてから人生ウハウハだぞ?」と言っても説得力ゼロでしょう。形がい化した“慣習”を惰性で続けるのではなく、メリハリの利いた“契約”を単年度で提供できるような仕組みに移行する以外に、日本の組織が人材獲得で勝ち残ることは難しいでしょう。
より具体的に言えば「滅私奉公してくれれば将来出世させますよ」といった曖昧なものではなく、どういう仕事に対して現金でいくら支払うかを明文化して契約することです。と聞くとプロスポーツ選手のような厳しい世界を連想する人もいるかもしれませんが、逆に明文化された契約であれば、そこに滅私奉公やブラック企業的要素の入り込む余地はありません。日本人の働き方そのものを見直す良い機会となるはずです。