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出社せよ!米テック大手で広がる対面勤務、在宅支持の先駆者が一転 人事評価にも

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:アフロ)

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)時に率先して完全な在宅勤務を導入したのが米テクノロジー大手だった。だが、最近は従業員に出社再開を求める動きが広がっている。それは単なる要請ではなく、「通達(命令)」であることも少なくないという。

グーグル、週3日出社を義務付け

米ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、米グーグルはほとんどの従業員に、少なくとも週3日出社するよう義務付けた。2023年6月第1週には、全社メールで「まもなく、出社率がパフォーマンスレビュー(業績評価)の要素に組み込まれる」と通知した。

今後、継続的に出社しない従業員に対し部署が個別にメールを送り、出社と在宅勤務を組み合わせるハイブリッド勤務への切り替えを検討するよう促す。全社メールには「我々のオフィスは、グーグルのコミュニティーと最もつながることができる場所」とも記してあり、「今後、新規の在宅勤務申請は原則として認めない」とも書かれていた。

グーグルの広報担当者、ライアン・ラモント氏は、「ハイブリッド勤務は、オフィスで働くことのメリットと、週の一部を自宅で働くことのメリットを組み合わせたものだ」と述べた。「この働き方を始めて1年以上がたち、正式にこのハイブリッドアプローチを導入する」と説明した。

持ち株会社、米アルファベットの労働組合は、「グーグルの従業員は柔軟な勤務形態で働きながら、質の高い仕事をしてきた」と新方針に反対した。組合員であるソフトウエアエンジニアのクリス・シュミット氏は「出社率という曖昧な意味しか持たないものが業績評価に反映されてしまう。私たちのプロフェッショナリズムは一夜にして無視された」と批判した。

メタCEO、方針転換か

一方、SNS(交流サイト)「Facebook」などを運営する米メタのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は23年3月、パンデミック前に入社したエンジニアは、その後在宅勤務で採用されたエンジニアよりも平均してパフォーマンスが優れている、と述べ、従業員にオフィスで一緒に仕事をするよう促した。23年5月、メタはさらに一歩踏み込み、オフィス配属の従業員に対し、23年9月から週3日出社するよう指示した。

メタは21年初頭、一部の従業員を対象に完全な在宅勤務を認めた。同年6月にはこれを拡大し、新人エンジニアなども含むすべての従業員に在宅勤務を許可した。ザッカーバーグ氏はこのときの従業員宛てのメッセージで、「長期的な考えをまとめる余裕ができ、家族と過ごす時間が増えた。より幸せになり、仕事でも生産性が増した」と自らの体験を語り、自身も1年の半分は在宅勤務を続けると述べていた。

ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、メタの求人サイトには今もザッカーバーグ氏による当時の言葉が記されている。「私たちはこの規模の組織として、在宅勤務に最も前向きな企業になるつもりであり、計画的で慎重かつ責任ある方法で、時間をかけて実現していく」(同氏)というものだった。

労働市場の変化で雇用主有利に

パンデミックの初期段階において、米テクノロジー大手は生産性の低下をあまり心配していなかったという。一部の企業は記録的な利益を上げ、急増する需要に応えるため、あるいは人材獲得競争で競合他社に勝つために採用を拡大しつづけた。

しかし、その後状況は一変した。報道や企業リリースなどで分かった整理解雇(リストラ)情報を集計するLayoffs.fyiによると、米テクノロジー業界におけるレイオフ(一時解雇)は23年に入って21万人を超えた。22年は1年で約16万だったので、半年余りですでに前年の解雇数を上回った。

Layoffs.fyiの調査によると、労働者は依然として柔軟な働き方を求めている。しかし雇用主はこれを以前ほど重視しなくなった。雇用主側に有利になる傾向が強まり、労働者は対面での勤務を求められるようになった。 

不動産コンサルタント会社の米JLLのリサーチマネジャー、ジェイコブ・ローデン氏は、「企業は『リモートワークに寛容』から、そうではない状況へと移行する傾向がみられるが、過去1年で最も変化があったのはテクノロジー業界だ」と述べている。

JLLによると、23年5月は、60万人の米国労働者が出社命令を受けた。そのうち約3分の1がテクノロジー企業の従業員だった。この数は23年9月までに8万5000人増加する見通しだ。一部の命令は22年に出されており、ついに出社日が来たというもの。その他は最近の景気動向や労働生産性に関する社内調査を踏まえて方針転換したものだという。

筆者からの補足コメント:

筆者からの補足です。やはり、創業以来最大の人員整理を行った米テクノロジー大手の動きも最近の「出社命令」に影響しているようです。▼グーグルは23年1月、グループ全体で約1万2000人を削減すると発表しました。対象になったのはアルファベット従業員の約6%でした。▼メタは23年3月、今後数カ月で約1万人の従業員を一時解雇(レイオフ)すると発表しました。同社は22年11月に当時の従業員の約13%にあたる1万1000人超の人員削減を明らかにしており、2回目の大規模解雇に着手しました。▼アマゾンは23年1月、1万8000人超のリストラ策を発表。23年3月20日には、9000人を追加削減すると明らかにしました。▼マイクロソフトは23年1月、全従業員の5%弱にあたる1万人規模の人員削減計画を発表しました。最近では、同社が追加削減を行う計画だと米CNBCが報じました

  • (本コラム記事は「JBpress」2023年6月14日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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