人生どん底の時にこそ気付く「ソウルメイト」の存在とは? #ソウルメイト #キム・ダミ #チョン・ソニ
幼い頃はいつも一緒にいたのに、なんとなく疎遠になってしまった友人というのは誰にでもいると思います。特に現代に生きる女性の場合、仕事・結婚・出産・子育てなど、していても、していなくても、そこに相手へのコンプレックスが生まれてしまい、それをきっかけに関係がギクシャクする…なんてことも多いのではないでしょうか。新作映画『ソウルメイト』は、そんな二人の女性の人生を変えてしまうほどの友情を描いた物語です。
韓国映画や日本映画、さらに欧米の映画にも「男の友情」を描いた作品、「男の友情」を美化した作品は非常に多く存在します。逆に「女の友情は脆い」は、男社会に都合のいい刷り込みとしてよく言われる言説ですが、『ソウルメイト』のミン・ヨングン監督は女性同士の友情をこんなふうに評します。
ミン・ヨングン監督 私自身、これまで周囲の多くの女性を見てきて、その関係性から受ける印象がありました。それは彼女たちが「自分たちのつながりはこんなにも強い、こんなにすごい」ということを周りにことさらあぴーるすることがなく、それでいてものすごい強さがある、友情を超えたもっと深いつながりがあるということです。そうしたものを男性の私がどこまで表現できるかという部分に挑戦したいという気持ちがありました。
本作は台湾映画『ソウルメイト/七月と安生』をリメイク。オリジナルで最も魅力的だったのは、まったく異なる個性を持つ俳優の演技が、まったく異なる二人のキャラクターだったといいます。韓国版である本作では、済州島で出会った幼馴染み二人組ーーたったひとりで育った自由奔放で大胆なミソと、怖がりで優等生のハウンの半生を描いてゆきます。ミソを演じるのは、『魔女』『梨泰院クラス』『その年、私たちは』など、出演作を次々とヒットに導くキム・ダミ。ハウン役は、『ボーイフレンド』『青春ウォルダム』『寄生獣 ザ・グレイ』などで注目のチョン・ソニです。
ミン・ヨングン監督 ダミさんの出演はシナリオが完成する以前に決まっていたんですが、彼女が演じる役については、その時点では私と彼女に意見の相違があり、少し時間をおいてから話そうということになりました。シナリオが完成した後に電話で話したときのことは、すごく印象に残っています。人々は「ダミさん=外交的なタイプ」と想像しているようですが、彼女はどちらかといえば内向的な性格ーーつまり自分の気持ちを強く表現したり、情熱的なアピールをするようなタイプではないんです。でもその時のダミさんは「ミソ役を演じたい」という思いをすごい熱量で語ってくれたんです。安心してミソ役を任せられるなと思いました。
ミン・ヨングン監督 ソニさんとは、この役をオファーする以前は全く接点がなかったんですが、映画とは無関係の場所で3、4回、偶然に顔を合わせることがあったんです。彼女は私がこの作品を監督することを知っていたようですが、シナリオを渡したわけでもなく、ちょっと微妙な状況でした。そういう中で、たまたまカフェでお茶を飲むことになったんです。3~4時間、映画とは異なるいろんな話をして、彼女がどういう人でどういう俳優なのか、作品をご一緒するならどんな役がいいのか、というのを漠然とイメージするようになり、オファーにいたりました。
(C)2023 CLIMAX STUDIO, INC & STUDIO&NEW. ALL RIGHTS RESERVED.二人は幼い頃を済州島で過ごしますが、あるきっかけからミソは高校を中退し、ソウルに引っ越してゆきます。自分の世界を自由に羽ばたくいつものミソに、ハウンはどこかおいていかれたような気持ちになっているのですが、ミソはミソでハウンだけには知られたくない現実も抱えています。ずっと一緒だった頃には意識したこともなかったお互いの違いや気持ちのズレ。久しぶりの再会でそうしたものを感じ取り、以来、疎遠になってしまう……というのはよくある話ですが、そこから先がこのドラマの本質と言えそうです。
ミン・ヨングン監督 二人の関係には長い歴史があり、映画の後半ではそれぞれに本当につらい人生の瞬間を経験することになります。どん底を味わって立ち上がった人たちには、そういう人だけが持つ強さや優しさ、人生の本質と向き合う力のようなものがあると思うんですよね。巡り巡って再会したふたりの、そういう部分を描きたいという強い気持ちが、私にはありました。最も強い思い入れがあるのは、物語の終盤でミソとはハウンが何度目かの再会を果たすところです。私がまさに撮りたいと思っていたモチーフそのものを描いた場面になっていると思います
その場面とは、ミソとハウンが「二人だけの秘密」を共有し、互いの人生を背負って生きると決意するその場面とも言えます。ミソとはハウンはこれまで、相手の人生に憧れのような気持ちを抱いてきたわけですが、この時を境に、ミソがハウンに、ハウがミソになるような感覚が描かれてゆきます。
ミン・ヨングン監督 個人的な考えですが、映画の二人が互いを「この人が私のソウルメイトだ、私にとって本当に大切な人なんだ」と感じる瞬間は2回あると思います。一回目は初めて会った時。そして2回目は、今おっしゃった終盤の再会の場面です。ハウンは誰にも言えない秘密を抱えているし、ミソも人生の紆余曲折ですっかり人が変わってしまった。そういう中での再会は、「人生でただひとりの人なんだ」ということを認識させた瞬間だったんではないかと思います。2人は全く異なる個性のキャラクターで始まりながら、様々な出来事を通じて交錯していくうちに、分離した存在というより「一人の人物」のように見えてきてほしい――そういう思いは、映画を撮りながらずっと念頭に置いていたものですので、そう感じていただけたなら監督としてはとても嬉しいです。
つまりソウルメイトとは、自分の思い描く人生を補完してくれるような、そういう存在なのかもしれません。
ミン・ヨングン監督 映画で描きたかった重要なテーマは「私は一体、どういう人間なのか?」「自分は本当に自分自身のことをわかっているのだろうか?」ということでした。もちろん自らその答えを見つける人もいるとは思いますが、映画を撮りながら「人生において”大切な誰か”を通じて”本当の自分”に気付かされることもある」ということも感じたんですね。その”大切な誰か”が、もしかしたらソウルメイトなのではないかという風に思うんです。「自分らしさ」を教えてくれる人、最も「自分らしく」いさせてくれる人、それが私にとってのソウルメイトなのではないかなと思います。
『ソウルメイト』公開中