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これからの音楽祭の在り方をデンマークで探してみた

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
北欧デンマークのロスキレ音楽祭に参加する市民 筆者撮影

北欧最大級の音楽祭ロスキレ(ROSKILDE FESTIVAL)は現地デンマークでは国民的な行事だ。

幅広い世代に愛され、「父親がボランティアしている」「今日は娘も友達と来ているはず」と、「いまも家族が同じ場所でこの空間を楽しんでいる」というのは、よくあるエピソード。

オレンジ色のカラーで有名 筆者撮影
オレンジ色のカラーで有名 筆者撮影

会場で感じる独特のフィーリングは「オレンジ・フィーリング」と呼ばれている 筆者撮影
会場で感じる独特のフィーリングは「オレンジ・フィーリング」と呼ばれている 筆者撮影

会場内にある大量のテントにびっくり!

とにかく「テント・テント・テント……」。巨大なキャンプ施設に大きなカルチャーショックを受けた 筆者撮影
とにかく「テント・テント・テント……」。巨大なキャンプ施設に大きなカルチャーショックを受けた 筆者撮影

来場者はキャンプをしながら友人たちとお酒を飲んだり、ゲームをしたり、まさに音楽という枠を超えた夏の社交場となっている。

2023年は6月29から7月6日まで8日間開催され、8万枚のチケットは完売した。

環境・気候対策に熱心なフェス

「サーキュラー・ラボ」というサーキュラーエコノミーを考えるエリアをある 筆者撮影
「サーキュラー・ラボ」というサーキュラーエコノミーを考えるエリアをある 筆者撮影

さて、北欧諸国の音楽祭や文化行事といえば、気候・環境対策に熱心という共通点がある。

気候排出量を減らすために、キャンプ参加者にも「公共交通機関を使う」「できるだけ道具を持参・持ち帰る・来年も同じギアを使用する」「帰宅時はテントがあった場所のゴミ拾い」などを呼び掛ける。

結果、2022年の開催時には前年度と比べて25%、500トンの気候排出量を減らすことができた。

人間の排泄物も再利用する「コンポスト・トイレ」 筆者撮影
人間の排泄物も再利用する「コンポスト・トイレ」 筆者撮影

自然との共存、ゴミを資源にすることを考えずにはいられない仕組みが満載 筆者撮影
自然との共存、ゴミを資源にすることを考えずにはいられない仕組みが満載 筆者撮影

エコな参加活動を呼びかける

カラフルな木のステージも過去フェスで使用したものをそのまま残して再利用。奥の「ME WE」はコロナ禍でフェスが開催できなかった時に一体感を表すために設置された 筆者撮影
カラフルな木のステージも過去フェスで使用したものをそのまま残して再利用。奥の「ME WE」はコロナ禍でフェスが開催できなかった時に一体感を表すために設置された 筆者撮影

会場では若い世代のアクティビズムや気候関連の展示・イベントも目白通しで、「気候正義トーク」など、「本当に音楽祭?」と目を疑うほど気候について考えるイベントも多い。

音楽祭に参加することで、自分はどれほどのフットプリント(炭素の足跡)を残しているかもチェックできる。

例えば、ロスキレに参加するうえで自分のギア(道具)は何を使用したかでは「マットレス、キャンプ用チェア、照明」などを選ぶことができ、チェック後にはこのような表示が出る。

「これまでのフェスティバルでは、30トン以上のインフレータブルマットレスが有害廃棄物として残されてきました。PVCや可塑剤で作られたインフレータブル・マットレスは、リサイクルやエネルギー回収に使用できない有害廃棄物です。そのため、マットレスは埋立地の地面に埋められてしまいます。マットレスは持ち帰り、再度使用するか、私たちから高品質のマットレスをレンタルしてください」

来場者がリラックスするための設置にも環境に優しい資源を使用、同時にアートとしても楽しめる 筆者撮影
来場者がリラックスするための設置にも環境に優しい資源を使用、同時にアートとしても楽しめる 筆者撮影

「テントをお忘れなく。テントの置き忘れは環境に悪いです。毎年、何千ものテントが廃棄物として置き去りにされています。テントを生産するには、原材料、エネルギー、水が必要です。テントがゴミとして放置されると、テントはリサイクルできないため、材料が大幅に失われます。お持ち帰りになったテントは、来年またお使いいただくか、当社の高品質テントをレンタルしてください」

会場のあちこちにプランターを設置、花や植物をできるだけ多く取り込む 筆者撮影
会場のあちこちにプランターを設置、花や植物をできるだけ多く取り込む 筆者撮影

私たちは、フェスティバルの食事の平均二酸化炭素排出量を0.75kg-CO2に削減したいと考えています。そのため、すべての屋台では、料理ごとの気候への影響を表示しています。「One Planet Plate」のロゴには、最も排出量の少ない料理が表示されています。これにより、購入する食品の環境フットプリントについて、十分な情報を得た上で選択することができます。

フェスを楽しんでいる間はゴミは地面に捨てたままという人が多いが、帰る時には全て掃除するそうだ 筆者撮影
フェスを楽しんでいる間はゴミは地面に捨てたままという人が多いが、帰る時には全て掃除するそうだ 筆者撮影

持参する道具を減らして、二酸化炭素排出量を減らしましょう。毎年10,000個以上の白パビリオンが使用されていますが、これらはリサイクルできません。これだけで40トンの廃棄物が発生します。製造過程では、原材料、エネルギー、水などの貴重な資源が消費されます。パビリオンをたった8日間使用するだけでも、環境には悪影響です。パビリオンをお持ち帰りいただくか、当社の高品質パビリオンをレンタルしてください。

昆虫ホテルを会場の壁に取り付ける。他にもゴミを使ったアートがもりだくさん 筆者撮影
昆虫ホテルを会場の壁に取り付ける。他にもゴミを使ったアートがもりだくさん 筆者撮影

私たちは一緒に変化をもたらすことができます!2022年、私たちは共同で廃棄物の量を25%削減し、これは500トンに相当します!私たちは、より気候に優しいフェスティバルを共に創り上げているのです。行動は重要です!持参する備品の量を最小限に抑えることで、貢献することができます。フェスティバルの期間中にゴミを分別し、テントや機材を来年再利用しましょう。また、フェスティバルのギアをレンタルすることもできます。

ライブ会場で使用する器具もできるだけ再利用、器具はリサイクル可能なものに務めている。フェス後はコンテナにしまいこみ、翌年使うことを説明するフェス担当者(右の男性) 筆者撮影
ライブ会場で使用する器具もできるだけ再利用、器具はリサイクル可能なものに務めている。フェス後はコンテナにしまいこみ、翌年使うことを説明するフェス担当者(右の男性) 筆者撮影

90%以上のメニューはオーガニック

バレーボールクラブが運営するフードストアで注文したヴィーガンのライスボール。もちろんプラスチック容器などは使用しない 筆者撮影
バレーボールクラブが運営するフードストアで注文したヴィーガンのライスボール。もちろんプラスチック容器などは使用しない 筆者撮影

フェスに出店する全ての飲食店は90%以上のメニューはオーガニックフードでなければいけない。

オーガニック計算は毎日フェス側に報告。食品ロスを減らすために野菜の皮をあまりむかないようにしたり、飲み物は缶ではなくボックス型の容器を使用、二酸化炭素量が多い牛肉は止めるなどの対策に徹底している。

飲食店を出店しているのは地元のバレーボールクラブ。売上金はクラブ活動に使われる。100%オーガニックにすることができないのは、寒い気候の北欧では一部の食材・香辛料などにどうしてもできることの限界が生じるためだ。

テント撤去時にゴミ拾いをしなかったら、翌年のフェスには参加できない

デンマークは風力発電に力を入れている国だ。フェス会場からも見える風車は、ノルウェーで暮らす筆者にはとても不思議な光景だった 筆者撮影
デンマークは風力発電に力を入れている国だ。フェス会場からも見える風車は、ノルウェーで暮らす筆者にはとても不思議な光景だった 筆者撮影

テントを撤去する際はゴミ拾いをすることが決められている。

もし参加者がゴミ拾いを怠った場合はブラックリスト入りとなり、次回以降のフェスには参加できない。

実はイベント中はテント周辺には驚くほどゴミが散乱している。「本当に環境のことを気にかけているの?」と疑いたくなるが、ゴミ拾いはテント撤去時にしていればいいそうだ。テント広場以外の場所のゴミ拾いはボランティアが行う。

学生にエコなフェス設備を企画してもらう

デンマークの天窓メーカーVelux(ベルックス)とロスキレは共同企画「サステイナビリティ・チャレンジ」を行った。

25~30歳の職業学校や大学に通う学生がグループで参加し、リサイクル材料でフェスの観客にとって便利な音楽祭で使用できる道具を作コンテストだ。

風除けや日除け、リラックスできるものなど、安全で機能的という条件で製作。優秀作品は次回のフェスで購入される可能性もある。

廃材と菌糸体を使って作られた革新的なチェアには記者たちが興味津々だった 筆者撮影
廃材と菌糸体を使って作られた革新的なチェアには記者たちが興味津々だった 筆者撮影

廃棄された登山ロープで作ったハンモック  筆者撮影
廃棄された登山ロープで作ったハンモック  筆者撮影

使用済みのコーヒーバッグに乾燥させた草を詰めた、持続可能な新しい「ファットボーイ」 筆者撮影
使用済みのコーヒーバッグに乾燥させた草を詰めた、持続可能な新しい「ファットボーイ」 筆者撮影

これからの未来のイベントの在り方、気候や環境についてたっぷり考えて同じ価値観の仲間を見つけることもできるロスキレは、単に「フェス」という枠組みを超えた空間となっていた。

気候排出量が発生しやすい音楽祭で、いかに罪悪感を減らしながら音楽を楽しんでいくか、ロスキレはインスピレーションがたくさん詰まった未来思考のフェスだった。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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