「にやける」は「薄笑い」じゃない!日本語教師が教える・実は半数以上が正しい意味を知らない言葉
お読みくださってありがとうございます!日本語教師の高橋亜理香です。
みなさんは、いいことがあったときについつい顔が緩んでしまってにやにやしていることってありませんか?そんなとき「ちょっと、何にやけてるの?」なんて言われたり、言ったりすることはないでしょうか。
「あるある」って人はちょっと待って!実はみなさんが使っている、その「にやける」は間違っているかもしれません!
今回は半数以上の人が正しい意味を知らずに使っている「笑い」?に関する言葉のお話です。
「にやける」は、実は「笑う」様子じゃない!
いいことを思い出したときや、思いどおりに事が運んだときなど、つい薄笑いを浮かべてしまう様子によく使われている「にやける」という言葉。「彼はいつもにやけた顔をしていて、ちょっと気持ち悪い…」なんて表現を一度は聞いたことがあると思います。でも、実は「にやける」というのは「薄笑い」を表す言葉ではないのです!
「にやける」の正しい意味は、「男性がなよなよとして、様子や動作が色っぽい、なまめかしい」というもの。本来は男性に対してしか使えない表現であり、そもそも「笑う」という動作ですらありません。
とはいえ、正しい意味を知らない人は非常に多く、文化庁『国語に関する世論調査』の平成23年度版の時点で既に、76.5%の人が「薄笑いを浮かべる」という間違った意味で捉えているというデータが出ています。正しい認識をしている人の割合は14.7%だったため、誤用をしている人のほうが圧倒的多数という結果です。言葉は変化していくので、現在はさらに誤用の割合が増えているかもしれません。
では、「にやける」の間違いが起こったのはどうしてか考えると、おそらくは「意味ありげに薄笑いを浮かべる」という意味の「にやにや」やその動作を表す「にやつく」といった動詞と混同していったのではないかと考えられます。
「失笑」は「笑えないほどあきれる」じゃない!
「笑う」ことに関連した言葉の間違いは「にやける」だけではありません。実は「失笑する」という言葉も、多くの人が正しい意味を知らずに使用しています。
「失笑する」を「笑えないほどあきれてしまう」という意味で使っていた人がいたら、それは間違い。「失笑する」は本来「こらえきれずに、思わず吹き出して笑ってしまう」という意味なのです!
「笑い」を「失う」という漢字が使われていることで、「笑いを失うほど…」と誤解してしまう人が多いかもしれませんが、「失笑」の「失」は「失言」や「失火」と同じ種類のもの。「失言」は「うっかり言ってはいけないことを言ってしまう」、「失火」は「火事を起こす」ということですよね。つまり「失」は「外へ出てはいけないものが漏れ出てしまう」という意味を持っているのです。それと同様に「失笑」も「がまんできずに、笑いが漏れる」ということになるのです。
また他にも、誤解を生む原因として「失笑を買う」という表現が考えられます。「失笑を買う」というのは「愚かな言動や的外れなことをして、笑われる」という意味。この慣用句が「笑われた」とネガティブなニュアンスで使われるものであることから、特にマイナスの意味を持っているわけではない「失笑」という言葉そのものが、丸ごと悪い意味で捉えられてしまうという流れができたのでは、と推測できます。
ちなみに、こちらも「にやける」と同じ平成23年度の文化庁の調査で、60.4%の人が間違った理解をしているというデータが出ています。完全な逆転現象、もはやどちらが正しいのかわからなくなりそうですね。
コミュニケーションの誤解を防ぐために
今回は、笑いに関連する?言葉の意味に関するお話でした!(実際は「にやける」は「笑う」ではなかったわけですが…)
言葉は、変化することで意味も移り変わっていく場合がありますが、コミュニケーションの中で認識の齟齬を防ぐには、正しい使い方を知っておくことは大切です。これまでももしかしたら、会話の中で認識の行き違いが起きていることがあったかも…?「知らなかった!」という人は、ぜひ使うときは正しい意味を思い出してみてください。
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