福島第一原発の今を見つめて
2016年4月21日、筆者が運営する一般社団法人AFWの取り組みの一環にて、福島県の一般の方々とご一緒に「今」の福島第一原発の廃炉の状況を視察してきました。
平成28年熊本地震により川内原発の運転について議論が巻き起こりました。また、4月26日はチェルノブイリ原発事故から30年という節目を迎え、新たに「そういえば福島第一原発は大丈夫なのか」という議論も再燃しています。
とはいえ福島第一原発事故から6年目、今の福島第一原発を状況を知る人達は多くはありません。分かりづらくなってしまった廃炉の現状故に、過去の状況で語るような問題も起きているのではないでしょうか。
今の福島第一原発の状況をお伝えいたします。
抑えておきたい廃炉の3つの状況
1.放射性物質がだだ漏れとはもう言えない
壊れた原子炉建屋から大量の放射性物質が飛散している。良く聞く言葉です、それは限定された範囲に留まっているという表現が適切です。
発電所入口周辺は視察者にも防護対策は不要ですし、管理区域と呼ばれる「作業エリア」の中にも防護対策不要エリアがあります。
ですが、原子炉建屋周辺エリアでは、防護服着用及び防護マスクも必要の状態は続いています。
この状況から言えることは、発電所構内でも防護不要の場所がある事実は「大気中への放射性物質の飛散は発電所構内の限られたエリアまでで収まっている」と言えます。
2016年2月26日には、敷地境界線で365日24時間立ち続けたと仮定しての年間被ばく線量は0.96mSvとなったことも追記しておきます。
では海への漏えいはどうなのか?これまでの記事でお伝えしていることでもありますが、海側遮水壁の完成・トレンチ(海と汚染水が溜まっているタービン建屋地下を繋ぐ地下空間)の閉止、海側港湾地盤の水ガラスによる地盤強化が効果を示し、福島第一原発周辺の海のセシウム134,137の濃度は、WHO(世界保健機関)が定める飲料水基準(10ベクレル/リットル未満)を下回っています。
福島民報(4月27日)に報じられた発電所港湾内の放射性物質濃度も参考までに。「ストロンチウム」大幅低減 第1原発、海側遮水壁完成から半年」
放射性物質の大気・海への漏えいは「0」ではありません。しかしながら、「だだ漏れ」「生活に影響を及ぼし続けている」といった表現は適切ではない状況に改善されています。
2.汚染水は浄化され貯め続けられている
現在の評価値では、原子炉建屋・タービン建屋に流入する地下水は全体で約150m3となっています。そして建屋を迂回して、1~4号機東側残留汚染エリアで汚染する地下水を井戸で汲み上げ、建屋に戻す量は約250m3となっています。それらが人が近づけぬ建屋内高濃度汚染水と混じり、毎日約400m3増え続けています。
大切なポイントがあります。高濃度汚染水となった約400m3は、浄化装置によりトリチウムだけを含む浄化済み水として貯められていくということです。
3月24日のデータでトリチウム水が約623,000m3、浄化を待つ中途浄化水は約169,000m3となっています。
トリチウムを減らす方法は確立されておらず、高台海抜35mエリアに貯め続け保管する状況は続いています。
3.労働環境改善は進み、日常に近づいてきた
大型休憩所の中には食堂があります。そして3月末からは同休憩所内に「ローソン」が開店しています。合わせて、大型休憩所の正面には新しい事務所の建設が進んでいます。
6月には完成し、現在運用中の新事務棟から東京電力がそちらへ移動し、現在の2階建て奥行150mの新事務棟は協力企業の事務所として使われます。
3月末にローソンが出店した事は、「一般産業が関われる場所に変わった」ことを示しています。福島第一原発=全て危険な労働現場とは言えません。
視察では、バス車内から降車せず発電所全体を見て周りました。参加された方々からは、まるで何かの工場見学に来たようだという声もあがりました。
それはあくまで、表面上では問題が見えづらくなった現場を見たに過ぎません。筆者は、視察を通して「廃炉作業で発生した放射性廃棄物」の行く末が気になりました。
改善が進む=問題が見えづらくなった
視察中、汚染水タンクを設置するための土地を確保するために、伐採された木材の山、1日約7000人が作業する事で生まれる大量の防護服といった可燃物を収納したコンテナを視ました。
これらは構内に新設された焼却炉で焼却され、ドラム缶に貯蔵し発電所構内に保管します。
頭をよぎるのは、視察で案内された目に映るもの全てが放射性物質に汚染しており、将来的に廃棄物として処理しなければいけない問題です。
現在までに既に2万人以上の一般の方が福島第一原発を視察しています。起きている事実を持ち帰っています。それはある意味で透明性をもった公開とも言えます。
ですが、見る側に相応の原子力発電所の廃炉で発生する問題に対して、知識がなければ表面を持ち帰っているだけに過ぎません。
一緒に参加された一般の方々が正直に感じた「改善」は、大気へ海への漏えいは私達の生活環境に直接影響を及ぼすような状況ではない事実です。そして持ち帰ることが出来なかったのは、知らぬ故の問題=廃炉で出る廃棄物の問題です。
改善状況だけでなく、抱える課題も伝える透明性が必要
視察後の質問時での出来事です。参加された方から、「改善状況、特に海や大気への影響はもっと積極的に伝えるべきでは、それは福島県への風評被害払しょくに繋がる」、そして「廃棄物についての説明が欠けていないか、最終処分の在り方も含めて伝えて欲しい」という要望がありました。
前者は、社会へ伝わっていない改善状況への要望ですし、後者は明らかにされないリスクを説明して欲しい要望です。
4月10日、11日に福島県いわき市にて行われた「第一回福島第一廃炉国際フォーラム」では、廃炉作業で発生する「放射性廃棄物」について、どのような物が発生するのか、それらを全て精査し、かつそれぞれに対して効率と合理性をもった処理方法を確立し、そして発電所構外処理をするにあたっては地域との対話をするよう、世界各国の原子力機関から提唱がされました。
廃炉=放射性廃棄物の処理、そう位置づけ、明らかにされた情報の元に地域対話が必要だという、如実な事実として今回の視察があったと感じます。
現状を正しく言えば、放射性物質の漏えいという意味で、社会に影響を及ぼさない状態で廃炉を進められる局面にようやくきました。しかし廃炉を放射性廃棄物の処理と位置付けた時、私達の生活にも影響を及ぼす身近な問題のはずが、積極的な情報の開示はされていないような印象を受けました。
福島第一原発の状況が社会不安に直結するあまり、改善状況に重きを置いた発信ばかりでは、なぜ今も約7000人に及ぶ廃炉作業に取り組む方々が存在するのか、意義も見えません。
状況が良くなった安心してください。とは簡単には言えぬ、現場が抱える課題こそ、明らかにしていくことが返って社会への信頼感にも通じるのでしょうし、働く方のやりがいにも繋がるはずです。
私達は福島第一原発の廃炉の状況に、透明性を求め続けています。その透明性とは誰がためにあるのか。原発事故があった発電所の廃炉であるからこそ、主人公は現場ではなく生活者側にあります。
現場が抱えるリスクと、それらに伴い周辺生活者へ影響を及ぼすリスクが合いまった透明性が必要です。
廃炉の今をみつめて得たことは、伝わりきらぬ状況とその要因です。
透明性とは伝える相手側を考慮したものでなければならない。そして透明性を判断するには、ある程度の現場知識がなければ見抜けないということです。