Yahoo!ニュース

「平成28年熊本地震」 原子力業界の常識は非常識? 問われる原子力の安全性

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
(写真:児玉千秋/アフロ)

震度7、この数字がTVに表示された瞬間、多くの方が東日本大震災を思い出されたことと思います。震度による被害もさることながら、津波の被害は、形容する言葉に絶するものだったからです。

筆者は、また別の恐怖が頭をよぎりました。大津波が原発に押し寄せてこないか。東日本大震災当時、電力社員として福島第二原発で被災した経験が、走馬灯のように思いだされました。

地震に被災された方々が苦しい思いをされている、失礼を承知で言えば、津波到来の報がなかったことに「ほっ」としたのは事実です。今も常に地震情報には、経験者として注意深く耳を寄せております。

原子力発電所の安全性が問われ、それが被災された方の不安の煽りにも繋がっている

適切な支援の在り方とは、そんな事を模索している毎日ですが、最初に起きた地震とは別な震源地として、中央構造線に沿った新しい大地震が起きていることが、原子力発電所は大丈夫なの?といった不安に繋がっています。

福島第一原発事故へと連想されるからこそ、大きな不安となり、新幹線、一般道・高速道といった道路、各種インフラが甚大被害を受けた状態では「原発事故が起きた際に避難はどうするんだ!」といった所にまで発展しています。

その不安は、今も避難所で不安を抱える方々には、更なる不安となって降りかかっています。不安を煽るものとも言えます。今、原子力の安全性が再度問われる状況は、説明を不足してしまえば、大きな混乱を増長させる、その様な状態にあると言えます。

少しでも社会混乱を鎮め、被災された方が余計な不安を抱え込まぬよう、筆者が経験したことをお伝えします。

巨大地震に絶える耐震性を経験

倒壊家屋を良く見ると、耐震性が弱い家屋であった事が伺えます。倒壊しなかった建物が全体では多く占めます。一般住宅・一般建築の耐震性と原子力発電所の耐震性を比べる、ここが一つの問題です。

福島第一原発では地震による影響評価が出ていません。それ故に地震そのものによる原発事故への不安は払しょくできません。しかし福島第二原発が耐震性の良い事例です。筆者はこちらに当時いました。

地震による建物被害、こちらを調査した人間の一人です。蛍光灯の落下、ケーブルを保護するフレキシブルホース連結部の緩み、そういった事はありましたが、機器、設備、建物が揺れによる被害で機能を喪失する。(自動停止は除く)はありませんでした。

それは新潟県で起きた、中越沖地震による被害を振り返り、新たな耐震策を講じていたからでした。

この耐震要求は全国の原発で適用になっています。つまり地震そのものには、原子力発電所は非常に強いと言えます。東日本大震災クラスの地震でも、震度そのものには耐えられる安全性を有している、その事例になります。

そうなると、震度4,5,といった地震で原子力がどうにかなってしまうのではないか?は杞憂と筆者は感じています。ですが、それは業界の人間の感覚、知るところではといったことも事実です。

電力各社は再度安全性を伝えるべき

大津波が来なければ、原子力は安全だ。その様な気持ちを各電力各社は感じていませんでしょうか。筆者も耐震性そのものを実感し、そのような気持ちで見ている一人です。これまで東日本大震災だけでなく、宮城県沖地震と大きな地震を何度も発電所の中で味わい、この目で耐震性を見た人間故の感覚です。

しかし、それは社会の常識・思いからはかけ離れています。そのような経験で地震を視れる人間は世の中にどれほどいるでしょう。今回の地震で、原子力発電所が抱えるリスクを丁寧に説明しなければ、不安は解消されることはありません。

筆者の経験則など、通じるものではありません。

岐路に立たされている九州電力

九州電力は今、岐路に立たされています。停電が続く中、重要インフラである電気を届ける。被災各地で懸命な作業をされていることに対しては、応援と感謝の気持ちしかありません。

しかし、川内原発を停止して欲しいという要求に、応えられない理由をはっきりと示さなければなりません。供給の面で止めることが出来ないのか、絶対の安全性の元に動かしているのか。

地震の度に安全です。の声だけでは、社会不安は止まることはありません。

私達は今、原子力発電所の在り方を再度問いただそうとしています。しかしその問い掛けは冷静にして、電力供給や耐震性といった安全性について知り得た状態で進める必要があります。

供給元の発電所を社会の声で止めてしまうことで、社会側に与えるリスクも説明して頂きたいと思います。

電力会社側のリスクと消費者側のリスクを、総合的に合理的に考えた冷静な議論が必要ということです。

原発事故を連想する故に、電力会社側と対話せずに、一方的になってはならないと筆者は考えます。

そして今、明日が見えない中で我慢を強いられている、熊本地震で被災された方々への不安に繋がっていることが、何よりも気がかりでなりません。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

吉川彰浩の最近の記事