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比江島慎はアジア屈指のガード。いい意味で筆者の見方が間違っていたことをこの3年で証明

青木崇Basketball Writer
鎌田慎吾社長と栃木で新たなチャレンジに挑む比江島(写真提供/栃木ブレックス)

「私の見方は間違っていた」

 シーホース三河から栃木ブレックスへの電撃移籍を決めた比江島慎は、素直にそう思える稀な選手である。洛南高校時代にウィンターカップ3連覇、インカレでも青山学院大の2連覇に大きく貢献し、多くのバスケットボールファンがすごい選手と口にしてきた。そんな彼のプレーをライブで初めて見たのは、アメリカから戻ってから2年弱のとき。2012年のインカレ決勝で田中大貴のいた東海大に敗れた後、比江島からすれば少し厳しい視点と思われる原稿を書いた記憶がある。

 性格的に天邪鬼なところがある筆者は当時、比江島に対して多くの人たちと違った見方をしようとしていた。当時の青山学院大は相手が強いとゾーンばかりだったこともあり、マンツーマンでどのくらいタフにディフェンスできるのか? 単なるスコアラーだけでなく、得点機会をどのくらいクリエイトできるのか? 国際レベルで得点力が通用するのか? いい選手の一人に過ぎないのでは? といった疑問符を持っていたのがその理由。そんなこともあり、後に筆者にいい印象を持っていないことをあるルートから知った。

 とはいえ、原稿を書くうえで必要なことを質問する筆者に対し、プロになった比江島は他のメディアと同様、普通に答えてくれた。そのプロ意識に対してリスペクトの度合いは上がり、2015年のアジア選手権(現在のアジアカップ)で4位となったときのプレーを見て、「彼はすごい、これまでの日本人選手と違う。アジア屈指のガードだ」と、これまでの見方が間違っていたと思うようになった。

 3位決定戦で勝ったフィリピンのタブ・ボールドウィンコーチが、悔し涙を流しながら取材を受ける比江島に声をかけたシーンも、よりいい印象を持った理由の一つ。2002年にニュージーランドをベスト4まで進出させた実績のあるボールドウィンコーチに強烈なインパクトを残したことに続き、翌年にセルビアのベオグラードで行われた五輪最終予選でも、チェコ相手に16点奪ったのを現場で見ることができたことも大きい。チェコ戦後に耳にした「このワクワクドキドキ感は日本で味わえないと思っています。これからも世界に挑んでいく気持はありますし、もっとうまいヤツとやりたい気持もあります」という言葉は、比江島の中に秘められたハングリーさであると感じさせた。

 Bリーグでは昨季MVPに輝き、ワールドカップのアジア1次予選で唯一、6試合とも一貫したレベルのプレーをしていた比江島。海外でチャレンジしたい思いが強くなるのは、高いレベルを目指すプロ選手ならば自然なこと。アメリカで奮闘中の若い渡邊雄太と八村塁の存在が、大きな刺激になっているのも容易に想像できる。三河からの栃木への移籍は多くのファンに衝撃を与えたが、比江島からすれば現時点で最善と考えた末の決断なのだろう。ワールドカップ・アジア2次予選でより質の高いパフォーマンスを見せることができれば、スカウトやコーチの目に止まり、海外への道は開けるかもしれない。また、長い間アメリカでチャレンジし続けた田臥勇太がチームメイトになることも、比江島にとって大きな助けになるはずだ。

 新天地の栃木は、海外移籍に向けた協力を厭わないことを表明しているが、正直な筆者の考えを言わせてもらうと、今季中の海外移籍はかなり難しいだろう。しかし、日本代表がワールドカップの出場権を手にし、世界の強豪相手に活躍できれば、比江島の願いは叶うという気がしている。もちろん、「私が間違っていた」という結果になっても決して驚くことはないし、そうなるだけの可能性を秘めた選手として評価している。

 今の比江島に必要なのは"Opportunity"。その機会を手にできるか否かは、自身のパフォーマンス次第である。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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