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リトルなでしこが初戦でタイに4-0の完勝!過酷なコンディション下で示した修正力

松原渓スポーツジャーナリスト
キャプテンの眞城美春(写真一番右)がチームのファーストゴールを決めた

 6日にインドネシアのバリ島で開幕したU-17女子アジアカップ。大会連覇がかかるリトルなでしこ(U-17日本女子代表)は、初戦でタイと対戦。眞城美春のゴールなどで、4−0の快勝スタートを切った。

 男子のAFC U-23アジアカップでは、外国人指導者の招聘や育成年代の強化を進めてきたインドネシア(ベスト4)やウズベキスタン(準優勝)が台頭し、アジアの勢力図に変化が見られた。

 一方、女子も昨年末のパリ五輪アジア2次予選で、本田美登里監督率いるウズベキスタン女子代表がアジア最終予選進出の4チームに残るなど、緩やかな変化の兆候は見られる。だが、育成年代は日本と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の“2強”の牙城が揺るぎなく、特に前回大会覇者の日本は今大会も圧倒的な優勝候補だ。

 だが、初戦ということもあってか、この試合は前半、連動した攻撃が影を潜め、引いた相手に対して攻撃がノッキングする場面も目立った。

 タイは、男子代表が「闘象」を意味するチャーン・スック(Changsuek)という愛称を持つのに対し、女子代表の愛称は、「雌の象」を意味する「チャバカオ(chaba kaew)」。同国1部リーグでプレーする選手が多く、育成年代も攻守において力をつけている印象だ。

「初戦は自分たちらしいサッカーをメインにやりながら、その中で相手の変化に対応していくというところが大事だと思っています」

 前半はなかなか自分たちらしさが出せなかった日本だが、白井貞義監督の言葉通り、後半は相手の守備にも慣れて、交代選手がチームに流れをもたらした。174cmの長身とスピードを兼ね備えた津田愛乃音が最前線でターゲットになり、福島望愛、松浦芽育子、木下日菜子ら、2列目の選手たちが積極的な攻撃参加から決定機を創出。51分、左サイドで福島が果敢なドリブル突破からゴール前にクロスを入れると、こぼれを拾ったボランチの眞城美春が、勢いづいた相手DFを軽やかにかわして右足を振り抜く。美しいカーブを描いたシュートがゴール右上に突き刺さり、日本が均衡を破った。

 さらに65分、右サイドで木下日菜子が落としたボールを中央の榊愛花が右足で撃ち抜く。強烈なシュートがGKブンプラカンパイの手を弾いてゴールラインを越え、2点目。その3分後には、津田がエリア外から反転し、ワンステップで地を這うようなミドルシュートを左隅に沈めた。

スケールの大きなプレーを見せた津田愛乃音
スケールの大きなプレーを見せた津田愛乃音

 そして87分、交代で入った花城恵唯のクロスを、中央で津田が頭で合わせて4-0。終盤まで攻撃の手を緩めずに攻め抜いた日本は、タイのシュートをゼロに抑え、完勝で締めくくった。

 終わってみれば力の差がスコアに現れたが、日本が7割方ボールを支配していたことを考えれば、もっと点差は開いてもおかしくなかった。相手によってはピンチに直結しかねないボールロストもあったことを考えれば、課題も残った。

 ただし、気温27度、湿度88パーセントという過酷なコンディション下での試合だったことや、タイの選手たちが暑さに慣れていたことも考慮すれば、初戦としてはまずまずの手応えも得ているのではないだろうか。

 特に、前半から後半にかけての修正力は大きな収穫だろう。

 眞城は前半からあらゆるエリアに顔を出し、2列目の選手たちも積極的な仕掛けを見せていたが、今一つタイミングが噛み合っていなかった。しかし後半、ターゲットになれる津田が前線に入ったことで流動性が生まれ、スペースを効果的に使えるようになった。「個性が強く、遠慮しない選手が多い。ピッチでうまくいかないときは本気でいろんな話をしています」と指揮官が話していたように、選手たち同士のコミュニケーションも修正力のカギとなったのではないか。

 4点中3点がロングシュートだったが、狙ったコースを打ち抜いた眞城の1点目と津田の3点目は、トラップからシュートまで、上のカテゴリーでも十分に通用しそうなスキルだった。前回のU-17女子ワールドカップに飛び級で出場した眞城は、司令塔として進化を遂げている。大会前に「自分が点を取ってチームを勝たせたい」と強い覚悟を口にしていたが、有言実行のゴールでチームを導いた。

 16歳の津田は、フットサルでも全国大会出場歴があり、フィジカルとともに足元の技術も高い。今大会でブレイクの予感を感じさせる一人だ。

 同グループのもう1試合は、中国がオーストラリアに3-0で勝ったため、日本はグループ1位に立った。次節は中2日で今月10日にオーストラリアと対戦する。最終ラインの青木夕菜は、「オーストラリアは身体能力が高くて、あまりアジアというイメージがないから(対戦が)楽しみです」と、挑戦者の顔を覗かせた。

 バリの蒸し暑いコンディションを考えればかなりの消耗戦になると思われるため、グループステージの残り2試合でどれだけ多くの選手を起用して勝てるかも、チーム力を測るバロメーターになる。

 リトルなでしこのオーストラリア戦は、5月10日20時キックオフ(日本時間)。DAZNでライブ配信される予定だ。

*写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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