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本当は怖い民泊、映画『スーパーホスト』

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
無法地帯化する民泊はホラー映画には最適。『スーパーホスト』の1シーン

アパートを旅行者に貸す民泊は、スペインでは社会問題化している。

1つは、近隣住民との共存の問題。

私が住んでいたセビージャ中心部の巨大パティオ(中庭)付きアパートは16世紀に建てられたもので、緑の美しさと静かさが際立っていた。が7、8年前からトランクを引きずる車輪の音で目を覚まされるようになった。石畳に車輪はとんでもない打撃音を発する。毎朝、あっちでゴロゴロ、こっちでゴロゴロ。パティオに騒音が反響する。

旅の恥はかき捨てなので、フィエスタで盛り上がる“一夜限りの住民”も当然いる。

■民泊でスペインはテーマパーク化

2つ目は、居住者用アパートの枯渇。

私が家賃として払っていたのは月500ユーロ(約7万円)。このアパートを旅行者に貸すと1晩80ユーロ(約1万円)になる。つまり、民泊1週間で1カ月分の家賃に相当する。

民泊の方がはるかに儲かるから、誰も居住者に貸したがらないか、貸すなら高額で貸す。あっという間に、70戸ほどの3分の1が民泊用となり、私は出て行った。

民泊に歯止めをかけたのがコロナ禍だった。『スーパーホスト』の1シーン
民泊に歯止めをかけたのがコロナ禍だった。『スーパーホスト』の1シーン

3つ目は、ホテルとの不当競争の問題。

非常口や非常階段などのセキュリティ上、フロントの設置などの管理上の縛りがあるホテルに対し、民泊には何もなく、旅行者にカギを渡して終わり。宿泊料金にそれらコストを反映せざるを得ないホテル側から文句が出るのは、当然である。

結果、今スペインで海外旅行者に3番目に人気があるセビージャは、ツーリスト用のテーマパーク化した。

民泊にはホテルのような荷物預かりサービスもないから旅行者は1日中トランクを引きずり続け、家賃高騰で地上げが進んだ市内中心部には4つ星以上のホテルが林立している。住む街ではなくなったのである。

■今後は民泊がホラーの舞台に

こうした社会問題に比べて、泊まってみたら酷かったとか、アパートを破壊されたという貸し借りに伴うトラブルは、極めて少ない。まして、映画『スーパーホスト』のようにホストがスーパーに変な人だった、というのは現実には聞いたことがない。

ただ、かつてはモーテルだったり若者用ホステルだったりホテルだったりしたホラーの舞台が、今後は民泊というのは大いにありそうだ。

そもそも管理の目が届きにくい上に、無届の“闇民泊”というのも山ほどあるからだ。

そういう民泊の質を保証しようとするものとして、口コミというのがある。その口コミの質を誰が保証するのか?という問題はあるが、まあ参考にはなる。

■変なホストで稼ごうとするブロガー

今回、変なホストに出会うのが口コミの担い手、民泊の経験を動画と文章で評価するブログ「スーパーホスト」を運営するカップルである。

この二人の関係性も現代風で面白い。『スーパーホスト』の1シーン
この二人の関係性も現代風で面白い。『スーパーホスト』の1シーン

二人はホストが変なことに気が付きながら逃げない。マイクとカメラを向け続ける。

彼女を笑い者にしたり、奇怪さを伝えたりすることが、クリック数やページビュー、つまり集金に繋がることに気が付いたからだ。

で、笑い者にされていることはホストにリアルタイムで筒抜けである。それがネット上の実在の人への、実名での批判というものだから。

となると、恨みを買うのは必然だろう。復讐されるのも自業自得とさえ言えるかもしれない。リアクションが極端だからこそ、変な人なのだから。

※写真はシッチェス映画祭提供。

実名批判とは怖いものです。『スーパーホスト』の1シーン
実名批判とは怖いものです。『スーパーホスト』の1シーン

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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