『クレヨンしんちゃん』巨大タンコブ、『ドラえもん』のび太の噴水涙。マンガ的表現を科学的に考えると…?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
ほのぼのしたアニメを見ていると、ときどきギョッとする表現に遭遇する。
たとえば『クレヨンしんちゃん』の、しんのすけの頭のタンコブがデカい。
『ドラえもん』では、大泣きするのび太が、噴水のように涙を放出する。
どちらも、実際には見たことがないけど、どんな状況かがよくわかる表現だ。
他にも、暗い気持ちになったら顔に縦線が入り、焦ったら頭の周囲に汗が飛び散り、ショックを受けると頭の後ろに光が広がり……。マンガやアニメの表現力はまことに豊かである。
面白いので、科学的に考えてみよう。
巨大なタンコブができたり、涙が噴水のように流れたら、ヒトはいかなることになってしまうのか?
◆巨大なタンコブの謎
画面いっぱいに「げんこつ」の文字が現れ、「ポカキン!」と乾いた音が鳴り響くと、しんのすけの頭には、野球ボールほどもある巨大なタンコブが……。
この巨大タンコブ、『クレヨンしんちゃん』に限った現象ではない。『サザエさん』のカツオの頭にも、『名探偵コナン』の毛利探偵の頭にも、果てはロボットであるはずのドラえもんの頭にさえ、見事なタンコブができたものだ。
そもそもタンコブとは、どんな原理でできるのだろう? しかも、頭だけにできるのはなぜ?
体を何かにぶつけると、血管が破れて皮膚の下に血液がたまることがある。これが「内出血」で、手や足なら皮膚が紫色に変色する。
ところが頭部の場合は、下に硬い頭蓋骨があるため、出血した分だけ皮膚が盛り上がることになる。こうしてできるのがタンコブだ。
すると、しんのすけの巨大なタンコブのなかには、血液がタップリ入っていることになる。
その直径は野球ボールほどもあり、野球ボールの平均直径は7.4cm。皮膚の厚さは2mmほどだから、タンコブ内にたまった血液の直径は7cmということだ。体積にすると180mL!
それほどの血液がタンコブに収納されたわけだが、その血はどこから来たのか?
当然、しんのすけの体内だ。つまり彼はそれだけの血液を失ったのと同じ。そんなことになって、大丈夫?
しんのすけの体重が、5歳男児の平均と同じとすれば18.5kgだ。
人間の血液は体重の13分の1だから、しんのすけの血液量は1.42kgである。体積にして1.35Lで、失われた180mLとは、その13%にあたる。
結構な量だが、いろいろ調べてみたところ、日本赤十字社のホームページに「血液の量の12%を献血していただいても医学的に問題はなく」と書いてあった。
うーむ、だったら13%でも大丈夫だろうけど、なんだかギリギリな感じだなあ。
児童虐待を呼び込むから表現の規制を……などとは決して言いたくないけど、空想科学的に考えると、ちょっとドキドキの巨大タンコブなのだった。
◆噴水のような涙の謎
『ドラえもん』で、のび太が流す涙の表現もすごい。
これはもう、ハンパない。目から高さ10cmほど上昇し、左右に30cmほども広がるアーチを描いて、噴水のように噴出する!
この描写から、涙の勢いは自動的に計算できる。地球上で、水流が高さ10cm、距離30cmのアーチを描くのは、斜め上53度に、秒速1.75mで噴き出したときだ。
この場合、涙の水流の直径を2cmとすれば、1秒間に吹き出す涙の量は、両目合わせて1.1Lということになる。
驚くべき水量だ。涙の密度は水とほぼ同じで1Lあたり1kgだから、のび太は1秒に1.1kgというペースで、みるみる体重が減っていくのだ!
のび太の体重が小4男子の平均と同じ30.6kgだった場合、28秒間泣き続けたら、のび太は消滅してしまう計算に……。
まあ、それは極端なので、もう少し現実的に考えるなら、心配なのは脱水症だ。
「教えて!『かくれ脱水症』委員会」というサイトによれば、人間は体重の1~2%の水を失うと軽い脱水症になり、3~9%を失うと頭痛やめまいが起きる中程度の脱水症になり、10%以上で命が危なくなるという。
のび太の体重を前述どおり30.6kgだとすると、泣き始めてから0.3~0.6秒で軽い脱水症になり、0.8~2.5秒で中程度の脱水症となり、2.8秒で命が危ないことに。ひ~、オソロシや~。
マンガやアニメの豊かな表現は、空想科学的に考えると、ヒジョ~に怖いことになるのだった。筆者もびっくりしました。