「野合」か「地球防衛隊」か。大阪都構想終結を掲げる府市首長の選挙戦
「自民から共産まで野合」VS「維新の党利党略」の舌戦
「共産党までが向こうの知事候補、市長候補をよろしくお願いしますって言ってる。完全に自民党と共産党はくっついてます。これでは大阪は良くなりません」
4月2日、桜が開花してもまだ冷たい風が吹く大阪市内の繁華街。「大阪維新の会」の街宣活動では、4月7日投開票の大阪府知事、大阪市長のダブル選挙が、維新VS反維新で一騎打ちの構図になっていることについて、反維新側を攻撃する声が響いた。
維新の府議候補は「よくマスコミでは『大阪維新の会』対『自公』と書いています。自民党、公明党、連合推薦と言いながら、立憲民主、国民民主、そして共産党まで裏で手を結んでいる。マスコミも『維新』対『反維新』と言うなら反維新の中身をきちんと伝えてほしい」とマスコミを批判。
今回の府市ダブル選挙は、「大阪維新の会」代表の松井一郎・前大阪府知事と、同政調会長の吉村洋文・前大阪市長が辞職したうえで、松井前知事は大阪市長選挙に、吉村前市長が府知事選挙に立場を入れ替えて立候補した特殊な選挙だ。任期途中の辞職でもこのような形にすれば、当選後は4年の任期を確保でき、さらに統一地方選と合わせて府市両首長が選挙戦を戦えば、維新の地方議員選挙の追い風になる。この選挙戦術に対し、自民党と公明党は「維新の党利党略による『投げ出し入れ替え選挙』だ」と激怒し、小西禎一・元大阪府副知事を府知事候補に、柳本顕・元大阪市議を大阪市長候補にかついだ。これだけなら維新VS自公の戦いだが、政令指定都市の大阪市を廃止して特別区に分割する「大阪都構想」に行き詰って松井、吉村両首長が辞職した経緯から、地元議会でずっと大阪都構想に反対してきた共産党をはじめ立憲民主党、国民民主党も「大阪都構想に終止符を打つ」と掲げる小西、柳本両候補を「自主支援」や「支持」すると表明した。
維新側は「裏で手を結んでいる。野合だ」と言うが、これは裏ではなく表に出ている話だ。
維新の街宣活動では、地元の府議候補や市議候補に続いて大阪市長候補の松井前知事はこう言った。
「とにかく相手陣営は、自民党、公明党、立憲民主、共産党、もう水と油。交わらないものが交わっている。例えば食事のセットとしたら、あれほど食べ合わせの悪いものはありません。お腹痛起こしますよ。サラダにマヨネーズをかけるのはいいけど、歯磨き粉がかかっているようなものですよ。目玉焼きにソースや醤油なら分かるけど、目玉焼きに墨汁がかかっているようなもんですから。これ食べたらお腹痛を起こすんで、食べてもお腹痛を起こさない消化にいい吉村、松井セットで選んでもらいたいです」
自公候補推薦の連合大阪は「我々は地球防衛隊」
これと同じ日の夜、JR大阪駅前で、松井前知事と吉村前市長の対抗馬である小西知事候補と柳本市長候補を推薦する連合大阪の街宣活動が行われた。集まった人々の手には「0407 選挙に行こう」と書かれたプラカードがある。
街宣車の上でマイクを持った連合大阪の山崎弦一会長は、大阪市を廃止する大阪都構想について「これは(大阪維新の会の創設者である)橋下(徹)さんが府知事だった時、大阪市を乗っ取ってやろうと始まった話」と原点を説明。大阪都構想は大阪市を廃止して特別区に分割するもので、それにより、政令指定都市、大阪市の持つ権限と財源はごっそり大阪府に移譲する。大阪都構想は大阪市民の目線で考えられたものではなく、大阪府側から発案されたものであり、橋下元知事は「大阪市が持っている権限、力、お金をむしり取る」と発言していた。
山崎会長は「連帯」を強調した。
「(選挙戦は)大変、厳しい戦いになっております。でも、もう(相手の)背中が見えています。私たちがこういう演説会をやりますと、必ず大阪維新の会の皆さんは野合だという品のない言葉を使ってレッテルを貼ってこられるんです。でもこれは、断じて野合ではありません。映画でよくありますね、エイリアン、宇宙人が地球に攻めてきたら、アメリカもロシアも中国もありません、全世界がまとまって『地球防衛隊』を作るんです。私たちはまさに、大阪を壊したらアカン、大阪を守りたい、そういう思いで糾合したんです。皆さんも仲間の輪に加わっていただいて、小西さん、柳本さんにご支援をいただきたい。是非、よろしくお願いします」
この「地球防衛隊」説は、2015年5月に大阪都構想の賛否を問う大阪市民対象の住民投票の頃から、在阪の学者やジャーナリストが発信するようになった。
立命館大学の森裕之教授(地方財政学)は市民学習会などで「大阪都構想の反対勢力は地球防衛隊。自民党も共産党も関係ない。地球を乗っ取ろう、地球を破壊しようとするエイリアンが現れたら、各国は『地球民』としてまとまるはず。北朝鮮とは一緒に戦いたくないとか、中国には協力できないとか、そんな発想にはならない。一致団結してエイリアンを撃退し、その後、国同士の争いごとは改めて解決すればいい。大阪市を廃止する維新勢力に対し、大阪市を守ろうと自民党から共産党までが団結するのは当然のこと」と述べている。
市民サイドから地球防衛隊に参画する動きもある。様々な市民団体が集まり「勝手連OSAKA」を名乗って選挙期間中、柳本候補と小西候補を応援する街頭活動を続けている。2015年5月に行われた大阪都構想の住民投票では、大阪維新の会が圧倒的な資金力で派手な宣伝を行ったが、こうした市民団体が草の根運動を展開し、「反対多数」で否決する力になった。この府市首長選挙も知名度の高い維新候補が優位に戦いを進めている。勝手連のメンバーは「住民投票の時の奇跡をもう一度」との願いを込めてメガホンを握る。