林家木久蔵ラーメンに関するゴタゴタについて
「”木久蔵”の無断使用”侵害に当たり得る” ラーメン商標権訴訟で福岡地裁」というニュースがありました。偶然ではありますが、ラーメン関係のもめ事が続きます。
ということだそうです。
この件については、2021年の訴訟提起の時点で解説記事を書いています。話の流れとしては以下のとおりです。
2005年6月:木久扇さんのマネジメント事務所がラーメン等を指定商品に「林家木久蔵」を商標登録(4867275号)
福岡の食品会社(今回の原告)に専用実施権(独占的ライセンス)設定
食品会社は1食5円の対価支払契約を締結
2015年6月:初回の商標登録更新料未納のため商標権消滅
2021年6月:商標権消滅に気付いた食品会社が対価支払拒否および2015年以降のロイヤリティ返還を木久扇さん側に要求し提訴
2023年9月:福岡地裁は食品会社の請求を棄却
商標権は10年ごと(場合によっては5年ごと)に更新料を支払えば自動的に権利が延長されます。10年とレンジが長いのと、特許庁から特にリマインダーが来るわけではないので、更新料を支払い忘れて権利切れになるリスクがあります。通常は、出願を代理した特許事務所が期限管理をしてくれるのですが、今回は、特許事務所が代理に入っており、かつ、独占的ライセンスの対象になっているのに初回の更新料が払われなかった理由は不明です。
商標権が消滅していると、当然ながら商標権ライセンスの根拠がなくなるのでロイヤリティ支払義務もなくなります。支払済みロイヤリティの返還義務があるかは契約内容しだいと思います(支払済みのロイヤリティは理由の如何を問わず返還しないという条項があるケースもあります)。
しかし、今回のケースについていうと、パブリシティ権という、商標権とは別の権利が有効であることが福岡地裁により認定されましたので状況は異なります。パブリシティ権とは「著名人の氏名や肖像の持つ顧客吸引力から生じる経済的な利益・価値を排他的に利用する権利」であり、法律の明文では定められてはいませんが、判例的に確定している権利です。たとえば、「大谷翔平」が商標登録されていない(実際、登録されていません)からといって、自社製品に勝手に「大谷翔平ラーメン」と命名して売り出したら大問題になるのは明らかでしょう。
「林家木久蔵」の名前はテレビでおなじみでしたし、林家木久蔵ラーメンも笑点等でさんざんネタにされていたので、パブリシティ権が認定されるのは当然と思います。冒頭記事では「登録商標でなくても無断使用は”(名前などから生じた利益を独占できる)パブリシティ権侵害に当たり得る”と指摘」となっていますが、これが意味することは、商標権が消滅していた期間においても、食品会社はライセンス契約によってパブリシティ権侵害を問われることはなかったという利益を得ていたのでその期間に払った対価の返還義務はない(支払済みロイヤリティを返還しないという条項のあるなしは関係なし)ということだと思います。なお、報道記事によっては、パブリシティ権の話がいっさい書いてないものがあるので誤解してしまう人がいるかもしれません。
知財関係の地裁判決は必ず裁判所のウェブサイトに載るわけではないのですが、是非判決文を見てみたいものだと思います。特に、どういう契約内容になっていたかに興味があります。