「木久蔵ラーメン」商標権訴訟に関する謎
「林家木久扇が”木久蔵ラーメン”で訴えられた! 4000万超の損害賠償請求に徹底抗戦」というニュースがありました。
ということだそうです。
問題となった登録商標は「林家木久蔵」(4867275号)と思われます(「木久蔵」を含む登録商標で最近に権利抹消になったものはこれしかありません)。権利者は、林家木久扇(当時、林家木久蔵)さんのマネジメント事務所です。ラーメンやスープ等の飲食料品類を幅広くカバーしています。2005年5月に登録されましたが、2015年の最初の更新料納付手続が行われていないため、権利抹消となっています。
商標権は10年(場合によって5年)ごとに更新料を支払っていれば永遠に権利を保持できますが、逆に更新手続を行わなければ権利抹消になってしまいます。特許庁から更新日のお知らせのようなものは来ませんので、期日の管理は権利者側がしっかり行う必要があります。
個人や小規模企業が代理人を通さないで自分で出願した場合に更新を忘れて権利が抹消されてしまうケースがたまに見られます(10年レンジの話なので担当者が失念したり、引き継ぎせずに退職してしまう可能性があります)。しかし、今回の商標登録に関しては、大手の法律事務所が代理人になっているので更新を失念したということは考えにくいです。この事件の最大の謎です。料金を節約するために権利者が更新管理を自分でやることを選択して失念したか、あるいは、更新時(2015年)には木久扇に改名済みだったのでもう不要と勘違いしてしまったのかもしれません。
なお、この登録には登録直後に専用使用権(独占的ライセンス)が設定されています。これは、上記の食品会社との契約に基づくものと思います。
また、この権利者(マネジメント事務所)は、「林家木久蔵ラーメン」、「林家木久蔵」、「林家木久扇」を今年の6月に出願していますがまだ審査中です(少なくともその時には、旧登録が権利切れになっているのを認識していたということでしょう)。追記:他人氏名を含む商標を登録しない商標法の規定(4条1項8号)を気にされる方もいるかもしれませんが、林家木久蔵(木久扇)という氏名(本名)の人はいないと思われるので問題ありません。「著名な芸名」には該当すると思いますが、それは林家木久蔵(木久扇)さんが承諾書を提出すればよく、これらの出願は正規のマネジメント事務所によるものなので問題にはなり得ません。
裁判の行方ですが、商品会社との木久扇さんのマネジメント事務所の間の契約書の中身がわからないので断定的なことは言えません。記事をよく読むと4200万円の損害賠償は、(商標権消滅によるもめ事から発生した)契約解除による在庫処分などに対するものなので商標制度の話の範疇外です。ただ、一般的に言えば、専用使用権を設定した商標権の権利を不注意で途中で消滅させてしまったのであれば、権利者は受け取ったライセンス料の少なくとも一部を返還する責を負うことになると思います。