阪神・安芸キャンプこぼれ話 『マウスピース、声出し、チャラくないコーチ』
プロ野球は春季キャンプを終え、この土日から各地でオープン戦が本格化してきました。2日、阪神はヤフオクドームでソフトバンクと対戦して1対0の惜敗。先発した浜地投手は3回1失点で負けがついてしまったものの、グイッと伸びてくるような真っすぐは見事ですね!ドラフト1位・近本選手、同3位・木浪選手もアピールしています。
相手チームのことで恐縮ですけど、三菱重工長崎時代に取材をさせてもらった奥村政稔投手(三菱日立パワーシステムズ)が、初実戦で2安打されながら0点に抑えたのも、個人的には嬉しかったですねえ。ソフトバンクに入団したため、横浜から地元の九州に戻ってヤフオクドームで迎えたプロ初マウンド。ドラフトで指名された時、自分のことのように喜んでいた野原将志先輩も、登板をテレビで見たそうですよ。
そして同時刻に行われたタマホームスタジアム筑後でのソフトバンク-阪神戦は、この日から始まったファームの春季教育リーグ。とはいえ岩貞投手と才木投手が投げ、島田選手、糸原選手、北條選手、大山選手、梅野選手、近本選手と宜野座組6人のスタメン。打線は毎回のように走者を出しながら得点できず、4対0で負けました。盗塁を4つ決めたんですけどね。きょう3日の福岡は雨予報、タマスタの試合が何とかできますように。
雨の日の安芸ドームにて
さて、2月27日に打ち上げた阪神の安芸キャンプで、まだ書けていなかった“こぼれ話”を、きょうはご紹介します。
2月11日の祝日は四国銀行を招いての初実戦が予定されていました。しかし朝の雨で練習開始前に中止が決定。天気はすぐ回復したものの午前中の気温が低く、体調やケガを考慮して中止となったようです。
朝9時前の時点で安芸ドーム横の歩道には60人以上の方が並んでおられたため、第1陣として9時にドーム2階への入場開始。いつもは20分ずつくらいで入れ替え、お客様はまた外で並んで、順番が来たら再入場というパターンです。でも、この日は前後2列で入場して前列で20分見たあと後列に回って20分、ドーム内の滞在時間が1人計40分でした。後列だと練習風景は見えないけど、外が寒かったので少しでも長くいられるようにという配慮。宮脇則昭ファームディレクターの提案だったそうですよ。お客様も喜んでおられました。
中止になったけれど四国銀行も安芸ドーム内で練習。平田監督は「ひたむきさ、貪欲さ。あの姿勢を見て我々が学ぶことはたくさんある。そのためにもアマとの交流試合は大切だよ」と話しています。この日は初の実戦が流れてしまい、練習後に平田監督はこんなコメント。「天気に頑張ってほしかったなあ。選手が頑張っているのに…天気のバカヤロー!」
野球選手の歯はとても大切です
その初戦で先発予定だった福永春吾投手もガッカリです。でもすぐにチャンスはあるはず、と言ったら「気持ちは常に作っています!」と元気な声。翌日のシートバッティング登板に向けて「頑張ります」と引き揚げていきました。
私がことし安芸キャンプにお邪魔したのは例年より遅く、第3クールに入った2月9日からです。早速ブルペンで各投手のピッチングを見ていて、福永投手の歯が真っ白で驚き!オフにホワイトニングでもしたんだろうか、それにしても白すぎ…と思ってカメラでアップにしてみたところ、ボクサーが口に入れているマウスピースのように見えます。
早速聞いてみたら「そうです。マウスピースです」とのこと。歯の噛み合わせが悪かったから?誰かに勧められて?「歯医者に行ったんですよ。小学校以来の。それでクリーニング(歯石除去)をしてもらって」と続けようとした福永投手を、思わず止めてしまいました。「歯医者さんに行ったのが小学校以来!?中学も高校も、それ以降も虫歯はなかったの?」と。なかったそうです。歯の健康優良児ですね。素晴らしい。では続きをどうぞ。
「また別のところで診てもらった時にマウスピースの話になったんです。それで、“じゃあ”と」。なるほど話の流れで試してみることになったわけですね。使ってみて「噛みあわせはよくなったと思います。首とかも楽になった。肩が張ったりするのも」と福永投手。「首から下はマッサージをするけど、マウスピースがその役割みたいで。自分が思っていたのと違いました。歯を守るんじゃなく、噛み合わせをよくして正常に機能するよう着けるものなんですね。マウスピースをして、逆に“食いしばる”ことがなくなった気がします」
試合はどうしようかなと迷っていたので、16日の西武戦は着けていないと思ったら「していましたよ」とのこと。ブルペンと違って試合中の写真ではわかりにくいけど、先発した23日のJR四国戦は確認できました。写真は12日のシート打撃と19日のブルペンのもの。『野球選手は歯が命』って感じですね。って、このフレーズ古すぎますか?でも平田監督はすぐわかってくれるでしょう。
「1軍のお立ち台で呂選手の通訳を!」
2月17日朝は、前日の岩田稔投手から指名を受けた藤谷洸介選手がウォーミングアップ前の“声出し”をしました。「一日も早く支配下に」という目標を叫び、翌日の担当を名指ししたところ、それが何と…呂彦青投手と原田清一通訳!
休みを挟んで第5クール初日の2月19日朝。雨のため屋内での練習となり、声出しも安芸ドームで行われました。呂投手はもちろん台湾語で、原田さんが「ことしの目標はシーズンをケガなく投げることと、一日も早く1軍に上がって投げることです」と訳しています。そのあと平田勝男監督のひと声が。「お前の目標は!?」。原田さんは「以上」と締めくくったつもりでしたが、そこはもうやるしかありません。
「ことしの目標は、1軍で、甲子園の大観衆の前で、呂選手と一緒にお立ち台に上がって通訳することです!」
大きな拍手が起きました。
ついで翌日の声出し指名。原田さんは「あすは高橋…」と言ったあと止まってしまい、あとで聞いたら「高橋選手が2人いるのに、遥人という名前が出てこなくて。聡文さんを見たら『え、オレ?』とビビっていましたね」と笑います。いやいや、笑い事じゃないかも。無事に高橋遥投手を指名した原田さんは続けて「小豆畑さん」と言っていませんでしたか?「はい、言いました(笑)」。これは単なる冗談だったようですが、平田監督の「マメ、返事は!」でまた大爆笑。
ちなみに2月20日、小豆畑さんは“回避”したそうです。
西田さんの来訪に癒されたチーム
2月19日には、懐かしい人が安芸を訪れました。昨年まで在籍した西田直斗さんです。安芸ドームの2階から西田さんが顔を覗かせると、みんな嬉しそうに手を振っていたのが印象的。気づかなかった陽川選手に向かって「ゴリ!ゴリラ!」と呼びかけます。なんて失礼な…しかも自分の方が年下…と思ったら素早く顔を上げた陽川選手。その反応もどうなんでしょうね(笑)。しかも西田さんだと悟った途端、とびっきりのスマイルなんですけど。
キャッチャーのアルバイトに来ている岡本仁選手(今季からBCリーグ・石川でプレー)は、以前も書いた通り西田さんとは同い年で、八尾フレンドのチームメイトだったため今も親しい間柄です。古巣の陣中見舞いだけでなく、彼を激励する意味もあったのでしょう。なお“スーツ屋さん”の仕事も順調だそうですよ。
そうそう、平田監督に「バッピやってくれよ」と言われ「やります!」と元気に答えた西田さん。でも翌日のフリー打撃は東部の室内練習場で行われたので、投げる姿を見ることはできませんでした。残念。やる気満々だったのに。
6年ぶりの現場でハツラツ!平尾コーチ
懐かしい人といえば、ものすごく懐かしい人と再会した話を書かせていただきます。ことしから西武のファームで打撃兼守備走塁を担当する平尾博司コーチです。2月16日の練習試合でも安芸に来ていたのですが、タイミング悪く挨拶もできずじまい。平尾コーチも安芸で私に気づいていたらしく「変わらず元気そうで」と、2月20日の東部運動公園野球場で言われました。
平尾選手は1993年のドラフト2位で阪神に入団。社会人の藪恵壹投手が逆指名の1位、そして2位からは高波文一外野手、中里鉄也内野手、井上貴朗投手とすべて高校生でした。1992年からCSテレビ・GAORAで阪神ファームの公式戦中継が始まり、私はまだ慣れない実況やリポートに四苦八苦していた頃で…余計に記憶が鮮明なのかもしれません。
またルーキーだった平尾選手、高波選手、井上選手の3人がフレッシュオールスターゲームに出場し、私も札幌円山球場まで遠征しました。あれが初めてのフレッシュ取材だったんですよね。グラウンドから引き揚げてきて「足がガクガク!」と言いながら、とても楽しそうだった3人の顔を今も覚えています。
2001年途中、谷中真二投手とのトレードで西武に移籍。大きなケガもありましたが、1軍で印象的なバッティングを見せたり、ベテランと呼ばれるようになってからの『チャラ男』というニックネームも、平尾選手ならではですよねえ!
いつまでも変わらない“平尾くん”
現役を引退後は6年間、ライオンズアカデミーでジュニアチームを担当していました。ことし初めて現場に戻ったわけで「まだ手探り」と言っていますがノックを打ったり打者に投げたり、そんな時の様子は昔と変わりませんね。同期入団の同級生たちについて詳しい近況を把握できていないようなので、また報告しておきます。
この日、阪神の久保田智之スカウトも東部野球場を訪れ、挨拶をしていました。平尾さん、という呼びかけを聞いて「向こうが年上なんですね!」と言ったら「そうですよ。平尾さんは埼玉の大スターですから!」と久保田さん。不思議なもので、高校から入団した選手はいつまで経っても末っ子みたいなイメージがあって…。でも、もう43歳のコーチをつかまえて「平尾くん」とは言えませんね。
だけど写真をお願いしたら、すぐにVサイン。いやいや、コーチなんだから威厳を保たないと。「大丈夫です!」。そう言ってカメラに向けてくれた屈託のない笑顔は、四半世紀の時を経ても変わらぬ“平尾くん”でした。なのに「僕が阪神に入った頃とは違うから、同じようにやってもダメですよ、今の子は」なんて話をするんですよね。平田監督ともそんなやり取りをしたのかも。
別れ際に「所沢へも来てくださいよ!」と言われたけど、さすがになかなか。すみません。次はフェニックス・リーグの宮崎で会いましょう。あ、ファーム日本選手権でもいいですね。
<掲載写真は筆者撮影>