リーダーの条件――「褒める達人」は褒められない部下を決して褒めたりはしない
褒め言葉「3S]
人間関係を良好に保つために、相手を「褒める」ことが秘訣であることは誰もが感じることでしょう。相手の承認欲求を満たすのです。誰かに褒められることにより、脳内神経伝達物質「ドーパミン」が分泌され、意欲が高まることはよく知られています。「褒め言葉」の『3S』というものがあります。「すごいね」「さすがだね」「すばらしいね」の『3S』。褒めることが苦手だという人は参考にされたらいかがでしょうか。
「褒める」側の動機付けとは?
このように、褒められる、という「社会的報酬」によってやる気が生まれることはわかりました。しかし「褒める」側にしてはいかがでしょうか?「褒める」という意欲。「褒める」ためのやる気、と言いましょうか。つまり相手を「褒めたい」と思う動機付けがないと、褒めようにも褒められない、ということもあると私は思います。
ビジネスの分野では昨今、上司が部下をもっと褒めて、認めて、承認すべきだ、という風潮が蔓延しています。しかし当事者である上司たちは、部下がどういうことをしたときに褒めたらいいのかわからない、というのが本音でしょう。
なぜか?
「褒める」というのは、何らかの優れた行いをして評価し、称えることです。褒める相手が何かをした後でなければ、褒めたくても褒めようがありません。つまり、「褒める」側の期待する行動があり、相手がその行動をとる前にではなく、その行動の後にでしか褒めようがない、ということです。
「君、これから私の期待通りの成果を出してくれるんだよね? すごいね、さすがだね、すばらしいね」
などと褒めたら、相手は未来の行いを上司から強要されたと感じ、良い気分はしません。また、それが本当に「褒める」に値する出来事なのか、ということも重要なファクターです。
「君、最近、資料の提出期限を守るようになってきたね。すごいね、さすがだね、すばらしいね」
などと言って部下を褒めたらどうでしょうか? 期限を守って資料を提出しただけで「すばらしい」などと褒められたら、何だか嫌味に聞こえないでしょうか?
「褒める」にも、相手の行い次第である
まとめると、正しく褒めるためには、相手の行為に以下2点が伴っていることが条件なのです。
● 評価・賞賛すべき行いであること
● 評価・賞賛すべき行いがすでに終わっていること
己に厳しい人は、「評価・賞賛すべき行い」の基準がとても高いかもしれません。ですからそのハードルを少し下げて、相手が何か変わろうと努力していることがあれば、積極的に褒めてみましょう。しかし、ハードルを下げても評価・賞賛すべきことがない。何も変わろうとしない。兆候すら見せない、という相手を褒めることはやめましょう。
相手が間違った認識をしてしまう、という副作用もあるからです。これを「認知的不協和」と呼びます。
「あるべき姿」と「現状」とのギャップを正しく認識させることも上司、リーダーの役目です。そのうえで「褒める」のではなく、リードするのです。「あるべき姿とのギャップを埋めていこう」とリードし、その差が縮まってきたら、相手の行いを「褒める」と良いでしょう。相手の行い次第で「褒める」ことも大事ですし、正しくリードすることもまた同様に大事です。