なぜオランダは欧州で4強入りを果たせたのか?ファン・ダイク、X・シモンズ…守備力と中盤の構成の成功。
ダークホース、というわけではなかった。だが優勝候補と目されていなかった彼らが、上位に進出したのは、ひとつのサプライズになっている。
オランダは、EURO2024の準々決勝でトルコと対戦して、勝利を収めた。この結果、スペイン、フランス、イングランドと肩を並べ、ベスト4進出を決めている。
■オランダの苦戦
オランダは、「フットボールの国」である。あのヨハン・クライフを輩出した国で、そういう意味でも、フットボールの世界でリスペクトされている。
しかし、近年、オランダは苦しんでいた。オランダが最後にEUROで優勝したのは、1988年である。
ワールドカップでは、2010年の南アフリカ・ワールドカップで準優勝を果たしている。2014年のブラジルW杯で、3位。だが2018年のロシアW杯に向けては、出場権を逃すという失態を犯した。
オランダといえば、前述の通り、クライフの国だ。そして、クライフといえば、「トータル・フットボール」である。
全員で攻撃して、全員で守備をする。すべての選手が、どこからでもゴールを狙う。まさに総合力をもってして、勝利を目指すスタイルだ。
だが、この数年の不本意な成績は、オランダのフットボールに変化をもたらす要因になった。
ルイ・ファン・ハール前監督は、【5−3−2】のシステムを敷いて、守備と戦術を重視するスタイルで、再び世界でのオランダのプレゼンスを上げようとした。カタールW杯では、準々決勝でリオネル・メッシ擁するアルゼンチンに敗れて、ベスト8敗退。しかし、一定の手応えを得て、“オレンジ軍団”は大会を後にした。
■守備への傾倒
守備を重視するスタイルに舵を切ったからか、近年のオランダには質の高いディフェンダーが揃っている。
デンゼル・デュンフリース(インテル)、ステファン・デ・フライ(インテル)、フィルヒル・ファン・ダイク(リヴァプール)、ナタン・アケ(マンチェスター・シティ)とビッグクラブでプレーする選手たちが後方からチームを支援する。マタイス・デ・リフト(バイエルン・ミュンヘン)、ミッキー・ファン・デ・フェン(トッテナム)らがベンチに座らざるを得ない状況だ。
ただ、大会前の予想に反して、ロナルド・クーマン監督は”ガチガチに守る“フットボールを選択していない。予想されたフォーメーションの【5−3−2】というのも、大会中に崩された。現在、オランダは【4−3−3】で戦っている。奇しくも、伝統のシステムが戻ってきたのだ。
影響が大きかったのは、フレンキー・デ・ヨングの離脱だろう。昨季終盤、バルセロナで負傷したデ・ヨングだが、EURO2024に向け、回復が間に合わなかった。これは、指揮官にとって、誤算だったはずだ。
■中盤の構成と全体バランス
クーマン監督は中盤の構成に頭を悩ませていた。現に、グループステージ第3節のオーストリア戦では、前半35分にヨエイ・フェールマンをピッチから下げ、物議を醸した。
デ・ヨングがいない状況で、中盤を完全に3枚にするより、【4−3−3】と【4−1−4−1】を併用して戦う方が、合理的かつ論理的である。残すところは、タイアニ・ラインデルス、イェルディ・スハウテンと共に誰を組ませるかだったが、この問題もシャビ・シモンズの台頭で目処が立った。
X・シモンズは、バルセロナのカンテラ出身選手だ。「母親がシャビ(・エルナンデス)のファンだった」という理由で、その名を授かったが、彼自身、幼い頃からシャビに憧れていた。
2023−24シーズン、レンタル加入していたライプツィヒで、X・シモンズは43試合に出場して10得点15アシストをマークした。EURO2024では、3アシストしており、アリエン・ロッベン(5アシスト)、デニス・ベルカンプ(4アシスト)、ヴェスレイ・スナイデル(4アシスト)とEURO一大会におけるアシスト数において、往年の名プレーヤーと肩を並べようとしている。
■名門の復権
オランダは、準決勝でイングランドと対戦する。
「人々は、選手と監督に対して、もう少し敬意を払うべきだろう。意見を言ったり、共有したりする時にね。けれども、それは世界的な問題だ。こんにち、多くのサッカー番組やスポーツ番組があり、SNSも存在する」とはクーマン監督の弁だ。
「イングランドは、今大会、苦戦しながら勝利してきた。彼らが受けてきた批判というのは、我々以上のものかも知れない。だが、イングランドには素晴らしい選手たちが揃っている」
オランダがEUROでベスト4進出を果たしたのは、 2004年以来だ。
そして、優勝となると、1988年まで遡る。悲願のタイトル獲得と復権ーー。オランダが、虎視淡々とチャンスをうかがっている。