ファクトチェックを経ずして偽ニュースを語るなかれ 韓国メディアも取組み強化へ
ファクトチェック国際会議開催 参加者数は過去最多
「フェイク(偽)ニュース」「ポスト真実」… 最近こうした言葉を聞く機会が非常に多くなった。それに比べて「ファクトチェック」という単語を目にすることは、まだまだ少ないのではないだろうか。しかし、それは日本での話。実はいま、ファクトチェックは世界的なブームと言っていいほど、急速に広がっている。アジアとて例外ではない。韓国はメディア界をあげてファクトチェックの強化に取り組もうとしている。
7月3日〜5日、スペイン・マドリッドでファクトチェック国際会議「Global Fact 4」が開かれ、40カ国以上から過去最多となる約180人の関係者が一堂に会した。
事実と異なる言説が飛び交う、混沌とした言論状況にいかに立ち向かえばいいのか。世界のファクトチェックの実情を探るべく、現地に赴いた。
ファクトチェック団体は3年で2.5倍に
国際会議は、2015年に発足した国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)が主催。3日間、ワークショップなど20を超えるプログラムが行われ、ファクトチェックに携わるメディア・団体をはじめ、研究者やエンジニア、グーグルやフェイスブックなどプラットフォーム事業関係者など幅広い層から参加した。
ファクトチェックとは、一言で言えば「言説の真偽検証」だ。政治家など公人の発言、メディアの報道、インターネット上の言説など、社会に大きな影響を与えるあらゆる情報が対象となる。意見や論評が正しいかどうかではなく、もっぱら事実の正確性を検証することに主眼をおく。その多くが非営利活動であり、財団の寄付などに支えられている。
代表的なのは、米大統領選候補者のファクトチェックに力を入れてきた「ポリティファクト」(PolitiFact)だ。フロリダの地方紙「タンパベイ・タイムズ」が2007年に立ち上げ、米国ジャーナリズム界で最高峰のピューリッツァー賞も受賞。日本でも最近メディアの紹介で知られるようになってきた。
こうしたファクトチェック団体は欧米に限らず、中南米、アフリカ、アジアにも広がっている。ポリティファクト創設者で現在デューク大学教授のビル・アデア(Bill Adaire)さんは、その数が3年前の48から126に増えたことを明らかにした。6月末には、慈善団体オミダイヤ・ネットワークなどがIFCNに130万ドル(約1億4000万円)を寄付すると発表。今後もIFCNを軸にファクトチェック活動が拡大していく可能性が高い。
韓国メディア22社がファクトチェックに参入
お隣の韓国でもファクトチェックに取り組むメディアが急増している。今年、国立ソウル大学(SNU)にファクトチェックセンターが設立され、多数のメディアが参加したプラットフォームが稼働し始めたのだ。
国際会議の会場で、同センター長のチョン・ウンリョン(Chong EunRyung)さんに話を聞いた。
「きっかけは、パク・クネ前大統領の汚職疑惑による弾劾から大統領選に至るプロセスで、いわゆるフェイクニュース問題が深刻化したことだった」という。
大統領選を控えた今年3月、SNUファクトチェックセンターが発足すると同時に、公共放送KBSや中央日報など16のメディアが参加。投票前日までの約1ヶ月間、主に候補者の発言に対するファクトチェックを177件も行った(現在は22メディアに拡大)。
ファクトチェックセンターは各社から提供された記事を集約するプラットフォームの役割に徹したという。ある言説に対する複数の真偽の認定が食い違っても、そのまま掲載する方針をとっている。「なぜ事実についての見方が異なるのか、人々に考える材料を提供できるからだ」(チョンさん)という。
なぜ、複数のメディアがファクトチェックに参加する枠組みが韓国で実現したのか。チョンさんは「メディアとの交渉は決して容易ではなかったが、非営利で、独立性、政治的中立性がある大学だったから協力が得られた」と話したが、それだけではないだろう。
韓国には、もともと複数のメディアがファクトチェックに取り組んでいたという素地があった。そして、パク前大統領の弾劾という一国を揺るがす事態が起き、韓国警察当局がフェイクニュース取締りに乗り出すなど言論の危機的状況も背景にあった。
新興テレビ局JTBCで「ファクトチェッカー」の肩書きをもつオ・デヨン(Oh DaeYoung)さんは、SNUファクトチェックに協力する理由について「既存メディアの信頼は低下している中、複数でチェックする仕組みに参加する方が信頼性が増すと思う」と話した。同局は、数年前から毎日5分間のファクトチェックコーナーを放送しているが、SNUファクトチェックに寄稿するためにわざわざ記事を書き直しているという。
さらに、ファクトチェックを後押しする企業の存在もある。チョンさんによると、韓国を代表するポータルサイトを運営する「ネーバー」(NAVER)が7月初め、SNUファクトチェックセンターに毎年10億ウォン(約1億円)を3年間寄付することを決定した。同センターは今後、この資金を元手に、ファクトチェックを行うジャーナリストの養成や市民のメディアリテラシー向上プロジェクトを進める計画だ。
コラボレーションが相次ぎ誕生 日本では…
こうしたファクトチェックのコラボレーションは、国際会議2日目のセッションで詳しく紹介された。
今年のフランス大統領選では、ニュースを共同検証するサイト「クロスチェック」(CrossCheck)が立ち上がり、AFP通信やル・モンド、BuzzFeedなど新旧19のメディアやテクノロジー企業などが参画。市民からの情報提供をもとに、65件の選挙関連ニュースをファクトチェックしたことが報告された。参加したメディアの担当者らは日々、会社の垣根を超えて情報交換していたという。
セッションでは、ノルウェーでも今年4月、4つの主要メディア(新聞2社、テレビ2社)が共同出資してファクトチェックメディア「ファクティスク」(Faktisk)が発足したことが紹介された。リーダーのヘルジェ・ソルバーグ(Helje Solberg)さんは、ファクトチェックは信用が大事であり、「ライバル社どうしであっても、協力によって得られるものは大きい」と話していた。
ひるがえって日本はどうか。私が運営する誤報検証サイト「GoHoo」のほかは、朝日新聞がたまに政治家の発言のファクトチェック記事を出しているにとどまる。
ただ、6月21日には、日本でもファクトチェックを推進させようと、ジャーナリストや学者、NPO運営者など10人が発起人となり、「ファクトチェック・イニシアティブ」(FactCheck Initiative Japan、FIJ)を旗揚げし、マドリッドの国際会議でも一定の存在感を示した。FIJも、複数のファクトチェック団体が参加できるプラットフォームを目指しているが、当面はメディアも含めたファクトチェックの担い手をいかに増やしていくかが課題となる。
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