MLB2球団を抱えるホットドッグの町の独立リーグ球団その名もシカゴドッグス【マイナーリーグレポート】
シカゴといえば、アメリカプロスポーツの最も盛んな町のひとつだ。野球もそのご多分にもれず、カブス、ホワイトソックスとナ・リーグ、ア・リーグともにチームがあり、周辺の衛星都市にはマイナーリーグ球団がひしめいている。ひとつの都市圏にメジャー球団を2つ抱えるのは結構難しいことで、かつてはボストン、フィラデルフィアがこれに挫折し、ニューヨークも一旦はジャイアンツ、ドジャースに逃げられている。現在、メジャーに球団を抱えるのは、このシカゴとヤンキースに加え、メッツを迎え入れたニューヨーク、それにドジャースとエンゼルスをもつロサンゼルス、それにジャイアンツと(オークランド・)アスレチックスをもつベイエリアのサンフランシスコ(それも来年までで、アスレチックスはラスベガスへ移転するようだが)の4つの都市しかない。
なかでもシカゴは両メジャー球団の本拠地を地下鉄の同じ路線が結び、周辺の町にあるマイナーチームの球場へも郊外列車でアクセスできるという、まさに野球ファンのためにあるような町だ。MLBによるファームリーグの縮小策により、現在はシカゴ都市圏のマイナーチームは独立リーグ所属のものだけになっているが、それでもシカゴのダウンタウンからのびるMETRAというコミューター路線の沿線に6球団が展開されている。
その中でもメジャー球団と同じ「シカゴ」を冠しているチームがある。シカゴ・ドッグスがそれだ。
チームの創設は比較的新しく、2018年のことである。アメリカ独立リーグの強豪、アメリアメリカンアソシエーションに所属している。チーム創設に合わせて建造されたインパクトフィールドには6300人が収容できる。もともとは、カブスの新球場誘致をローズモント市が目論んでいたのだが、それが叶わぬとわかると、独立リーグ球団へと方向転換したらしい。
インパクトフィールドはシカゴの玄関口・オヘア空港の東2キロほどのところに立地している。私の知る限り、世界で一番空港に近いスタジアムだ。ドッグスはここに1試合平均4000人の観衆を集めている(2022年)。リーグの平均が約2500人だから。かなりの人気チームと言ってよい。同じ独立リーグと言っても、専用球場をもち年間50試合もの興行を行うアメリカと、ホームゲームであっても、フランチャイズ県内を転戦し、基本的には週末の試合中心の日本とは大きな違いがある。
取材した日は、同日にダウンタウン近くのリグレー・フィールドでカブス対ホワイトソックスのダービーマッチというビッグゲームがあった。当日は、昼間から両軍のユニフォームやシャツをまとった人々がダウンタウンを闊歩し、盛り上がりを見せていた。
メジャーのダービーマッチへ向かう人々の波とは逆にオヘア空港行きの地下鉄に乗る。地下鉄といっても、ダウンタウンを出るとすぐに電車は高架を走るようになり、やがてハイウェイを空港へ向かう車と並走するようになる。郊外にはオフィスビルが立ち並び、夕方のこの路線は、それぞれ逆の行き先へ向かうダウンタウンからのブルーカラーと、郊外のホワイトカラーが入り交ざっている。ローズモントの駅は、空港駅のひとつ手前。改札を出ると、バスターミナルがあるが、ここから街の中心にある劇場やショッピングセンターの集まるコンプレックス(複合施設)へは無料のシャトルバスが出ている。このコンプレックスをかすめる片側6車線のハイウェイの対岸にインパクトフィールドはあり、バスはここまで通じている。もっとも地下鉄とシャトルバスを乗り継いで来場するファンはほとんどおらず、ほとんどの観客はハイウェイを飛ばして球場に隣接した立体駐車場に車を乗りつける。中には、翌朝の出発前に野球観戦を楽しもうと、コンプレックス内にあるエアポートホテルからハイウェイをまたぐ陸橋を渡って球場にやってきている者もいた。
とにかくこのチームは、「シカゴドッグ」にこだわっている。この日のユニフォームは、通常のホーム用ではなく、ホットドッグを正面にあしらった特別バージョン。トップリーグではない独立リーグでは、とにかくファンを喜ばそうと、様々な企画が催される。
アメリカ野球ときっても切り離せないマスコットもマイナーリーグの魅力だ。今や日本のプロ野球でもおなじみの存在だが、アメリカではマイナーリーグでも登場する。このチームではマスコットもホットドッグにちなんだものとなっている。マスタードをあしらった「スクイーズィー」とその名も「ケチャップ」。試合中、様々なところに出現し、子どもたちを楽しませていた。
現在アメリカのボールパークは、どの席のチケットをもっていても、場内を周回できるようなつくりになっているが、ここでも掘り込み式のフィールドを取り囲む通路を歩いて場内を一周できるようになっている。実際場内を歩いて見ると、その周回通路の広さには驚かされる。通路では、試合に飽きた子どもたちが走り回っていたが、それも気にならないほどだ。
ちなみにこの球場には基本、「札止め」はない。席数を上回る観客が押し寄せた時には、この広大な通路のスペースが立見席として機能するのだ。
そして周回通路の一角には子どもたちのための遊戯スペースがある。やはり子どもにとって、3時間にわたる野球のゲームをじっくり観戦することは難しい。そもそも、アメリカでの野球観戦は、試合を凝視するというよりは、ゲームを前にしながらの食事や社交を楽しむといった傾向が強い。そのようなライト層のファンの取り込みには「野球以外」を充実させる必要があるのだろう。
この夜の観衆は1924人。トップリーグのダービーマッチが行われる中でも興行を成立させるアメリカ独立リーグの秘密をここローズモントで見たような気がした。
(写真は筆者撮影)