Yahoo!ニュース

ガンバ大阪はJリーグ随一の「GK王国」。FC町田ゼルビア戦で守護神3人が思いを持ってパナスタに立つ

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
ガンバ大阪を長年支える東口順昭とFC町田ゼルビアに期限付き移籍中の谷晃生(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 6月30日にパナソニックスタジアム吹田でガンバ大阪とFC町田ゼルビアが対戦する。ガンバ大阪が勝てば、7シーズンぶりの首位奪還の可能性もある大一番は、ガンバ大阪がJリーグでも随一の「ゴールキーパー王国」であることを示す一戦でもある。その理由とはーー。

ガンバ大阪で歴代最高のGKは東口順昭で異論はないだろう

 2014年にアルビレックス新潟からガンバ大阪に加入後、常にゴールマウスに立ち続け、三冠獲得に貢献しただけでなく、残留争いの苦しいシーズンにもビッグセーブを連発しまくってきた東口順昭。38歳を迎えたベテラン守護神が今季、ここまでで唯一ピッチに立ったのは6月12日に行われた天皇杯2回戦の福島ユナイテッドFC戦だった。

 3対0で完封勝利に貢献した東口を記者会見で「彼は今までのガンバの歴史の中でもナンバーワンGKだということは自分自身の中でも自覚している」と称賛したのはダニエル・ポヤトス監督である。

 その言葉に異論を唱えるガンバ大阪サポーターはいないだろう。東口の前に東口なく、東口の後に東口なしーー。そう言いたくなるほど、「ヒガシ」の実績は群を抜いている。ただ、ポヤトス監督の就任一年目となる2023年、開幕戦からゴールマウスを守ったのは現在、FC町田ゼルビアに期限付き移籍中の谷晃生だった。

 ガンバ大阪ではジュニアユース時代から将来を嘱望され、2022年には東京五輪のサッカー日本代表でもレギュラーを務めた谷は、「東口の後継者」として期待され続けてきた存在。しかし、自身のミスもあって開幕から思うようなセーブを見せられず、かつて「ヒガシ(東口)さんは高い壁だけど、お手本になる」と口にした先輩の存在をプレッシャーにも感じていた。

 安定感はもちろんだが、選手、観客の誰もが「やられた」と感じた一瞬に神がかったセーブを見せてきたのが東口という男である。

 ファインセーブに目が慣れたガンバ大阪サポーターの前でプレーする難しさを、谷に尋ねたことがある。

 返ってきた答えは「見ている方々に、ヒガシさんなら止められたのでは、と思わせていたら、僕が出ている意味はない」だった。

 東口に代わって多くの試合で先発しながらも勝利から遠ざかっていた谷は2023年4月9日のホーム、川崎フロンターレ戦でリーグ初勝利に貢献。タイムアップの瞬間、ゴール前で大の字になり、歓喜を噛み締めるとその後は嬉し涙に暮れていた。

 試合後のミックスゾーンで涙について問われると「分からない、覚えていないです」と谷はとぼけたが、背負っていたモノの重さが窺えた。

 ガンバ大阪でJ1リーグ初勝利を手にしながらも、当時チーム状態が悪かったこともあり、谷はやがて東口に定位置を奪い返され、8月にはベルギーのFCVデンデルEHに期限付き移籍。そして今年からFC町田ゼルビアに期限付きで在籍中だ。

今季J1リーグ最小失点に貢献している一森純
今季J1リーグ最小失点に貢献している一森純写真:ムツ・カワモリ/アフロ

J1リーグ最小失点の堅守を最後尾で支える一森純

 FC町田ゼルビアで成長することを選んだ谷の判断が間違いでなかったことは5月に日本代表復帰を果たしたことが物語るが、谷とは対照的にガンバ大阪で新たな挑戦を選んだのが一森純である。

 昨季、期限付き移籍先の横浜F.マリノスで活躍した一森は32歳(7月2日には33歳)という遅咲きの部類に入るが、今季のパフォーマンスは圧巻の一言。J1リーグ最小失点を誇るガンバ大阪の堅守は、決して守備陣だけの功績ではないが一森のビッグセーブがなければ、チームの勝ち点は確実に減っていたはずだ。

 J1リーグでは今季、フル出場中の守護神は、足元の上手さが注目されがちだが、シュートストップで光を放つ。

 開幕前に一森は言っていた。「キーパーがチームを勝たせる、『何かコイツがおったら勝つな』っていう状況がキーパーにとってベストです」。

 谷がかつて重圧として感じた「ヒガシさんなら」という思いをサポーターに抱かせることなく、一森は堂々たるプレーを見せているが、慢心も油断もないのはJFL時代のレノファ山口から這い上がってきた経験を持つが故だろう。

未だに向上心を忘れない百戦錬磨の東口順昭の凄さとは

 ガンバ大阪のゴールマウスを守る一森と、対戦相手として初めてパナソニックスタジアム吹田のピッチに立つ谷を、おそらくベンチスタートで見守ることになる東口。しかし、38歳の守護神もまた、決してサブという立ち位置に甘んじ続けるつもりはない。

 天皇杯2回戦の前日、昨年11月25日以来となる公式戦を心待ちにしていた。

 ――出られない日々で積み上げたものは?

 百戦錬磨の名GKにあえて尋ねてみたが、東口は若手のような目の輝きと口ぶりで自らの成長を明かしてくれた。

 「試合ではまだ分からないけど、今の方が練習中にシュートを止めているなって感覚があるし、試していたことが形になってきたかなというのもある。今、凄く楽しいですね」

 その言葉通り、福島ユナイテッドFC戦では試合終盤に迎えた相手FWとの1対1で積み上げてきた形での見事なセーブを見せ、クリーンシートに貢献。「東口健在」というところを見せつけた。

昨年、1年生ながら日本クラブユース選手権で優勝に貢献した荒木琉偉は191センチの長身でスケール感も十分。既に、2種登録されている
昨年、1年生ながら日本クラブユース選手権で優勝に貢献した荒木琉偉は191センチの長身でスケール感も十分。既に、2種登録されている写真:長田洋平/アフロスポーツ

 過去10シーズン、そのプレーでチームを支えてきた東口は、その背中でもゴールキーパー陣を引っ張る存在に昇華した。

 今季は第3ゴールキーパーでベンチ入りは一度しかない石川慧は、東口の凄さをこう話す。

 「90分、プレーしていない中で最後の最後であのプレーが出せるのは積み上げてきたモノと経験から来る危機察知です。ああやってヒガシさんが示してくれるからこそ、僕ももっとやらないといけないと思えますね。ヒガシさん自身もトライして、試行錯誤しているのも感じます。あれだけ経験があって、結果を出している選手でもまだまだアップデートしたいという気持ちがあるのは凄いし、僕らもまだまだ学ばないといけません」(石川)。

「ゴールキーパー工場」では新世代の守護神が続々と台頭中

 そして、ガンバ大阪では新世代のゴールキーパーたちも育ち始めている。身長194センチの張奥林は世代別代表の経験もあるアカデミー育ちだが、FC町田ゼルビア戦との開幕戦でベンチ入りを果たしたステイマン・J・草太郎はガンバ大阪ユースに在籍するホープで、191センチの荒木琉偉は2023年の日本クラブユース選手権で優勝に貢献し、MVPにも輝いた逸材だ。

 サッカー王国ではゴールキーパーの輩出に秀でたクラブを「ファブリカ・デ・ゴレイロス(ゴールキーパー工場)」と評することがある。大阪府の北部を拠点とする「守護神製造工場」からいつか「ヒガシ超え」を果たす守護神は現れるだろうかーー。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

下薗昌記の最近の記事