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なでしこジャパンは3連勝でアジア最終予選へ。新布陣の成果、新戦力の台頭も

松原渓スポーツジャーナリスト
4-3-3の新布陣でアジア2次予選を突破した(写真:築田純/アフロスポーツ)

 パリ五輪への険しい道を、また一歩前進した。

 なでしこジャパンは、ウズベキスタンで行われたパリ五輪アジア2次予選で、インド(7-0)、ウズベキスタン(2−0)に続き、ベトナムを2-0で下し、3連勝で最終予選に進出。10月29日のウズベキスタン戦で、最終予選の組み合わせを見越してあえて攻撃を封印した日本がこの試合で目指したのは、「本来のアグレッシブさを出して勝つこと」(池田太監督)だった。

 とはいえ、ベトナムは今回の対戦相手の中でFIFAランクは最上位の34位(日本は8位)。マンツーマンの守備で球際は粘り強く、個々の技術、キレのある動きなどはそれまでの2試合の相手とは明らかに違った。だが、主導権を握ったのは日本だった。

「人が動くことによって相手も動くので、裏へのスペースを空ける動きや、囮になる動きなど、ボールに関わっていない選手たちの動きが重要になると思います」

 長谷川唯がそう話していたように、日本は前線の田中美南、長谷川、宮澤ひなた、千葉玲海菜らが流動的にポジションを変え、相手陣内で試合を進めた。しかし、タシケントのロコモティフ・スタジアムは、ピッチコンディションが極めて悪く、インサイドハーフで先発した長野風花曰く「硬くて跳ねやすいけれど、湿気を含んだような芝」。ボールがイレギュラーに跳ね、パスはつながるものの、テンポが生まれない。

 それでも、千葉や田中が積極的なシュートで流れを作り、前半40分には相手陣内中央でボールを奪い、連動した動きで相手のマークを外すと、宮澤のラストパスを清水梨紗が流し込んで先制。

 さらに、後半は交代で清水がセンターバック、遠藤純が右ウイングに入るなど配置にも変化を加え、53分には右コーナーキックの流れから、最後は守屋都弥が押し込んでリードを広げる。その後もボールを保持しながら攻め手を探ったが、スコアは動かず、2-0で試合を終えた。

 全グループが最終戦を終えた段階で、各グループ1位のオーストラリア、北朝鮮、日本に加え、2位の最上位国となったウズベキスタンの4カ国が最終予選進出を決めた。アジア最終予選は来年2月末に予定されており、日本は北朝鮮とのホームアンドアウェーでパリ五輪の出場権を争う。

 日程は2月24日にアウェー、28日がホームでの試合となる。

【3試合を通じて見えた収穫と最終予選へのテーマ】

 日本は今回の2次予選を通じて、チームとしての幅を広げるために4-3-3の新布陣にトライした。パリ五輪ではメンバーが18名まで絞られるため、複数ポジションがこなせる個の適応力と共に、「選手の組み合わせや、攻撃のイメージの共有を重視している」と池田監督。ワールドカップからほとんど変わらないメンバーで戦っていることで、コミュニケーションの伝達はよりスムーズになり、今回の2次予選は誰が出ても遜色なくプレーできることを示した。

「いろいろなことを試した中で、新しく中嶋(淑乃)選手が左サイドの突破を見せてくれましたし、中盤の3人やディフェンスもいろいろなペアやパターンを試せて、GKも3人が出場して経験を積むことができたので、アジアの戦いの中で経験値を上げられたと思います」(同)

 ワールドカップメンバー以外で唯一の選出となった中嶋は、インド戦では2ゴール2アシストと鮮烈な結果を残し、ベトナム戦でも武器のドリブルを存分に発揮した。一緒にプレーするのが初めてだったという遠藤は、「日本人の中でもボールの持ち方やパスを出すタイミングが独特でした」と新しいキャラクターを歓迎。清水も「インド戦では淑乃が2ゴールを決めて、自分もやってやろう、という気持ちになりました」と、刺激を受けたことを明かした。

中嶋淑乃
中嶋淑乃写真:森田直樹/アフロスポーツ

 また、ワールドカップでは出場機会が少なかった千葉も、練習から個で局面を打開するプレーやファインゴールでアピール。主軸として7ゴールを決め、日本を優勝に導いたアジア競技大会の勢いを感じさせた。

 今回のアジア2次予選は、3試合を通じて力の差がある相手だけに攻守の明確な課題は見えにくかった。だが、一見うまくいっているように見える場面も、細部を妥協せずに詰めていく作業は怠っていない。長谷川は、お互いへの「要求の強度」はもっと上げられると話す。

「試合中、強くいかなければいけないところで要求できる選手がもっと増えてきたら、さらにいいチームになると思いますし、それは自分自身も試合や練習で伝えていきたいと思います」

 そうした意識をチームで共有するためにも、11月末から予定されている海外遠征ではより強度の高い相手とのマッチメイクに期待したい。

 熊谷紗希は、「来年2月の最終予選までに、一人ひとりが所属チームでしっかり場数を踏んで、短期決戦に向けて戦う準備をしていきたい」と、個々の取り組みを重視。リバプールでプレーする長野は、「最近は守備の1対1で絶対に負けないことを個人のテーマにしていて、リーグでもいい形で奪えるシーンが増えているので、継続して取り組んでいきたい」と、さらなる成長を誓った。

練習中は常にコミュニケーションを取っている
練習中は常にコミュニケーションを取っている

 WEリーグは今月11日に開幕し、昨季王者の浦和は11月6日から女子版ACLのプレ大会に当たるAFC Women’s Club Championship 2023に参戦する。

 年末に向けて、それぞれの場所で躍動する選手たちの活躍にも目を向けていきたい。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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