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WEリーグ3年目のレベルアップを象徴。“百花繚乱”のアウォーズを振り返る

松原渓スポーツジャーナリスト
ベストイレブン(写真提供:WEリーグ)

 6月7日に渋谷区内で2023-24WEリーグアウォーズが行われた。シーズンを彩った選手たちの活躍を讃え、「百花繚乱」と銘打たれた式典は、色彩豊かな華の絵をバックに、今季活躍した選手たちが登壇した。

 リーグ優勝の浦和は全選手(一部コンディション不良選手を除く)が登壇。賞金2000万円とともに、キャプテンの柴田華絵がリーグトロフィーを手にした。

 得点王は、今季日本プロリーグの連続ゴール記録を塗り替え、10試合連続ゴールを決めた清家貴子(20得点)が受賞。

 全11クラブ、計347選手の投票と全監督の投票により選ばれたベストイレブンは、GK山下杏也加(INAC神戸)、DF石川璃音(浦和)、DF北川ひかる(INAC神戸)、DF遠藤優(浦和)、MF柴田華絵(浦和)、MF木下桃香(東京NB)、MF塩越柚歩(浦和)、FW清家貴子(浦和)、FW藤野あおば(東京NB)、FW田中美南(INAC神戸)、FW上野真実(広島)の11名。

 浦和から最多5名が選出され、2位のINAC神戸から3名、3位の東京NBから2名、広島からは、得点ランク単独2位の上野真実が選出された。山下、柴田、清家、田中は4年連続となる。

 そして、最後に発表されたリーグMVPには、清家貴子が選出。得点王、ベストイレブンと合わせて個人3冠となった。

清家貴子(写真提供:WEリーグ)
清家貴子(写真提供:WEリーグ)

【浦和を支えた「コミュニケーション」力】

 浦和は今季、22試合で55得点という圧倒的な攻撃力で、連勝記録も「13」に塗り替え、18勝3分1敗の結果を残した。楠瀬直木監督と選手たちとの距離感から、チームの色が垣間見える。

「(選手たちは)娘みたいなものです。ほとんど任せていて、『今日の戦術は何?』と自分が聞くほうです。照れくさいですが、ここ(壇上)に立つのはいいなと思うので、またここに帰ってきたいなと思います」

楠瀬直木監督。プレゼンターは槙野智章氏(写真提供:WEリーグ)
楠瀬直木監督。プレゼンターは槙野智章氏(写真提供:WEリーグ)

 キャプテンの役割を聞かれた柴田も、「私はやることがないです。本当にいいチームなんです」と一言。柴田を筆頭に経験値の高い選手が多く、チーム内のコミュニケーションは円滑だ。

柴田華絵(写真提供:WEリーグ)
柴田華絵(写真提供:WEリーグ)

 楠瀬監督がターニングポイントとして挙げたのは、1月末の皇后杯決勝。チームの大黒柱だった安藤梢と猶本光が準決勝でケガをして長期離脱が発表され、2人を同時に欠いた次の試合だった。

「安藤と猶本2人を失った次の日はみんなショックで、石川璃音はグラウンドで泣きながら練習をしていました。でも、フタを開けてみたら、清家や塩越が責任感を持ってよく動いてくれて、非常に逞しくなったなと。それまで安藤と猶本に引っ張っていってもらっていた中で、みんなが『自分がやらなきゃいけない』と思ったポイントだったと思います」

 MVPの清家が壇上で言及したのは、自身が経験した3度のケガだ。前十字靭帯損傷は復帰までに8カ月以上かかる大ケガだが、女子選手は特に多く、WEリーグでも復帰を目指してリハビリに励む選手が多い。

「前十字靭帯を3回断裂しましたが、それでも復帰してこの舞台に今、立てているのは、家族や仲間、たくさんの方の支えがあったからです。ケガをしてしまうのはよくないことですけど、ここまで活躍できるんだよ、と、同じようなケガに悩んでいる人に少しでも元気を与えられたらと思っています」

来季は清家が海外挑戦へ(写真提供:WEリーグ)
来季は清家が海外挑戦へ(写真提供:WEリーグ)

 愛する浦和に最高の置き土産を残して、清家は来季、海外挑戦が決まっている(移籍先は未発表)。

 2位の神戸は3年連続で監督が変わったが、来季はジョルディ・フェロン監督の続投が決まっている。リーグ初のスペイン人監督の下で、神戸もまたチームの雰囲気が変化したようだ。キャプテンの田中の言葉が印象深い。

「監督と選手という立場ですが、愛を持って接してくれているので、みんな素を出して向き合えています。今まで感情をそんなに出しているのを見なかった選手でも、いい意味でジョルディに対して感情を出すことができて、いい関係を築けています」

 神戸に限らず、今季は新監督の下で成績を上げたチームが少なくない。新戦力の活躍もあった。来季に向けて、移籍市場も動き始めている。

【プロ化3年目でリーグはさらにレベルアップ】

 アウォーズの最後に記者向けに行われたベストイレブンの記者会見では、「今季のWEリーグの成長」についての回答が興味深かった。

試合後にはベストイレブンの記者会見が行われた。左から石川、遠藤、北川、柴田(写真提供:WEリーグ)
試合後にはベストイレブンの記者会見が行われた。左から石川、遠藤、北川、柴田(写真提供:WEリーグ)

「カップで広島が優勝したり、新潟が(リーグ戦で)4位になったり、1位から4位と下位のチームとの差がどんどん埋まってきて、リーグ全体のレベルアップと同時に、若い子がどんどん試合に出場するようになってリーグ全体の士気が上がっていることを感じたシーズンでした」(遠藤優/浦和)

「選手個々のレベルアップはもちろん、試合ごとにフォーメーションを変えるバリエーションも出てきて、見てくださる方も楽しいと思いますし、プレーする側も、(相手の)立ち位置が違うだけで、やりづらくなります。それに対応できる選手も増えているなと感じていますし、これからさらにレベルアップするんじゃないかと思います」(柴田/浦和)

「移籍が多く、どのチームもすごくいい補強をして、全チームのレベルが上がったと感じました」(塩越/浦和)

 その他にも、「スーパーゴールが増えた」という木下(東京NB)の回答のほか、清家は観客数の増加に言及。平均観客数は初年度が1,560人、2年目が1,401人で、今季は1,723人。浦和は初年度から年々増加しており、今季は2,447人と記録を更新。1試合あたりの最多観客数は、今季からリーグに参入したC大阪がホームのヨドコウ桜スタジアムで記録した6,651人。広島はホーム戦でWEリーグ歴代最多入場者数(平均2,907人)を達成した(全試合の平均観客数は神戸が21-22シーズンに平均3,158人を記録)。最も増えたのは新潟で、前年比217%増の1,762人となった。

 とはいえ、リーグが発足時から掲げているビジョンは、「世界一のリーグ」になること。海外を見渡せば、アメリカ(NWSL)には平均観客数が2万人を超えるクラブもある。WEリーグも現状に満足することなく、施策強化に期待したい。

 来季、2024-25シーズンのWEリーグは9月14日(土)から来年5月にかけて行われる。開幕に先立って、8月からリーグカップも開幕。今季優勝チームの浦和は来季のAFC Women's Champions League(女子版ACL)に出場する。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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