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なでしこジャパンがパリ五輪前最後のアウェー2連戦へ。メンバー18枠の選考も最終局面に

松原渓スポーツジャーナリスト
スペインでニュージーランド戦に臨むなでしこジャパン

 なでしこジャパンが、パリ五輪前最後の海外遠征で、スペインで2試合を行う。初戦は、日本時間5月31日23時キックオフとなる。

 相手はFIFAランクは28位のニュージーランド。日本の8位に対して格下ではあるが、昨夏のワールドカップでは開催国になり、開幕戦では強豪ノルウェーを破るなど、輝きを放った。

 今回の2試合が行われる会場は、スペイン南部のムルシアのEstadio Nueva Condomina。スペインは昨夏のワールドカップ優勝国で、日本はパリ五輪のグループステージ初戦で対戦することが決まっている。まさに敵の“懐(ふところ)”で試合をすることになるわけだが、五輪の会場が同じヨーロッパであることが今回のマッチメイクにつながったようだ。また、今回招集された22名のうち海外組は13名で、うち主力を含む12名が欧州のクラブに所属している。

 池田太監督の視線は、すでにパリ五輪に向いている。

「この時期にヨーロッパでのキャンプをやることで、パリ(五輪)でのイメージを作ることや、中2日の限られた時間で何ができるか。オリンピックでは時間やスタッフの人数など制約が多くなるので、そういうことを(選手たちに)伝達して、どういうことが起きるか伝えながら進める意味で、ヨーロッパに来て試合をやれる意義があると思います」

 ムルシアは雨はほとんど降らず、日が長い。日中の気温は30度を超える。なでしこジャパンは、前回4月のシービリーブスカップではブラジル、アメリカ相手に2連敗。強豪2カ国相手に出た課題を、今回の2試合ではしっかりと修正して発揮したい。シーズンが終わってオフを挟んだ選手も多く、全体的にコンディションも良さそうだ。

連日30度を超える真夏日が続いているムルシア
連日30度を超える真夏日が続いているムルシア

【メンバー選考+内容面での積み上げを示す2試合に】

 チームとしての積み上げと同時に、今回の活動は五輪のメンバー選考の最終段階でもある。選考で重視する部分について、指揮官が重視するのは「切り替えや勝負への執着心」。プレッシャーやギリギリの精神状況でも結果を出す力が求められる。メンバー入りが濃厚と思われる選手も、良い意味での緊張感を漂わせている。その一人がボランチの長野風花だ。

長野風花
長野風花写真:アフロ

「このチームに必要だな、と思われるようなプレーを絶対にしないといけないし、チームとしてもオリンピックまで数少ない試合の中でやるべきことがたくさんあります。今までの課題に対して、すべてのプレー、すべての瞬間でチャレンジすることを大事にしながら臨みたいと思っています」

 日本はワールドカップを戦った3-4-3と、その後のアジア予選で基本フォーメーションとしてきた4-3-3を併用。試合の中での変更がスムーズに行かないことや、相手によってはうまくはまらないこともあり、使い分けに苦労してきた印象だが、選択肢が広がったことは確かだ。

「相手のライン間をうまく使う攻撃や、幅を使った攻撃でチャンスを作る、関わりの多い攻撃はストロングなので出していきたい。守備陣には、攻撃しているときのリスクマネジメント、細部の準備を求めていきたいです」(池田監督)

【海外組の飛躍も好材料に】

 メンバーに関しては、ワールドカップ以降、アジア予選を戦う中で多少の入れ替わりはあったものの、軸は変わっていない。国内組も、アジア最終予選を戦ったメンバーが継続して呼ばれている。そして海外組も、それぞれの場所でしっかりと成長の足跡を刻んでいる。

 セリエAでは、熊谷紗希と南萌華が主力としてプレーするローマが圧倒的な強さで2連覇を達成。ウェストハムに加入1年目の植木理子は、主力に定着して全22試合に出場し、6ゴールを決めた。同クラブの林穂之香と清水梨紗も中盤で信頼を勝ち得ている。19歳の谷川萌々子は、スウェーデン1部首位のFCローゼンゴードで、開幕から7戦連続ゴールを記録。フランクフルトの千葉玲海菜やチェルシーの浜野まいかも、強豪クラブで初ゴールを決めた。

谷川萌々子
谷川萌々子写真:REX/アフロ

 長谷川唯が所属するマンチェスター・シティは、チェルシーとの優勝争いで一歩及ばず2位に終わったが、長谷川は昨季に続き、チームに欠かせない“心臓”だった。

 また、リバプールで2シーズン目の長野は、ほとんどの試合に出場。浜野のチェルシー、長谷川唯のマンチェスター・シティ、アーセナルに次ぐ4位でシーズンを終えている。

「毎週末の試合でトップレベルの選手たちとプレーできて、足の伸びやターンの速さ、パススピードの速さなど、すべての面で慣れてきたことが大きいです。日々の積み重ねでできていること、できなかったところを自分で考えながらチャレンジと課題の修正を繰り返せることの充実感をすごく感じた1年でした」(長野)

 イングランドでプレーする日本人選手は増えているが、長谷川や長野、清水、林、籾木結花らを筆頭にテクニックが高くてゲームを作れる選手が多い。そのため、「日本人=テクニシャン」というイメージが定着している。

 植木は、そのイメージを変えるかもしれない。テクニシャン揃いの東京NBでも異色の存在だった植木は、泥臭く守備をして気持ちで押し込むようなゴールが多く、「ファイター」の愛称がピッタリだった。そのイメージはイングランドでも浸透しつつあるようだ。

植木理子
植木理子写真:REX/アフロ

「日本人は足元の技術が高いイメージがあったので、自分が加入したときも『テクニシャン』と言われたんです。『そんなこと日本じゃ言われたことないよ』とずっと言ってたんですけど(笑)。コミュニケーションは(言葉の壁があって)100%では伝えられないですが、50%で伝えて、あとはプレーを見てもらいながら細かい要求を重ねました。自分のことを『ファイター』や『ランナー』と言い続けてアピールし続けたので、チームメートに早めにわかってもらえたと思います」

 ウェストハムは、今季は12チーム中11位に終わったが、植木はボールを持てる時間が少ない中でパスの受け手としてのバリエーションを広げ、屈強なDFとマッチアップしながら、ボールを収める力も向上。その成果を、今回の2試合でも見せたい。

 チームの攻撃のタクトを振るのは、長谷川だろう。

「試合の中でメンバーを変えなくてもフォーメーションを変えられるオプションを持っているのは、自分たちの強みだと思いますし、自分自身、その変更の中心になりたいと思っています」

長谷川唯
長谷川唯写真:ロイター/アフロ

 4-3-3でも3-4-3でも、相手の変化に応じて最適な立ち位置やフォーメーションを見つけ、修正していく。ニュージーランドに対してボールを保持する時間が長くなることが予想されるが、その中で意図した攻撃をどれだけ示すことができるか。

 試合は日本時間の5月31日23時キックオフ。JFA TVでライブ配信される。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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