システム的に結婚したくありません。好きな人とちゃんと恋愛してから結婚したい~結婚相談所の現実(3)~
婚活アプリが全盛の時代だ。一方で、昔ながらの「お見合いおばさん(おじさん)」が経営する結婚相談所もしぶとく生き残っている。会員一人ひとりの性格や事情を把握して、お見合いを組み、相談に乗り、結婚というゴールを一緒に目指していく。地道な仕事だ。彼らは具体的に何をしてくれるのか。料金は妥当なのか。そのやり方で本当に結婚できるのか。いろんな疑問がわいてくる。
筆者は全国の結婚相談所を訪ね歩く連載を始めている。顔を合わせて話してみると、意外な現実を知ることが多い。こちらが率直な質問をすると、期待以上に赤裸々な回答が戻ってきたりする。本連載ではその一部を読者と共有したいと思う。
第3回は、東京を中心に活動している結婚相談所「ダリアのブーケ」の中嶋えりこさんに、ちょっと聞きにくい質問をぶつけてみたい。それは「結婚相談所に入ってお見合いから交際をすると、システマチックに結婚することになってしまい、気持ちが追いつかなくなるのでは?」というもの。結婚が個人の自由に委ねられた現代社会では、恋愛感情を抜きした結婚は成り立ちにくいのだ。まずは中嶋さんの結婚相談所の「システム」から聞いてみよう。
結婚ではなく恋愛できるか否かで判断して良い。その先の「交際」は相手を知る期間
――「ダリアのブーケ」も連盟(多くの結婚相談所が会員を共有するデータベースを指す業界用語。全国に約10の連盟が存在する)に加入していますよね。どちらに加入していますか?
うちは日本仲人協会に属しています。会員になっていただくと、男性は女性のプロフィールを、女性は男性のプロフィールを見られて、私たち仲人を通してお見合いを申しむことができます。
現在、ダリアのブーケには女性の会員しかいません。他の相談所の男性から申し込みがあると、こちらの希望条件からかけ離れていないかを私がチェックした上でつなぎます。
お申し込みを受けてから平均すると1週間以内にはお見合いの日程が決まります。ただし、人気のある女性だと申し込みがたくさんあり、お見合いは土日がメインとなるので、お見合いが実現するのは2カ月先になることもあります。
――本題に入りますが、結婚を前提とした「出会い」は不自然であり、お見合いから「交際」に入ったとしても気持ちが追いつかないという声を聞くことがあります。中嶋さんはどうお考えですか。
結婚相談所は、真剣に結婚を考えている独身者だけが入会して、出会いから成婚退会に至るまでのお手伝いを私たち仲人がするところです。お断りする場合も私たちが代わってやってあげられます。とても合理的で理にかなっていると私は思います。出会いは確実に多く提供できるからです。
女性の場合、20代30代のかわいい子が有利なのは確かですが、40代にもお見合いの申し込みが入ります。うちの会員さんには申し込みゼロという方はいません。写真や自己PR文で、男性から「会ってみたいな」と思ってもらえるよう、私は必ずアドバイスをしています。
ただし、「いきなり結婚前提で進んでも気持ちが追いつかない」のも理解できます。そういう方には「まずは結婚という言葉を頭から外して会っても大丈夫。『この人と恋愛できるかな?』と考えながら会ってみて。その先の交際期間は相手をじっくり知る期間だよ」などと声をかけてあげるようにしています。
当事者2人と仲人2人。4人の気持ちが合致すれば交際期間が長くなっても問題なし
――そうは言っても、結婚相談所のルールがありますよね。お見合いをして、お互いが相手を気に入ったら、どのような流れとスケジュールで結論(成婚料を支払って退会)に至るのでしょうか。
お見合い後すぐの交際の段階では、お互いが携帯電話番号などを交換して、自分たちのペースで会ってもらいます。私とも月に1、2回は連絡を取ってもらい、相手との関係がどんな状況かを報告してもらいます。
複数の方との交際はどうしても決めかねるなどの理由がある場合のみ大丈夫です。ただし、日本仲人協会の約束事として、期間にして1カ月程度、3、4回会った時点を限度としてその先に進むかどうかを決めていただき、一人に絞ってもらいます。いつまでも複数の人と会い続けるのはおかしいですからね。
本交際が始まったら3カ月から半年間で成婚退会するか否かを決めていただくのが目安です。とはいえ、結婚は相手やその家族もあること。すぐには決められないこともあるでしょう。お相手の仲人と私も含めた4人の気持ちが合致すれば、「もう少し様子を見ましょう」ということで交際期間が長くなっても問題ありません。
――中嶋さんたち仲人さん(カウンセラー)の「気持ち」も大事なのですね。
私たち仲人にはそれぞれの方針があります。結婚というゴールに向けて、交際期間をどの程度設けるべきなのか。担当させていただく会員さんの個性によっても変わってくるでしょう。4人が納得して、成婚退会に向けて歩みを進めることが重要だと思っています。
自分の気持ちをコントロールできない人は、いずれにせよ結婚の決断ができない
――結婚相談所では恋愛結婚ができないのでは?という疑問にはどのように答えますか。
結婚相談所は出会いの入口の一つに過ぎません。特に女性の場合、どのような入口であっても恋愛を楽しんでから結婚したい、事務的に割り切りたくない、という気持ちは強いと思います。それは当然のことです。
結婚を決められる人には傾向があります。自分の気持ちをきちんとコントロールして、譲れない部分と妥協できる部分を見極めて、結婚に向かって行動できる人です。逆に言えば、自分の気持ちをコントロールできない人は、結婚相談所を利用しなくても結婚の決断ができないのではないでしょうか。
――年齢を重ねるとなかなか恋愛モードになれない、という悩みも聞きます。中嶋さんならどんなアドバイスをしますか。
月並みな表現になりますが、自然体でいることが大事だと思います。自分を飾らず、素を出せて、背伸びをしない。そうすると、好きになったりなられたりが自然とできるようになるはずです。
お見合いがうまくいかないことが続くと「次もダメだろう」と悲観的になってしまうこともあります。その状態は自然体とは言えません。会員さんが前向きな気持ちを保てるように、できるだけポジティブな言葉をかけてあげるようにしています。服装を誉めてあげたり、「大丈夫だよ」と言ってあげたり。もちろん、本当に大丈夫だと私が感じているから、それを口に出しているだけです。
自然体になると、交際から恋愛へ、そして成婚へとスムーズに進んでいくことが多いように感じます。「彼にこんなことを言ってもらったんです!」と私もキュンとするような幸せな報告を受けることが増えます。そのとき女性は確実に恋愛をしているのです。
以上が中嶋さんへのインタビュー内容だ。本題とはややズレるが、結婚相談所は数ある「入口」の一つに過ぎないという意見が新鮮だった。婚活アプリやパーティに比べればお金がかかる分だけ、出会いの数が保証され、カウンセラー(仲人)によるフォローも受けられる。「奥手」の人には向いているという特徴はあるが、結婚という出口にたどり着けるか否かは他の「入口」と変わらない。すなわち、本人の決断力にかかっているのだ。
決断とは、何を捨てられるかを決めることだと思う。「足るを知る心」と言い換えることもできる。自分と同じくいろいろ欠点のある相手だけど、ここを愛して信じている、だからずっと一緒にいたい。その取捨選択ができる人だけが、良き相手と恋愛し、穏やかな家庭を築くことができるのかもしれない。