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「興味のない仕事」に就職したほうがよいとき 仕事に何を求めるか

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 12月27日、東洋経済オンラインに「正社員になるため興味がない仕事をすべきか」と題する記事が掲載された。副題は、仕事にかかわる時間は思っているより長い、である。

 記事を書いた安井元康氏は「正社員になるためだけに興味のない仕事をする必要なんてどこにもありません。それでは将来への不安は解消しないでしょう。仕事は好むと好まざると、この先一生ついて回る自分の人生の一部であり、日々の生活時間の大部分を占める活動です」と述べている。たんに正社員というステータスのために転職をしても、きっと後悔するだろう。

 まったく同感だ。契約社員という立場で、将来に対し漠然とした不安があるようだが、結局のところその不安は解消しない。安井氏の言うように、正社員になったからといって、本当の自分自身が変わるわけではない。仕事を通して成長し、自分の居場所を職場でつくり上げ、他所にいっても通用する経験とスキルを積むことが重要である。そうすれば、自ずと正社員の道は開ける。必要な人材を、みすみす手放す企業はないだろう。

 しかし、だからこそむしろ、人によっては「興味のない仕事」に転職するという選択肢もまた生まれる。「興味のない仕事」によって培われる経験やスキルが、「本当の自分自身」に近づくために必要な場合である。つまり、興味のあるなしではなく、目指す自分の姿に向けて成長が遂げられるかどうかが、就職や転職をすべきか否かを決めるのである。

「興味のない仕事」を積極的にやろう

 就職のアドバイスをする際に、やりたい仕事に就くことを推奨する声がある。しかし仕事は、やりたいかどうかではなく、それが自分の人生に意味があるかどうかである。はじめにいかなる自分になりたいかを決めることが、よい人生を送るための第一条件である。

 かくいう筆者も、最初の仕事は営業職に就いたが、実のところ営業には、まったく興味がなかった。しかし学生時代から、日本の未来のために自分の創造したもので誰かを喜ばせる人になりたいと思っていたから、そのための力をつけようと、課題解決型の営業職を希望した。しかも配属を決める人事面談では、最前線の営業現場に出たいとか、相当ナメたことを言っていた。このコミュ障の筆者が、である。

 おかげで、たくさんの人に迷惑をかけたが(当初は宇宙人と呼ばれていた)、どうにかこうにか経験とスキルは得られた。それで、次のステップとして、企業の経営課題をテクノロジーで解決する会社に入ろうと思い、転職した。この技術に疎い筆者が、である。よく勉強したおかげで、転職先ではよい成績を収めた。いまでは調子にのって、大学で経営とか、よい生き方、働き方などを教えている。

 目指す未来のためには、強みを活かす視点が必要である。しかし、そのために足りないスキルがあるならば、それを伸ばすために、たとえ興味のない仕事であっても従事したほうがよい。たしかにきついことはきついのだが、ゼロから始めて力をつけ、一つひとつ課題をクリアするということは、単にできることをやっているよりも、喜びが大きい。仕事にかかわる時間は思っているより長い。充実した人生が送れるはずである。

戦略的に成長を遂げよう

 将来に対して漠然とした不安があるのは、現状のままではいけないと思っているのに、道筋を描くことができていないからである。よって、「本当の自分自身」に近づくための行動が伴わない。道筋を描くには、到達地点を明確にしなければならない。漠然とこうなりたいではなく、暫定的にでもよいのではっきりとした地点を定め、そこに向かって一歩を踏み出すのである。

 遠すぎる目標は、達成には至らない。だんだんとやる気がなくなっていき、諦めモードになっていく。スタンフォード大学教授のアルバート・バンデューラは、どうにかできるかもと思えるような自信=自己効力感を高めるためには、小さな成功体験を積み重ねることが重要だと述べている。将来に向けて、目の前の仕事で達成するものを決め、そのために頑張るのである。二つの視点が必要だ。一つは仕事の達成度であり、もう一つは自己の成長度である。いずれも定めておくことで、より大きな充足感を得られるだろう。自身をもつことで、次の一歩を踏み出す勇気が生まれる。

前にも述べたが、成長のためには心をしなやかにしておくとよい。スタンフォード大学教授のキャロル・ドゥエックによれば、硬直的な心もちの人は、自分の能力を固定的にみてしまい、失敗を恐れて挑戦をしなくなる。しなやかな心もちの人は、自分の能力は努力次第で伸ばすことができると考え、チャレンジ精神を発揮して一つずつ課題をクリアし、成長していく。いまはダメでもいいのである。いつかたどり着くことができるのだから。

 「興味のない仕事」において成果を上げるには、自分の人生への意味づけをおこなうとよい。その仕事は、自分を成長させてくれるために存在すると思えれば、がぜんやる気が出てくる。最初は無理をしてそう思う必要はない。ネガティブな物事についてもポジティブに捉え続けると、心が疲れてしまう。だからまぁ、興味はないけど、意味がありそうだからやってみるかとか、その程度でよい。そのような仕事でも、頑張ってやりきったと思える経験が得られれば、いずれ意味づけの力は伸びていくだろう。

 ところで学生から、目指すものは変わってもよいのか、と聞かれる。もちろんである。なぜなら、狭いワク、既存のパラダイムの中にいたら、見えない景色というものがあるからである。いま考えている理想とか、よい生き方といったものは、いまの自分の考えうる理想や生き方である。この先に進んでいき、様々な経験を積んでいったときには、もしかしたらさらによい理想や生き方が見えてくるかもしれない。だから、「興味のない仕事」でも、成長が遂げられると思ったなら、まずはやってみることである。もし違ったならば、別の仕事をやればいいだけだ。

 挑戦し続けることが、未来の自分をつくり上げる。「興味のない仕事」でも、人生に意味があるのなら、やってみてもよいのかもしれない。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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