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「日本経済、一寸先は闇」なのは当たり前だ 考え方から変えていこう

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

 10月18日、日本経済新聞に「国内企業の現在の主要事業、5年後は「見通しつかず」が7割超」と題する記事が掲載された。

 我が国の企業のうち、現在の主要事業の5年後の見通しが立たないと考えているのは、7割超。10年後となると、8割を超えるようである。理由は、ITの急速な進展などといった、社会的変化に危機感を持っている経営者がいるためである。

 元データは、これである。調査をみると、「通用する見通し」と回答した企業は15.7%、「わからない」は7.4%となっている。今回の調査の場合、見通しがあるかどうかが聞かれているのだから、「わからない」がある理由が、筆者にはよくわからない。いずれにせよ、わからないのであるから、見通しはまだ立っていないということになるだろう。そうであれば8割の企業が、5年後の予想がついていないということになる。

 筆者はこの結果に驚いている。なぜかというと、今後5年間の間、自社の事業がどうなるかについて「通用する見通し」である企業が、なんと15.7%もいるからだ。AIやIoTといった破壊的なテクノロジーが急速に発展しており、市場に新たなプレイヤーが続々と現れている昨今、自社は対策ができているから、まぁ大丈夫だろうと思っているのである。ここにおける正しい姿勢は、当然見通しは立っていない、しかし市場の変化には迅速に対応していく、といったものであろう。激動の時代が到来していて、一寸先のことは全くわからないことを、よくよく理解しなければならない。

 人によっては変化を脅威とみなすかもしれない。到来する未来に対し、不安や恐怖を抱く人のほうが多いだろう。不安や恐怖は、人の行動を抑制する。そうであるから、現状に対し、大丈夫だと考えようとする経営者がいることもまた、理解はできる。前向きな姿勢でなければ、ビジネスを行うことはできないのである。しかしながら、前向きになるために現状を正しく捉えようとしないことは、破滅に向かって歩き続けることを意味する。後ろ向きな姿勢と同じように、盲目もまた、成功とはかけ離れているといえよう。楽天的であることと楽観的であることには、行動において大きな違いが生じる。

 どうすればよいのか。今後の世の中を生き延びるための姿勢や考え方について、少しの間考えていきたい。重要なのは、変化を正しく捉え、行動を起こし続けることである。そのための姿勢を持つこと、気構えをもつことである。

変化は新たなビジネスの機会である

 人間は、物事を自らの観点から見ようとする。過去の経験を参照し、無意識のうちに希望を入れて解釈しようとする。人間には防衛本能があり、そのため変化が生じたときにも、自らを安心させることのできる理由を見つけ出し、正当化しようとするのである。場合によっては、変化が生じていることそれ自体から目をそむけようとする。とるに足りないこと、起こりえないこと、自分には関係のないことだと決めてかかる。かくして我々は、自らを脅かすものに直面したときには、誤った判断を下すのである。

 成功のためには、そこから逃れなければならない。マネジメントの父ピーター・ドラッカーは、変化を脅威ではなく、機会として捉えるべきであると述べている。変化は常に生じている。もしも変化を脅威とみなし、それに抵抗し、あるいは目を覆ってしまうようでは、次なる社会のうちに生きることはできなくなる。一方で、変化を機会と捉えるようになると、新たなビジネスチャンスに気づくことになる。なぜなら、変化によって世の中にはひずみが生じ、結果、新たなニーズが生まれるからである。だから、変化が起きていることに真摯に向き合い、自社にとっての新たな顧客を探したほうがよい。そうすれば、既存のビジネスに固執する必要はなくなる。

 さらにいえば、変化がなければ、自社は存在し続けることができない。なぜなら、顧客の欲求が満たされてしまえば、その顧客は自社を必要としなくなるからである。つねに満たされない誰かが存在し続けることが、企業が存在し続けるための条件である。したがって、変化は企業にとって、脅威にはなり得ないのである。ところで、既存のビジネスは、そのままの形では変化した後の社会に対応できない。そうであるから、既存のビジネスもまた、固定的であり続けることはできない。企業はつねにそのようにして変化し続けてきたのであって、AIやIoTの台頭する時代においても、それに適したかたちに変化すればよいだけである。

 変化は予測できない。誰かのひらめきや、偶然の成功などによって、市場の様相はまったく変わってしまうことが多々ある。既存のビジネスが5年後にも通用する見通しが立っているなどということは、あり得ないのである。自社のビジネスに代替する新たなビジネスは、明日にも市場に投入されるかもしれない。これまで培ってきた「強み」は、いまこの瞬間にでも通用しなくなっているかもしれない。我々にできることは、変化に対し、自らが変化し続けることだけである。日々新たな能力を得つづけようと努めることだけである。

それでも変化は不安の種である

 いかなる変化も、新たなビジネスの機会である。しかし、どうしても目の前の変化を脅威、リスクとみてしまい、行動することに不安や恐怖を覚えるのが、人間というものであろう。そうであれば、ものの道理に訴える前に、心のあり方を定めること、マインドセットから行っていくことが先決であろう。

 スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授は、しなやかマインドセットと硬直マインドセットの二つを挙げて、成果に向けたあるべき心のあり方について説明している。後者は、自分の能力を固定的にみる心のあり方であり、前者は、努力次第で伸ばすことができるという心のあり方のことである。硬直マインドセットの人は、つねに成果を収めていなければならないと感じている。失敗は許されない。ゆえに、リスクをともなう新たなことに挑戦せず、うまくいくとわかっていることばかり繰り返そうとする。ようするに、現状維持を求めるのが、硬直マインドセットである。

 それに対してしなやかマインドセットは、成長志向であり、ゆえにチャレンジ精神がある。いまはだめでも、学びによって力をつけることができれば、いずれ成果を収めることができると信じている。人間は、物事を完璧に行うことはできない。そうであるから、できる限りよい成果を生み出すために、日々の挑戦と、それによる学びを大切にするのである。硬直マインドセットの人が、一回限りの成果で自分の価値が決まってしまうと考えるのに対し、しなやかマインドセットの人は、自分の価値は成長の結果としてつくり上げられると信じているのである。

 どちらがより大きな成果を上げるかは、もはや言うまでもなかろう。そして、現状維持で変化を目指そうとしない硬直マインドセットの人は、日々努力し、自らの価値を高めているしなやかマインドセットの人と、実社会のうちで競争するのである。何度もいうが、既存のビジネスが5年後にも通用する見通しが立っているなどということは、変化を受け入れ、新たな学びによって能力をつけ、そしてビジネスを創造しつづける人が存するこの世の中においては、あり得ないのである。いまやっていることは明日には通用しなくなるという前提から始め、より力を培う施策を考えたほうがいい。

 最後になるが、マインドが硬直的な人は、頑張っている人を応援するとよいようである。なぜなら、頑張っている人を応援するうちに、それがよき姿勢であることを理解するようになり、自らも頑張ろうと思うようになるからである。心は、実際にそのように振る舞うからこそ、定められる。しなやかマインドセットの第一歩は、頑張る人、頑張る企業、成長に向けて変化しようとしている人や企業を称賛する姿勢から始まるのである。

 日本経済、一寸先は闇である。我々のビジネスの見通しも立たない。だが、それがいい。そのような社会でなければ、ビジネスは生まれない。成長することもできない。結局のところ、激動の時代とは、企業にとっては絶好の機会でしかないのである。

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皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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