新型コロナ感染症:「南極」観測隊は大丈夫か〜極地研に聞いてみた
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19、以下、新型コロナ感染症)が猖獗を極めている。ウイルスは地球全体に感染が広がっているが、南極ではまだ感染者が出ていない。日本の観測隊の状況について国立極地研究所に聞いてみた(この記事は2020/04/09の情報に基づいて書いています)。
これから南極は冬
SF作家、小松左京の初期の作品に『復活の日』(1964年)がある。細菌兵器によって人類がほぼ絶滅し、唯一、南極の各国観測隊と2隻の原潜が残存するという話だ。
南極大陸は、1961年に発効した南極条約により、どこの国にも属さないことになっている。一方、世界各国は南極観測基地を設営し、極地観測や生物研究などを行ってきた。
南半球の南極はこれから冬に入る。南極観測基地は多くの場合、夏隊と越冬隊に分けられ、ちょうど春先に各国の夏隊が南極を離れる。
今のところ、南極で新型コロナ感染症の感染例は出ていない。各国ともに南極に新型コロナウイルスを入れない対策を取り始めている。
WHOがフォークランド諸島の感染を発表したのが4月5日のレポートだった。フォークランド諸島は現在、英国が実質的に領有しているため、英国南極調査(British Antarctic Survey、BAS)の前進基地になっている。
BASは現在、南極に新型コロナウイルスを持ち込ませないよう、厳重な体制をとるとともに、夏隊の引き上げを始めたが、フォークランド諸島で足止めになっているようだ。だが、英国海軍麾下の王立研究船(Royal Research Ship、RRS)によって、帰国の途に就く算段ができつつあるという。
また、米国は南極などの極地に滞在する研究者らに対し、新型コロナウイルスのスクリーニングを行った。そして夏隊と越冬隊を完全に分離し、相互に接触しないようにしているようだ。
隔離された昭和基地
こうした夏隊と越冬隊の帰還・交代は日本の南極地域観測隊でも行われ、極地研究所によれば、第61次南極地域観測隊は2019年11月27日に日本を出発して南極へ向かった。同隊は、先に(2019年11月12日)日本を出発してオーストラリアのフリーマントルで待ち受けていた南極観測船「しらせ」に搭乗し、南極に到着し、現在は昭和基地に滞在中で帰国予定は2021年3月になっている。
昭和基地の様子。Via:国立極地研究所「南極観測」より
第61次夏隊、そして1年前から越冬していた第60次越冬隊は、帰りの「しらせ」に乗ってシドニーまで行き、その後にオーストラリアから2020年3月20日に帰国している。「しらせ」のほうは4月6日に帰国しているので、南極に残った第61次越冬隊が昭和基地から移動できる手段は来年までない。
極地研によれば、現在、南極で活動しているのは第61次越冬隊のみであり、新型コロナウイルスから完全に隔離された状態になっているため、感染防止についての特別な対策はとっていないとのことだ。南極観測の極地研究など、スケジュールの変更などはなく、こちらも特別な計画はないという。
また、昭和基地内の医療体制については、医療隊員(医師)2名体制であり、人工呼吸器、レントゲン装置など、一通りの医療設備は整っているようだ。
61次隊の隊員構成。Via:国立極地研究所
一方、オーストラリアの南極観測は、新型コロナ感染症によっていくらかの影響を受けているらしい。それは例えば、南極へ向かうスタッフの移動が制限され、物資の搬送に混乱が生じ、余分なコストがかかるといったことだ。そのため、南極での活動が縮小されるかもしれないとアナウンスしている。
日本の南極地域観測隊のように冬季は全く隔離されているのならまだいいが、米国やニュージーランドのように頻繁ではないが航空機による物資補給がなされている場合、南極に新型コロナウイルスを入れないよう、細心の注意が必要だろう。
オフシーズンでもあり南極観光は中止されているが、いずれにせよ世界でほぼ唯一、新型コロナウイルスがない南極大陸をこのままの状態に保っておかなければならない。小松左京の予言通りにならないことを願うばかりだ。