アトラクション化する映画館――『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の大ヒットから考える映画の未来
ランキングの逆転現象
12月18日に全世界一斉公開となった『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』。日本でもコスプレをしたファンが映画館に集まるなどのお祭り状況が見られましたが、週末のランキングはなんと2位。トップは『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』になりました。
これを受けて「正月映画頂上決戦は『妖怪ウォッチ』に軍配」などと報じられていますが、このランキングにはちょっとしたカラクリがあります。というのも、これはあくまでも入場者数を基準とした“動員ランキング”。逆に興行収入(売上)では、『スター・ウォーズ』がトップでした。
以下、簡単にデータを整理しておきましょう(数字は週末2日間)。
『妖怪ウォッチ』は、434スクリーンで、動員97万4557人、興行収入10億5781万円。
『スター・ウォーズ』は、958スクリーンで、同80万258人、同12億4502万円。
動員は17万人も『妖怪ウォッチ』が多いのですが、興行収入では2億円も『スター・ウォーズ』が多いという逆転現象が生じています。この理由は入場料単価です。計算すると、『妖怪ウォッチ』が1085円なのに対し、『スター・ウォーズ』は1556円と、その差は471円もあります。こうした差が生じるのは、『妖怪ウォッチ』の客層が入場料金の安い幼児や小学生が中心なのに対し、今回の『スター・ウォーズ』は4DXや3Dが中心なので単価が高くなったのです。また、公開前に筆者が分析したように、都心のTOHOシネマズで窓口料金が2000円に設定されたことも関係しているでしょう。
なんにせよ映画業界にとっては、稼ぎ頭の二作がともに大ヒットスタートをしたことは、喜ばしいことでしょう。
円安の中の外国映画
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の公開週末の全世界興行収入は5億2900万ドル(約641億円)となり、歴代最高記録を塗り替える大ヒットスタートとなりました。日本では「『妖怪ウォッチ』に負けた!」と報じられてはいるものの、前述のように興行収入ではトップスタートです。
今回の『スター・ウォーズ』は10年ぶりではありましたが、かなりの多くのタイアップ宣伝を展開し、若年層の取り込みにも成功しました。さらに主人公が女性ということもあり、レディース層にもかなりリーチしている様子がうかがえます。過去の興行成績を勘案すると、最終的には150~200億円まで到達することが予想されます。
日本では、この10年ほど外国映画は厳しい状況に置かれています。全体のマーケットが拡大しないなか、日本映画が優位な状況が続いています。昨年までの過去10年間で、外国映画がシェアを上回ったのは2005と07年の2回のみ。ここ3年ほどは40%を割り込むこともあるほどです。86年から05年までの30年間はずっと外国映画のシェアが上回っていたことを踏まえると、日本の映画市場にこの10年ほどで大きな変化が生じていると言えるのです。
それでもハリウッドが日本のマーケットを重視し続けてきたのは、世界第3位の大きな市場であることもさることながら、円高という要素があったからです。とくに09年から14年までの5年間は、1ドルが100円を切っており、2012年は80円を割る水準でした。日本における外国映画不振は、円高によって緩和されていたところもあったのです。
その例として参考となるのは、2001年から2011年までの11年間に8作が公開されて大ヒットした『ハリー・ポッター』シリーズです。1作目の『賢者の石』は興行収入203億円の大ヒットとなりましたが、その後日本では7作目の『死の秘宝 PART1』まで落ち続けていきました。特に5作目『不死鳥の騎士団』(07年)から7作目『死の秘宝 PART1』(10年)までの3作は、100億円を割り込み、この間だけでも26億円減っています。しかし、ドルベースではこの3作は8000万ドルをキープしており、大きな変化はありません。これは円高のおかげだったのです。
そうした状況にここ数年で大きな変化が生じていることは言うまでもありません。2013年以降のアベノミクスにより、1ドルは80円から120円と大きく円安に振れました。先日、『ミッション:インポッシブル』シリーズを抱えるパラマウント・ジャパンが年内で解散することが発表されましたが、そこにも円安の影響は大きかったはずです。
アトラクション化する映画館
今年は『スター・ウォーズ』の大ヒットだけでなく、『ジュラシック・ワールド』や『ベイマックス』など、興行収入50億円を超える外国映画が5本も現れました。これによってもしかすると今年は、外国映画のシェアが久しぶりに日本映画を上回るのではないかとも予想されています。たとえ上回らなくとも、拮抗した結果に落ち着くことになるでしょう。その背景には、3Dや大画面のIMAXシアターでの公開や、普及が進む体感型の4DX対応の作品によって、ハリウッド映画の入場料単価が高くなっている傾向が挙げられます。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』は、その流れにさらに加速する可能性もあります。
しかし、それで映画産業全体が拡大するかといえば、なかなかそうも言い切れません。2010年、『アバター』など3D映画のヒットによって、日本の総興行収入は2207億円と過去最高を記録しましたが、翌2011年は(東日本大震災が起きたこともあり)1812億円と、400億円のマイナスになりました。はじめて総興収2000億円を超えた2001年以降の14年間の平均は2007億円ですが、10~11年の平均は2009.5億円と、その数字は平均に近いところに落ち着きます。一年間、映画館が活況であっても揺り戻しが来てしまうのです。
そして今後考えられることとしては、4DXなどに適応したハリウッドのアトラクション系の映画のさらなる浸透と、そうした特性を備えていない非ハリウッド映画の停滞です。今年は、『進撃の巨人』や『海街diary』などの日本映画が、期待ほどのヒットしない傾向がうかがえました。期待以上の結果を見せたのは、『バケモノの子』や『ラブライブ!』など、やはりアニメが目立ちます。つまり、派手なハリウッド大作が強く、地味な日本映画が弱いという傾向が出ているのです。
これには、もうひとつの変数を考えなければなりません。それが今年始まったネットフリックスやAmazonビデオなどの動画配信サービスです。特にネットフリックスは4K映像にも対応しており、映画館と同等の映像を自宅で楽しむことができます。
映画会社もそうした状況に手をこまねいているわけでもありません。12月1日から本格的なサービスをスタートしたbonoboは、東宝や東映、松竹など34社が参加した映画配信サービスです。そこで、東映の社長でもあり、業界団体・日本映画製作者連盟の会長でもある岡田裕介さんが、「できるだけ早く(新作映画の)配信サービスをできるよう努力したい」と発言しました。当面は、レンタルやテレビよりもいち早く新作映画の配信を始めることになると思いますが、将来的には劇場と同時公開で映画を公開することも考えられます(インディペンデント映画では5、6年前から配信サービスは行われています)。映画館とテレビの解像度が同等になり、さらにハリウッドほどの予算をかけたアクションやCGを使えない日本映画にとっては、それもひとつの生き残り戦略だと捉えられているのです。
海野十三の予言
これは、太平洋戦争が始まる2年前の1939年に、SF作家の海野十三が書いたエッセイです。テレビの時代が来ると主張する海野は、この後の文章でまるで未来を見てきたかのように、野球中継や宇宙からの中継を予言しています。一方、「映画はぺちゃんこに潰れる」という予言は、必ずしも当たったとは言えません。確かにテレビによって映画は大きな打撃を加えられましたが、76年後のいまも生き残っているからです。
産業的に言えば、映画は数億から数百億円の大きな予算をかけることができる映像作品です。「コピーメディアをみんなで観る」という独特のメディアが続いてきたのも、入場料金という売上を期待ができたからです。もちろんそれはハイリスク・ハイリターンなため、積極的なグローバル市場の獲得が必要とされ(ハリウッド)、国内市場が大きな国(日本)が有利な状況も続いてきました。
しかし、動画配信サービスとテレビの進化は、今後映画館に大きな影響を与える可能性があります。又吉直樹の芥川受賞作『火花』の実写映像作品がネットフリックスで公開されるように、お金を回収するビジネスモデルがしっかり確立されれば、映画館の存在は相対化されるのです。
アトラクション化する映画館(※)やそれに適応した『スター・ウォーズ』や、数年前の『ゼロ・グラビティ』のような映画は、映像作品を取り巻くこうした状況における映画館の生き残り策でもあるのです。このとき問題となるのは、やはりハリウッドほどの予算をかけられない日本映画などです。ドラマ発の映画化だけでなく、バラエティ番組発の『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』が上映されてヒットしたように、テレビと映画館の境界はさらに曖昧なものとなっています。
現状を保守していくのか、それとも動画配信サービスに傾斜していくのか、あるいは未知の独自路線を探るのか――今後、さらに多くの映画人が日本映画の将来を講じることになるでしょう。なんにせよ、日本映画のフォースも覚醒してほしいものです。
※……このあたりの議論については、トム・ガニング「アトラクションの映画――初期映画とその観客、そしてアヴァンギャルド」(1986年/長谷正人・中村秀之編『アンチ・スペクタクル――沸騰する映像文化の考古学』2003年・東京大学出版会所収)、渡邉大輔『イメージの進行形――ソーシャル時代の映画と映像文化』(2012年・人文書院)などを参照のこと。
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