計算したら驚きの金額が!『巨人の星』の飛雄馬が、クリスマスパーティーで大散財していた!
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
クリスマスにぜひとも考えてみたいのが、星飛雄馬の「クリスマス散財」だ。
星飛雄馬は、言わずと知れた『巨人の星』の主人公。
幼い頃から、ひたすら巨人の星を目指し、日々特訓に明け暮れた熱い男である。
テレビアニメの第92話「折り合わぬ契約」に、そんな飛雄馬がクリスマスパーティーを開く、というエピソードがある。
野球に命をかける男としては、それだけでも意外だが、このパーティーにかける飛雄馬の意気込みがすごかった。
会場を設営し、手描きの招待状を送り、でっかいケーキを特注し、料理やプレゼントも取り揃え、三角帽子をかぶって客を待つ!
しかもその結果は、あまりに気の毒なものに……!
今回は、驚くべきこのパーティーの実態に迫ってみよう。
それはいかなるパーティーで、どんな盛り上がりを見せたのか?
この第92話は、YouTubeなどでも積極的に公開されるようになっているので、ぜひアニメもご覧ください。本稿の筆者の計算も、より楽しんでいただけると思います。
◆お前は野球ロボットだ!
飛雄馬がクリスマスパーティーを開いたのには、ちゃんと理由がある。
きっかけは、来日した大リーガー・オズマの一言だった。
「お前は父親に、俺は球団に、ただ野球をやるために製作された野球ロボットだ」。
幼い頃から野球ばかりやってきたため、人間らしさをなくした。
そう指摘されたわけで、ショックを受けた飛雄馬は、暴走する。
契約更改でムチャな要求を突きつけ、知り合った青年に誘われてナンパに出かけ、女性歌手とゴーゴーに興じる。
俺は断じてロボットなんかじゃない!と思う飛雄馬にしてみれば、年俸交渉でゴネるのは「ロボットは金に執着しないから」であり、女性と遊ぶのは「ロボットは恋をしないから」。
彼なりに筋は通っているのだが、焦れば焦るほど世事に疎い野球ロボットであることが露呈してしまう。
だが筆者が思うに、クリスマスパーティーだけは、飛雄馬が野球ロボットではないことを証明する絶好の機会だろう。
劇中、彼はクリスマスのことをこう言っている。
「ケーキ飾ってドンチャン騒ぎするやつ」。
そういう粗雑な解釈が問題という気もするが、実際イブに大騒ぎをする日本人は多いし、クリスマスに関しては、飛雄馬の常識と一般常識は合致している……といえるのではないか。
よし、チャンスだ、飛雄馬!
イブの1週間前、飛雄馬は準備に取りかかる。
彼はジャイアンツの二軍宿舎に住んでいたが、2階の空き部屋をパーティー会場に借りたらしい。
荷物を運び出し、クモの巣を払い、ゴミを掃き出し、壁にペンキを塗り始る。
ペンキ!? 寮なのに、勝手にペンキなんか塗っていいの!?
いやいや、この際そんな小さなことはどうでもよろしい。
このとき飛雄馬は鼻歌で「ジングルベル」を奏でているのだ。
スバラシイ。鼻歌とはまことに人間らしく、野球ロボットから脱出できるのではないか。
街でケーキを注文すると、招待状をしたためる。
ところが、その招待客というのが、親友の伴宙太、阪神の花形満、大洋の左門豊作、そして明子ねえちゃんという4人。
ジャイアンツの宿舎に、タイガースやホエールズの選手を呼んで、ドンチャン騒ぎをやらかす気だろうか!?
う~ん、そういう常識のないことをするから、野球ロボ……。いやいや、この言葉はいまの飛雄馬にはあまりに酷だ。
いよいよ、当日がやってくる。
会場はきらびやかに飾りつけられ、クリスマスの華やいだ雰囲気に満ちている。飛雄馬はがんばったのだ。
そして、部屋の中央に置かれたテーブルを見ると……ぬおっ、ケーキがものすごくデカイ!
なんと、三段重ねだ。
そして、飛雄馬の座高を85cmと仮定して比較すると、直径は上段が36cm、中段が60cm、下段が90cm。高さは81cmもある。
総重量は推計163kg! 5人で食べるには、あまりにも大きくないですか。
ここまで巨大なケーキとなると、値段も高かったに違いない。
そのうえ、テーブルには大きな七面鳥の丸焼きが2羽も並んでいるし、ツリーは天井に届きそうなほど立派だ。
これは心配になる。
彼はたった一晩のために、いったいいくら使ったんだろう!?
◆ペンキだけで3万円弱!
会場の設営から、順を追って推測してみよう。
このパーティーが開かれたのはジャイアンツが4連覇を達成した年、すなわち1968年。
いまより物価はかなり安かったはずが、実感しやすいように現在の価格で考えよう。
まずはペンキ塗り。
借りた部屋は、目測で縦8m×横6m×高さ2.5m。壁と天井をすべて塗れば、総面積は118m²になる。
ホームセンターで調べると、ペンキ代は1m²あたり270円というところだ。
すると合計は、
◎室内用ペンキ代……3万1860円
もちろん、刷毛も必要だ。飛雄馬はローラー型の刷毛を使っていた。
◎ローラー刷毛……920円
また飛雄馬は、胸当てのついたオーバーオールを着用していた。
普段はこんな格好はしないだろうから、これもパーティーの準備のために買ったのだろう。作業着店で調べたら、よく似たものが
◎綿100%オーバーオール……3900円
続いて、招待状。
はがきはもちろん、絵の具も絵筆もパレットも新たに買ったはずだ。
画材屋さんで探してみると
◎水彩画セット(絵の具18色・筆・パレット)……3600円
◎ハガキ4枚……252円
まだパーティーが始まっていないのに、早くも4万532円の出費である。
◆ツリーだけで6万8500円!
いよいよ、パーティー会場の飾りつけ。
天井と壁は、赤と緑の2色のモールで、下のイラストのように飾られていた。
赤と緑の8m×6mの部屋をこのように飾るには、計144mのモールが必要だ。
モールはリボン状のもので壁に留められ、そこにはサテンボールが3個ずつ吊り下げられている。
このボールは天井のモールからも多数吊るされており、合計数は推定84個である。
また、天井中央には、大きなベルもぶら下がっている。
パーティー雑貨の店で調べると、これらは次のような金額となった。
◎モール144m……4万3200円
◎サテンボール84個……1万920円
◎ワイヤーリボン20個……5800円
◎天井中央の大きなベル……1700円
そして、壁際には、天井に届きそうなクリスマスツリーが据えつけられている。
高さを2m20cmと考え、専門の業者に問い合わせてみたところ、これが高い!
◎クリスマスツリー……6万8500円
◎クリスマスツリーの飾り……2800円
ここまでで、すでに17万3452円だが、まだまだ先は長い。タクシーで北海道へでも向かっているような気分だ。
部屋の中央には、テーブルと5脚の椅子が置かれている。
これらは寮の備品を借りたのかもしれないが、さすがにテーブルクロスとテーブル上の食器類は、自分で購入せねばなるまい。
クロスは12m²ほどか。
グラスはなぜか15個ほどある。飲み物はコーラだけなのに、何に使おうというのだろう。
もうあんまり、ムダ遣いしないほうがいいと思うが。
◎無地のテーブルクロス……3万6千円
◎27cmの皿5枚……7500円
◎ナイフ&フォーク5組……4500円
◎グラス15個……1万5千円
◎ナフキン5枚……1500円
◎ケーキ用ナイフ……8800円
◎栓抜き1個……300円
◎コーラ10本……1330円
このテーブルをよく見ると、招待客の座席を示す名札が立ててある。
右から順に、明子姉ちゃん、花形満、伴宙太、左門豊作、そして自分。
居酒屋のカウンターじゃあるまいし、5人の出席者をなぜ横一列に並べる!?
そんな座り方では隣の人としか話ができず、パーティーは盛り上がらないと思うが。
そしてさらに、椅子の背には赤いブーツがかけられ、また、飛雄馬の背後に設置されていると思しきソファには、サンタクロースの人形が置かれている。
どちらも出席者へのプレゼントなのだろう。
◎ブーツ4個……2400円
◎サンタクロース人形4体……1万5200円
これらのブーツとサンタクロースには、それぞれ名前が書いてある。
参加者5人なのに名前が必要ということは、ブーツの中のプレゼントやサンタの人形は、一人一人違っているのだろう。どこまでも一生懸命な人である。
しかし、ここまでの小計は26万5982円……。
◆ケーキはいくらなのか?
さて、いよいよ超大物、ケーキである。
ある有名ケーキ屋さんにサイズを伝えて、特注料金を聞いてみたところ、「え~っ、本気でこんなモノ作りたいの!? これほど大きいと、各段に足を入れないと潰れるよ。箱代だけでも何万円もかかるし……」と不審がりながらも、ざっと見積もってくれた。
◎特注クリスマスケーキ……46万円(うち4万円は箱代)
どっしぇ~ッ!
七面鳥も相当の大きさで、ケーキと同様に計算すると、長さが47cm。
これほどデカイ七面鳥もあまりいないと思うが、重量を推計すると1羽あたり23kgである。
さすがの飛雄馬も、これを調理はできまい。調理済みの市販品をもとに、金額が重量に比例するとしたら
◎巨大七面鳥2羽……14万円
もうカンベンして欲しいが、まだある。
飛雄馬は、三角帽子をかぶって招待客の到着を待っている。
この帽子、招待客の分が見当たらないが……などと心配している場合ではない。
ノリノリの格好とは裏腹に、飛雄馬は寂しそうに肩を落とし、ときおり壁の柱時計を見上げている。
招待客がなかなか来ないのだ。
気の毒だが、それはそれとして、この帽子と時計も費用に加えなければ。
◎柱時計……1万8千円
◎三角帽子……250円(自分の分だけ)
こうして出ました、合計金額。
〆て88万4232円!
うひょ~っ、初めてのクリスマスパーティーでこんな大盤振る舞いをするとは、もはやアキレを通り越して感動的ですらある。
ぜひとも盛大に盛り上がっていただきたい。
◆壊したら弁償だよ!
ところが……!
3時間待っても4時間待っても、招待客が現れない。
そして、ついに最後まで、誰一人来なかったのである!
飛雄馬が三角帽子をかぶって待っていた頃、花形は阪神の同僚と談笑し、左門は弟妹たちとケーキを食べていた。
2人とも飛雄馬とは野球の勝負をしたいのであり、クリスマスを祝う気など毛頭なかった。
明子ねえちゃんは父・一徹に反対されて外出できず、伴は飛雄馬の行動が理解できずにいた。
こうして大枚88万円をかけたクリスマスパーティーは、参加者5人のつもりだったのが、結局1人!
この厳しい現実を突きつけられて、飛雄馬はどうしたか。
「結局、誰も来なかったというわけか……」とつぶやくや、椅子を壁に叩きつけたのである。
わかる。わかるぞ、その気持ち!
でもバラバラに砕け散ったその椅子は、たぶん寮の備品。
間違いなく弁償を迫られるので、ネットで形と大きさが似たものを探すと、
◎椅子1脚……1万8千円
もうそのへんでやめておけ、飛雄馬。
などという筆者の心配も空しく、こうなると炎の男は止まらない!
テーブルごと卓上の豪華な料理を引っ繰り返し、サンタクロースの人形を床に叩きつける!
壁や天井のモールを引きちぎり、別の椅子を叩きつけて破壊し、窓のカーテンを引き裂く!
そして、その窓をめがけて、巨大なクリスマスツリーをぶん投げる。
ガラスはもちろん、窓の木枠もぶち壊して、ツリーは窓の下に落下していく……。
かわいそうである。飛雄馬が本当にかわいそうだと思う。
しかし、筆者のほうも、ソロバンならぬコンピュータを弾く手が止まらない。
飛雄馬が弁償すべき金額はいくらか⁉ 野球ロボットvs計算ロボットの壮絶なる死闘……!
◎椅子もう1脚……1万8千円
◎カーテン2枚……9千円(1枚100×135cmで4500円)
◎窓2枚……23万円(180×90cmの木製窓)
◎室内用ペンキ代……3万1860円(汚したので、たぶん塗り直しを求められる)
これらの超過料金が合計30万6860円。
先ほどの金額にこれを加えると、なんと119万1092円!
むっひょ~、大台に乗ってしまった!
う~ん、加減を知らないにもホドがある。あまりに金をかけすぎだ。
だが、ここまで突っ走ってしまう男は、決して野球ロボットなどではない。
あまりにも人間らしいクリスマスの暴走だ。
不器用すぎる飛雄馬を、温かい目で見守りたくなるではないか。